完訳 ファーブル昆虫記 第5巻 下
ジャン=アンリ・ファーブル (著), 奥本 大三郎 (翻訳)    集英社 2007/7

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アリとキリギリスの寓話は、元来、アリとセミ、など,    (2007/8/27)

この巻(第5巻下)では、ふん虫のセンチコガネのほかにセミとカマキリとが登場する。ふん虫は、上巻でも詳述された続きであるが、他は初出。セミとカマキリはそれぞれの初級教科書といった趣き。いろいろなエピソードを交えそれらの一生を代表的な種を中心に解き明かしてくれる。

センチコガネは、前(上)巻までのスカラベやダイコクコガネと違って、ふん球を作らず幼虫の背中にコブがない。そのようなセンチコガネの個体数が多く、糞を必要以上に大量に地下に蓄えるので、公衆衛生上また物質循環上で大きな力を発揮している、そして微妙な気象変化を感知する能力があるなどと説く。

アリとキリギリスの寓話は、もともとアリとセミの話だったことを実証してみせる。そして、セミの幼虫が地中から脱出して、地上で変態し、大声で歌って交尾を済ませ小枝に産卵をする。その様子はことのほか詳細に描かれる。地中にもぐって4年を過ごす、とその一生を描く。セミの大合唱が大砲の音でも中断されないというエピソードは、訳者の奥本さんが注釈してくれる。

カマキリの狩りの様子を観察し当地で拝み虫と呼ばれる由来を印象深く描く。交尾を済ませた、あるいは最中の雄さえもその相手に狩られてしまう。泡で包まれた卵嚢の構造と機能も詳細に描かれる。大量な卵、幼虫がどんどん減ってゆくことを示し、卵や子が多い生物の生存競争戦略を紹介する。奇怪な姿の紹介も力がこもっている。

奥本さんによる「第5巻まで訳了して」という一文が、全20巻の前半最後の本巻末尾に入り、訳業の苦労話、若干の裏話などを紹介してくれている。その中で、ファーブルの書きっぷりが、歳をとるにつれて落ち着いてくる模様なども解明され、ファーブルの読み方をも指南される。

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