キメラ―満洲国の肖像  山室 信一(著)  中公新書

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満洲の叫びを支える骨格となりうる理論的論考, 2005/12/8

満洲国が、どんな理屈によりできることになったのか、どのように作られたのか、どのようにその13年5ヶ月の運営がなされ、壊滅に至ったか、そして、補章での歴史的意義の追求。

満洲経験者はまだ多く、あれから60年を経て、その声を聞くことも多くなっている。経験談、ドキュメンタリーなどに接すると、その過半は、悲惨、悲劇である。時には、辛いことは思い出したくない、という声、楽しかった思い出も少なくない。それら血の叫びや肉声に理論で骨格を融合できると、満洲とは何だったのか、私たちにとって満洲とはどういう意味を持つのか、などが見えてくる。血肉と骨格とがしっくり噛み合うと、それは真実味を醸すが、特に骨格が好い加減だと血や肉としっくりこなくて簡単にくず折れる。その意味では、扶桑社「新しい歴史教科書」は面白おかしくはあれ、その骨格は血や肉にそぐいにくい。

しっかりした骨格を提供する論考は数多存在するが、本書はその骨格を構成する代表的論考といえるのではないか。「キメラ」というタイトルに背伸びしすぎを感ずるのは、評者の至らぬところかもしれないが、何はともあれ、著者渾身の満州論である。

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