月と六ペンス 新潮文庫(1959/09) サマセット・モーム(著)中野好夫(訳)
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タヒチに行って、この本を読むと・・・, 2005/2/12
この本でタヒチが舞台になるのは後半の三分の一です。しかし、ストリックランドの物語のクライマックスはタヒチが舞台といってよい程なので、タヒチの景観と人々はとても重要な要因となっています。
そこで、私もタヒチへ行ってみました。残念ながらゴーギャン紀行でも「月と六ペンス」紀行でもなく、普通のバカンスでしたので、この小説の舞台を巡ったわけではありません。でも、到着すると首にかけてくれるレイのティアレの白い花は、49章の言い伝えを身近に感じさせてくれます。熱帯のジャングルを抜けて島の背をなしている丘の展望台まであえぎあえぎ登る道や、地元の人たちの住む村落を2,3時間歩く道では、例えば、52章の情景の理解を桁違いに生き生きしたものにしてくれました。
この本が出版されたのは80年以上昔であり、モームが訪れたのは更にその前。その時代のタヒチがどれほど現存しているかを測ることはできませんが、少なくともモームの描く「ヤシの木の林」や「陸蟹」や「素木のままのバンガロー」などや多くの風景は存在しています。静かな星空と人々の陽気な笑顔は健在です。観光要素と機械化されプラスティック化された現代要素を取り除く想像力さえあれば、モームの時代を思いつつこの本のタヒチを読むことができます。
タヒチへ行く方は、行く前でも行ってからでも良いので、タヒチとヨーロッパ文明とのギャップを思い浮かべながらこの本を読んで人間と芸術の不可解とも言える奥の深さを感じてみてください。