土壌学の基礎―生成・機能・肥沃度・環境
松中
照夫著 農山漁村文化協会
土の不思議をロマンの香りにのせて解き明かしてくれる本, 2004/10/11
食料・環境問題に目を向け、土のことを知りたくなったら、この本をひもといて下さい。専門的すぎず、それでいて正確に土壌学の知識を解説してくれています。土に魅せられてその不思議を解いてきた先達やゆかりの土地などにまつわるエピソードを交え興味深く読ませる書きっぷりは、著者の人柄を想像させます。
著者は、農業改良普及員や地方の農業試験場を経て大学で後進の指導に当たっておられると奥付上に記されています。土に農業の現場近くで接し、それを深遠な学理に結びつけて紹介しているこの本から、私は宮沢賢治を思い起こします。賢治は、盛岡の高等農林学校での土壌学研究から離れて、理想に燃えて農村で働く道を選んだけれど、この本の著者は、農業の現場近くで土壌学を学び、農業や環境と土壌との密接なつながりをロマンの香りに包みつつ私たちに示してくれます。賢治とは違う道筋で、賢治の理想を現代に引き継ぎ生かしているように感じました。
21世紀は、食料でも環境でも、土壌の役割が見直される時代です。その時に、この本が果たす役割は大きいと思います。この本は、いわゆる教科書でもあります。教科書は、乗り越えられるものでもあります。それがないと科学の進歩はないのですから。その意味では、この本に書いてあることを現場に役立てながら、書いてあることを乗り越えるような知見が現場から出てくることも期待されます。そのようなことを思わす書きぶりもこの本の魅力のひとつです。