高原好日―20世紀の思い出から ちくま文庫(筑摩書房)(2009/02) 加藤 周一(著)
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まさに高原好日の爽やかさ, 2003/2/28
加藤さんは特に戦後、国内はもとより欧米など各地を経巡る中で多くの人びとと交わってきました。そうした交友を信濃追分を中心とした軽井沢を原点にして随筆を紡ぎ出し、信濃毎日新聞に70回にわたって連載しました。それをまとめたのが本書(の底本)なのだそうです。
この本には、何よりも加藤さんの精神の自由が輝いています。それは、人物・事象を相対化して見る加藤式方法論を通して読み取れます。時空を自由に跳梁してイマジネーション豊かに人を語ります。そこでは、それは常識的なAではなくユニークなBである、などといった加藤式文章術が駆使されます。この文章術を凡人が真似ることは可能であっても、すぐそれと分かるほどにユニークです。
加藤さんが実際に会ったことのある人との思い出のほか、信州ゆかりの一茶、藤村、象山など故人との空想的回合をも含め、60数編の短文により、なにがしか知っている人の知らざる側面を知らされ、また知らざる人の人柄の並外れた側面を知らされます。それらを読んでいて、感ずることがないのはいらだち、閉塞感、暗さなどであり、強く感ずるのは、信州の高原の好日、とりわけ夏の晴れた日のように爽やかな光と風です。加藤周一さんらしい、そうした本です。
この本には、「羊の歌」がそうであるように、これからも何度も手に取るだろうという予感があります。