されど、わが満洲   文藝春秋編纂
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今の時点でしっかりと咀嚼すべき「満洲」の手記,
2005/5/30

手記のもつ迫真力。読み出して巻を擱く能わず。

ある人は、瞬時に来り去って行く春のすばらしさなど満洲の自然の美しさを目に焼き付けている。夢を実現しようと張り切って充実した日々を送った若き日の思い出。農民をはじめ多くの中国人から親切にしてもらった戦中戦後の記憶。終戦直後の悲惨だった無蓋貨車での逃亡の日々。数え切れない生き地獄。・・・・・・

「文藝春秋」昭和58年9月号に収録された手記とそれに収めきれなかった一部を補充して全73編からなる体験記。

寄せられた手記の数は、巻末に掲げられた投稿者一覧をみると、採用された手記の十数倍にものぼる。終戦当時、満洲にいた日本人は155万人といわれるが、それらの人々に、本書に見られるようなそれぞれの満洲があると思えば「満洲」の重さがとてつもないものに思えてくる。そして、半世紀の時が記憶を研ぎ澄まさせもし、悲劇をも淡々と書き綴ることを可能にした、その歳月のちから。

「満洲」とは何だったのか、人間とは、戦争とは、植民地とは何なのか。王道楽土、五族協和などを信じ純粋に願って満州に渡った人々。その人達だけでなく、当時、ほとんどの国民は、「満洲」を侵略とか不正義と考えるのではなく、世界に伍して進む輝かしい勇姿と思ったというそのことを、私たちは今の時点においてしっかりと咀嚼する必要がある。私は、この本を読んで、それらを陳腐として避けるのではなく、繰り返し考えている。

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