完訳 ファーブル昆虫記 第4巻 下
ジャン=アンリ・ファーブル
(著), 奥本
大三郎 (翻訳) 集英社 2007/3/10
ファーブルの世界と現代をつなぐ, (2007/7/22)
この4巻下では、9章中8章がハチの話である。ミツバチに刺されたことのある人は、この巻を読むと、その時のことがすべて解明されることになり、なるほどと思うに違いない。また、第15章(上巻からの通し巻数で)では、狩りバチが幼虫の食糧のために巣に蓄える獲物が腐らないのは防腐剤を注射するから、という従来の説に対して、麻酔がかかっているために動けないだけで生理作用は保たれている、という説を実験結果などに基づきまとめて述べている。それらを踏まえ、この巻でもダーウィン進化論への疑問が再三突きつけられる。ちなみに、残りの1章は、カミキリムシの話。
奥本さんの訳注は、しばしばファーブルを現代に位置づける情報を提供してくれる。たとえば、獲物のクモはどうして防御をしないでむざむざハチに狩られるのか、という進化論へのファーブルの疑問は、現代では、狩るものと狩られるものが相互に影響し合って進化してきた「共進化」の概念で説明される、という解説がされている。
見山博さんのイラストは、ファーブルの記述を理解するのにきわめて有効なのだが、実際にその場面を再現させて描いているのだろうか。たとえば、160頁の、「釣鐘形ガラスの中で一時間以上もからみあったままのミダレツチバチとヒゲコガネの幼虫」などは、実にリアルである。
このように、今回の「ファーブル昆虫記」は、+αの情報が、ファーブルの世界と現代をつないでくれてありがたい。