老子 蜂屋 邦夫(訳注) 岩波文庫 (2008/12)
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この岩波版「老子」の特徴は・・・, 2009/4/5
岩波文庫になぜ「老子」がないのだろうか?とずっと思ってきました。そこに、昨年末(2008年12月)、この本が出たのです。読んでみて、その疑問に対する答はまだ分からずに、この岩波文庫本の特徴が見えてきました。結論的には、入門者は現代語訳を、専門的には注に注目、というのがこの本の読み方の基本でしょう。それは、以下のような事情によります:
構成は、全81章、各章毎に、現代日本語訳、訓読文、原文、注の順ですが、まず何よりも日本語訳が簡潔で分かりやすいことがありがたい。原文、注釈がわずらわしく感じたり、あるいは、内容を通覧したいときには、日本語訳だけ読めば良い。
注は、私のような素人にはなじめないというか、詳しすぎると感ずることも多いです。対校というのだそうですが、「○○本ではこうなっているが、△△本ではこうである」という情報を使ってオリジナル・テキストを推定するような解釈を試みます。この対校が詳しいのもこの文庫本の特徴です。この本が他の文庫より厚いのもそのせいです。
そして、最大の特徴が、対校に関して、1973年に湖南省馬王堆で発掘された帛書(はくしょ)の情報をたくさん取り入れていることです。帛書によって、老子の最古のテキストが従来のもの(708年)から一気に900年も遡ることになったのですからすごいことです。その後の研究成果が、本書ではおおいに生かされているのです。金谷治による講談社学術文庫「老子」も帛書を踏まえているのですが、厳密にいえば注の部分は前半が解説で後半が注となっていて、対校は注部分で記されていますが、帛書のことはあまり目立ちません。
構成は、校注者により違うことが多いのですが、上記金谷「老子」の構成はこの岩波「老子」と同じです。小川環樹による中公文庫「老子」の構成は、訓読文、原文、現代日本語訳、注、解説。諸橋徹次による大修館書店「老子」は、原文、概要、パラグラフ毎訓読文、同現代語訳、同注です。要するに、この構成から、校注者の考え方の一端が読み取れます。「老子」の世界にこれから入ろうとする方は、そうしたところも参考にしてどの本を選ぶかを判断することも役に立つかも知れません。