完訳 ファーブル昆虫記 第6巻 下
ジャン=アンリ・ファーブル
(著), 奥本
大三郎 (翻訳) 集英社 2008/6
この巻に至って面白さがいや増す, (2008/7/15)
この第6巻下の前半は、日本人にも馴染み深いコオロギから始まります。その生活史、特に、鳴き方に関して詳しく調べて解説してくれます。ふと思ったのは、ファーブルが、中国の長い歴史をもつコオロギ飼育の文化を知ったならきっとおもしろい考察を展開しただろうということでした。
次はバッタ。大発生の推論もしてくれます。複雑な体構造にもかかわらず脱皮殻を微塵も傷つけずに見事な羽化をします。バッタの害がしばしばいわれますが、それ以上に益が多いことに注意を向け、そこから農業や家畜の大切さも説いてくれるなど、なかなか面白いです。
しかし、もっと面白いのはマツノギョウレツケムシの話。生みつけられた卵の幾何学的な並び方、理想的と見える共同生活、天候の急変を予報する能力、一列になって行進する様子を事細かに調べて書き付けます。面白さの極めつけは、円形の鉢の縁を果てしなく列をなして回る毛虫のロンド。彼らは舞踏病に罹ったごとく回り続けるのです。また、ケムシの毒なるものはいったい何か、その本質を、自分の身体を使った一種の人体実験までして突き止めます。これらケムシの習性が多くの人々に知られるならば、ケムシ嫌いもかなり減るのではないでしょうか。
この巻にいたって、ファーブルの筆がますます冴えてきているように感じたのは、私の単なる気のせいでしょうか、それともファーブルが円熟味をましたせいなのでしょうか。あわせて、奥本さんによる注も冴えてきて、従来よりの書籍引用だけでなく、楽譜なども示して詳しい解説を展開してくれます。さらに、見山博さんのイラストは、ファーブルのこの巻における複雑な記述を可視化してくれてありがたいことこの上ありません。