即興詩人 (上・下巻) ワイド版岩波文庫 岩波書店 (1991/01) ハンス・クリスチャン・アンデルセン(著) 森鴎外(訳)
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(上巻)
声を出して読む日本語にふさわしい文語文, 2003/1/14
内容については、下巻のレビューに譲って、この作品の日本語に話題を絞ろう。
現代人、特に若い世代には、決して読みやすいとは言えないかも知れないが、日本語のかつて持っていたリズム感などの美しさを体験するには、この本のどこでも良い、気に入ったところを気の向くままに声に出して読むと良い。このことは、本版の校訂者も勧めており、ルビを振るなどにおいては、それを目的としたとのこと。「ミラノ、霧の風景」で有名になり急逝してしまった須賀敦子さんは、イタリア留学に際して、お父さんから「日本語の美しさを忘れぬよう」とこの本を持たされたという。鴎外によると「国語と漢文とを調和し、雅言と俚辞とを融合せむと欲せし、放膽にして無謀なる掌試」とのこと。けだし、声を出して読む日本語にふさわしい文語文となっている。
(下巻)
即興詩人とするイタリア紀行、 2003/1/14
筋書きは、主人公アントニオの生い立ちから流離、悲恋を経て即興詩人として成功し、美しい妻を娶る、という平凡なラブストーリーであって、それ自体、面白くも何ともない。しかし、リズム感に満ちた言葉に導かれて読み進むと、19世紀半ばのイタリアの土地々々を実に印象深くたどることになる。アントニオとするイタリア旅行というわけ。ローマ、アッピア街道、ナポリ、ベネチア、ミラノなどを含むので、現代と比較するのも面白い。ゲーテの「イタリア紀行」は、18世紀の中後半であるので、これをも含めて、3世紀にまたがる比較をしつつ読むのも一興かも知れない。安野光雅さんは「繪本 即興詩人」で現代との比較をしつつ現地を訪れている。