私、レオーノキューストはモリーオ市に勤めていた。競馬場を植物園に改装する仕事のために番小屋に山羊を連れて住み込み、役所に通った。ある年の5〜10月の物語を思い起こす。
1,遁げた山羊
ある日、起きると山羊がいない。探しに行った田園で、ファゼーロがその山羊を連れているのに出会う。ファゼーロは、ポラーノの広場が、昔あったというように復活しているらしいのだが、探しても見つからない、という。そんな話をしていると、百姓がファゼーロを探しに来て帰るように言う。彼らは、田園の陽炎の中へ帰ってゆく。わたしも山羊を連れて帰った。
2.つめくさのあかり
十日ほどした夕方、ファゼーロが羊飼いミーロと連れだってやってきた。この前約束した地図をとりに来たのだ。ふたりは、地図を拡げて、ポラーノの広場のあり場所の見当をつけ出かける。間もなくつめくさのあかりがつく。よく見るとそのあかりに番号がついている。番号が5000になるとそこがポラーノの広場だという。気がつくと月が出かかっており、どこからともなくセロかバスの震えるような音がする。蜂が月に浮かれて飛んでいる。しかし、さらに西北の方角からトロンボーンかバスのような音がする。別世界にいるよう。山猫の馬車別当に出会うが、彼は、その場所を知ってるが、教えない、と言って行ってしまう。ファゼーロを、その姉ロザーロが呼んでいる。この日は、皆、そこで分かれて帰って行った。
3.ポラーノの広場
それから五日目の夕方、ファゼーロが、ポラーノの広場まで印を付けたから行こう、と誘いに来た。つめくさの葉の爪あとのような紋も見えなくなり、ふたつめの樺の木の印ですっかり暗くなった。しかし、あとは西へ行くだけ、青い光が見えて皆集まっている。「昔話の通りのことが本当にあるのだろうか」などと興奮してくる。そこには、山猫博士デステゥパーゴもいて、我がもの顔に歌を歌ったり威張りくさっている。ミーロも歌う。ファゼーロが山猫博士を風刺して歌うと、それがいけない、と決闘になる。山猫博士は意外に弱く負けてしまう。博士が帰ってしまうと、実は、山猫博士が来年の選挙のために、ただで酒を飲ませる場を作ったんだと分かる。二十日の月が昇った頃、皆は別れて帰った。
4.警察署
警察から呼び出しが来る。ファゼーロが行方不明だという。ロザーロも訊問された。デステゥパーゴも行方不明とのこと。仕事明けの夜や日曜にずいぶん探したがみつからない。そのうちに、どこかにきっといる、と思えるようになってきた。
5.センダード市の毒蛾
私は、8月、イーハトーヴォ海岸地方に調査のため出張を命じられた。終わって、最後にセンダード市に行ったところ、そこは毒蛾が出て大騒ぎ。夜は火をたいて虫をそこへ引き寄せて殺したりしていた。明日に備え床屋に寄ったところ、隣の席にデステゥパーゴがいるではないか。こっそり後をつけて、ファゼーロはどこだ、と問い詰める。「あの子どもはきっとどこかで何かしてゐますぞ」という。
6.風と草穂
出張から帰って報告を済ませ、うとうと眠っているのを起こされると、そこにファゼーロが立っていた。センダードで革の仕事をしていた、という。ポラーノの広場の向こうに工場を開くという。草穂のかげのつめくさが咲いているなかを広場につくと、そこにはミーロたち仲間がいる。一生けん命さがしたポラーノの広場は「選挙につかふ酒盛りだった」が「ほんたうのポラーノの広場はまだどこかにあるやうな気がしてぼくは仕方ない」「ぼくらはぼくらの手でこれからそれを拵へようでないか」「こんやは新しいポラーノの広場の開場式だ」それから3年後、彼らはりっぱな産業組合を作り町へハムや皮や醋酸やオートミールなどを送り出すようになった。あれから7年目、トキーオにいる私のもとへポラーノの広場の歌の楽譜が送られてきた。 |