梁塵秘抄 うたの旅 桃山 晴衣(著) 青土社 (2006/12)
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古代を引き寄せ梁塵秘抄を甦らせる旅, 2007/4/18
「野のうた、衆のうた」を求め続けてきた歌い手である著者の、主として梁塵秘抄をめぐる心の旅。如何にして梁塵秘抄に出会い、読み解き、後白河院の口伝を理解し、美濃青墓(おうはか)などゆかりの地を訪ねそこに何を見出し何を思い何を得たか、そして現代あるいは将来にとって梁塵秘抄はどういう歌なのか、などを感性豊かに、時にそこはかとなく、また時に極めて論理的な結論を書き付けています。この本を読むと、あるいは梁塵秘抄に関し、あるいは日本の衆の歌に関し、そのほか、画期的な発見をする専門家もいらっしゃるのではないか。それほどに示唆に富むフレーズに出会うのです。
古い文化を復元する試みは世に多いですが、それには断片的情報を元にそれらの間を内挿して(またはなぞって)復元する場合と外挿して復元する場合があるでしょう。梁塵秘抄を音楽として復元する場合は、必然的に外挿になるでしょう。それはほとんど不可能事と思われます。しかし、その困難さを避けるかのように、著者は、復元ではなく、古代を引き寄せる形で「我らのうた」として梁塵秘抄を甦らせようとした、と書いておられます。この本から分るとおりの豊かな感性をもち、修行と勉強を積んだ著者が、どのようにそれを成し遂げたか。この本を読みつつ著者のうたう梁塵秘抄を聴いてみたくなりました。
また、西洋主流の近代以降の日本の音楽に対し、それ以前の流れを客観的事実を以て現前させる動きがもっと大きくなって良いと思うのですが、この本もそんな動きのひとつに位置づけることが可能かも知れません。