ワープする宇宙―5次元時空の謎を解く      リサ・ランドール(著) 塩原 通緒(訳)  日本放送出版協会 (2007/06)

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今のうち(LHCの実験が行われる以前)に読むのがエキサイティング, 2007/9/17

物理学界の最先端のトピックス「余剰次元」概念へ、その流れの最前線で活躍する美人学者が誘ってくれます。

この本では、前半3分の2でニュートン力学から、アインシュタインの特殊・一般相対性理論、量子力学、素粒子物理学、ひも理論など、余剰次元の理解に必要な基礎理論をたどります。その上で、余剰次元の周辺に展開される多くの発見を、時にその発見に至る「現場中継」を交えて紹介してくれます。勿論、彼女の打ち出した理論を3種類、丁寧に解説してくれます。

このような科学の最先端を、わたしのような全くの素人にも読ませるように書くには、大変な力量が要求されると思います。数式はほとんど全く使えない、さもなくば私には理解できません。数式を使わずに、新しい物理概念を理解させるには、図や例え話を上手く使うと良いが、彼女はそれを実に上手くやってくれました。何よりも冒頭で、問題を提起し、最後で再び問題を思い出させて結論と新理論・仮説の意義を分からせる叙述の構成は上手く、私をそうでないときに比べ数倍も良く理解に至らしめたと思います。各章の冒頭のポップソングの一節などと、不思議の国のアリスを思い出させる寓話、章末の良くできた要約は、素人の理解にきわめて有効です。スルメのようにかむほどに味が出ます。

少し微に入りますが、文中に番号が付されたところには、巻末に「数学ノート」という40項目にわたる注があって、数学的厳密性を求めたい方には、オリジナル論文などにあたらなくともかなりの確認が出来ると思います。

著者は、彼女たちの理論・仮説が検証されるかもしれないいくつもの粒子が、ジュネーブ近傍で近く稼働をはじめるというLHC(大型ハドロン加速器)の実験で観測されるであろうと予言しています。この本は、したがって、LHCの実験が行われる以前に読んだ方が、その後で読むよりもいっそうエキサイティングだろうと私は思うのです。訳者が、あとがきを「お待たせしました」と書きだしている意味はここにあるのかも知れません。


なお、重力についての記述が多いのですが、磁力と重力の発見、全3巻』の重力の記述から続けて読むと、重力概念の「それ」以前と「それ」以外の概念とそれらの発展の歴史として読むことも出来そうです。

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