時の潮  高井有一著  講談社 (2002/08)

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「昭和」とは私たちにとって何だろうか?,
2003/1/19

「昭和」が終わったあとのほぼ1年間に、熟年に足を踏み入れたジャーナリストの主人公が、その仕事と生活を通して、天皇、戦争、結婚、家庭、人生、同僚などについて東京は下町、湘南は葉山の四季の変化の中で思考をめぐらす。そのことは、昭和を振り返り、その時代がいったい何だったのか、それが新しい時代とそこに生をおくるであろう日本人、老若世代の日本人にとって何を意味するのか、じっくり考える素材を提供する。結論らしきものは明確に示されていないが、方向は自ずと浮かんでいて、その方向で読者が自由に考究できる仕組みになっている。その方向とは、何のしがらみにもとらわれず、事実の積み上げからみえてくる方向とでも言えば良いであろうか。私も、読んだ後、その考究を折々に牛の反芻するごとく続けている。
 なお、「失われた90年代」や昨今の過激な構造改革とその下での人々の抱える課題は、執筆年代からして言うまでもなく扱われていない。それは、別の小説で展開されて然るべき課題である。

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