完訳 ファーブル昆虫記 第8巻 上
ジャン=アンリ・ファーブル
(著), 奥本
大三郎 (翻訳) 集英社 2009/9
興味ある記述の他に、ファーブルを身近に感じさせる訳注にも注目, (2010/11/15)
この巻では、興味ある記述が次々と展開されます。
親より子が先に生まれるように見えるハナムグリの一生、畑作物の害虫であるエンドウゾウムシの各種豆類に対する食害の特徴、農民の敵と云うより穀物商人の敵であるインゲンマメゾウムシの食害、カメムシの特徴ある卵の蓋とそのしくみ、サシガメの肉食の様子、コハナバチの社会性の特徴及び寄生バエとの関係などが詳述・考察されます。
これらの内、評者が特に印象深く読んだのは、
1)マメゾウムシでも、生のマメに産卵するエンドウゾウムシと、熟して硬くなったマメに産卵するインゲンマメゾウムシとの違い、
2)インゲンをフランスでアリコと呼びメキシコではアヤコとよぶことから原産地を推定し、フランスでインゲンを食害する虫がいなくとも新世界にはこの虫の害虫がいるに違いないなどと推理を働かせるところ、
3)コハナバチの社会性の実態を、実際に見える限りの巣を全て掘り返したりして詳細に解明した記述、
などでした。
その他にも、戦争というものを昆虫との関連で考えたり、自分のふるさとを振り返りつつ虫にもふるさとがあるかなどと考えたり、興味ある記述がちりばめられた一巻です。
そして、それらを一層おもしろく理解させてくれるのが、それぞれ該当する章の訳注です。訳注では、他の巻においても、ファーブルの伝記上のエピソード、ファーブル以後に分かってきた事実、その後の昆虫学の発展に果たしたファーブルの役割等々を知らせてくれファーブルを一層身近に感じさせてくれます。全巻刊行後に、そうした項目を集めてみたらちょっとした解説論文になりそうです。