静かな大地 池澤 夏樹著 朝日新聞社 (2003/9/19)
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これは「日本人」の物語だ, 2004/3/28
「静かな大地」は北海道の物語であって、静内という一地方の物語ではない、と読みながら思った。アイヌはカムイを想いつつ自然界と一体になって暮らしてきた。そこに和人が、北の防備と土地・資源の開発を旗印に、松前藩の支配を幾何級数的に強化して人と資金を注ぎ込み、侵食してきた。そこでは大自然を舞台にした宗形一家とオシアンクルたちのたどった歴史のドラマが多彩な筋書きで数世代にわたって何万例も繰り広げられた。そうした数え切れないほどのドラマのなかでも優れてドラマチックな物語・・・それが「静かな大地」である。
池澤夏樹の描く宗形兄弟の生き様から、またはアイヌの神謡等々から、つまり、この小説から、私たちは何を感じ取るか。自然とのつきあい方を考えるも良し、北海道の自然の陰陽を知るも良し、日本の近代を見直すも良し、21世紀中葉を想うも良し、・・・。すぐれた文学作品がそうであるように、読者それぞれの読み方ができる。そして私は読み終わった時、「静かな大地」は北海道の物語ではなく「日本人」の物語だ、と思った。