古寺巡礼   和辻哲郎(著)  岩波文庫 岩波書店 (1979/03)  

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時空間を自由に飛翔する和辻の翼は・・・ 2007/12/6

若い頃、店頭でパラパラとページを繰って目に入った写真から、お寺や仏像の紹介本と思ってこの本を読み始めたところ、アジャンターの壁画がどうの、「甲子夜話」がどうの、どこそこに行って風呂がどうの、などと続いて、何じゃこれは、と思い放り出したことがあった。

しかし、今度、改めて通読して、全く違う内容をたいへん面白く読むことができた。それは、初見の時からすれば相応に歳をとったせいかもしれないが、それはさておいて、何が面白かったかといえば、奈良や飛鳥の諸寺院や、博物館を中心に訪れては、そこの建築や仏像などにふれながら、それを取り巻く空間や時間を自由に飛翔して、それらの特質、本質を考究する知的な旅、その旅が面白かったのである。

そのような旅をなぜ若き和辻ができたのか。

それは、彼の若くして有する該博な知識に負うところはあろうが、それに加えて、彼の視角が広いこと、そこにあるのであろう。たとえば、伎楽面を巡って、その面が大仏開眼の時にどのように楽と舞において使われたかは勿論、それが作られた天平にとどまることなく、平安、鎌倉以後にも目を移して、猿楽、田楽、能、狂言などとの関係を考察し、その目は、ギリシャ、ペルシャ、ガンダーラ、西域、中国をも経巡り日本へと帰ってくる。評者は才あらず的確に要約できないが、この何層倍も時空間を深く厚くたどった考究が本書では展開される。とかく深く分析的に焦点を絞って追求することが重んじられる現代において、和辻の広い視角は、その本質を捉えるに十分なだけ全体像を把握できていて学ぶところ多である。そのあたりは本文にあたっていただくほかない。該博さは往々にして真似できないが、俯瞰する視点をもつことはかなり努力で可能である。

奈良や飛鳥の諸寺をベースに時空間を自由に飛翔する和辻の翼の力強さは、俯瞰的視角を働かせる能力に他ならない。この本を読んで、和辻とともに古寺を巡礼しつつその翼を体験することは、人生にとって有意義なことに相違ない。

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