勝間和代という生き方

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先ほどまで、NHKテレビで勝間和代さんへのインタビューを流していました(註)。初めは、家事などの合間でしたので、聞き漏らしたところもありましたが、中頃からはテレビの前に腰を下ろして見てみました。はっきりいって、少々努力がいりました。

勝間さんの書き物は、題名だけは、書店の平積み振りを横目にしたり、新聞や何かの広告類により知っていました。が、直接には、新聞の連載モノで、関心ある内容の見出しを見たときに目を通していたくらいでした。

そして、出来つつあった印象は、どうも得心いかないものでした。なぜか、それがはっきりしない。本が人気のベストセラーになるのは、人に訴えるところがあるからでしょうが、本の題名や読んでみた部分々々からは、言っていること個々には、聞くに値することもあるのだが、何か足りないというか、ヘンだ、という印象でした。

たとえば、
「私生活や仕事で失敗したとしても、その失敗から学んでいけばいいのです」
「今とても不幸だと思うことがあっても、実はそれが幸運につながると思っていると、上手にその不幸を乗り切ることができます」
「勉強は、はじめは目に見えないところにたまっていくものですので、途中の階段ではたまっている、たまっているはずだ、とひたすら信じるしかありません」

でも、次のようなところを見ると、ちょっと待てよ、となるのです。
「起きたことはすべて正しい。これは私の座右の銘です。偶然に起きた、いろいろなことを生かしていく力、つまり偶然力(セレンディピティ)が強ければ、確実にチャンスをつかむことができます」
「伸びる人の特徴の1つに、『意思決定の内容の精度はイマイチだが、とにかく、行動、決断が速い』ということがあります。拙速は避けるべきですが、鈍足はもっと避けるべきです」
「実行できる人とできない人の違いは、『(誰でも弱い)意志を、いかに手法やスキルで補って、習慣化できるようにしているか』ということに尽きます」

そして、次のようなことを読むと、彼女の住む世界が見えてくるような気がするのです。
「私の観察では、短時間で適切な情報を集められる人は20%、そのうち推論をしっかりと働かせる人が20%、最後にそこから行動につなげる人が20%くらいです。なので、ビジネス上で短期間のうちに情報を集め、新しい解決策を考えて実行する人は、たったの0.8%です」
「真の効率化とは、自分がしたいことだけを、自分のコントロールのもとで、自分の好きなように行う、ということです。効率化することで、余裕も豊かな時間も生まれるものです」

今日の番組では、勝間和代さんの経歴に沿った話も聞けたし、仕事や私生活の一端を紹介していただいたし、そこでの悩みや知恵をも聞けたし、彼女の人柄を垣間見た気がします。

第1の印象は、とてもエネルギッシュで早口にお話しをされる、ということ。聞き取れないことがあるほどでした。インタビュアーの女性アナウンサーは、普段から、頭の切れや回転の速い方で、やや早口だな(限られた時間で話すということから来る職業柄か?)と思っていたのですが、それが普段に増して早口になっていたのは、勝間さんのペースにひっぱられていたせいに見えました。これは、善し悪しにはあまり関係ないですね。

結論として私が考えたのは、勝間和代さんの生き方は、今の世相、それは新自由主義と呼ばれ、規制緩和・マネー資本主義・自己責任といったキーワードによってしばしば説明される社会、格差社会・○○破壊・ワーキングプアーといった負のイメージで問題が噴出している社会、それに適応する生き方なのではなかろうか、ということでした。

経歴(Wikipediaなどでも見ることができます)からは、まさにそうした流れの中で、彼女の性格や特性を努力して磨き、生かし、適応してこられた姿が見て取れた気がします。

彼女のパワー溢れる生き方、行動スタイル、話し方、発想法のなかには、聞いていて分かったと思わせることも多いし、役に立つこともあると思うのです。しかし、論理的に分かったことでも、自分もそうしようと思えるかどうかは別です。役立つにしても生活の一局面での話だけのことが多いのではないか。彼女の生き方の主要な特徴は、自己責任で規制緩和の世の中に適応する生き方にある。それが、思い至った結論です。

番組の中で香山リカさんをVTRで登場させ、その著書「しがみつかない『生き方』」の帯に「<勝間和代>を目指さない」と書かれていて話題になっていることも紹介していました。ネットで調べてみると、テレビで両名の直接対談がされているようです。ネットの世界では、その対比を、テレビ番組の反応などの形でおもしろおかしく茶化しているのを見受けたりします。世間でも、勝間さんのような生き方が関心を持たれ問題とされていることの反映でしょう。

私は、先ほど書いたような結論を得たのですが、アメリカ由来の新自由主義経済が、マイケル・ムーアが、良く口にする「2%の人に94%の人の持つ以上の金が集まっている」ような社会をわが国にも出現させた現状を見ると、それを良しとするわけにいかず、別の違う道を求めないではいられない、と思うのです。それは、多分、誰かがやってくれるのを待つのではなく、少なくとも半数以上の人がそう思うようにならないと、その社会は、別の違う道を実現できません。

NHKが、この時期、この番組を作った意図が今ひとつ分からなかったのですが、今日の番組を見るのに努力がいったのは、機関銃のように打ち出される彼女の言葉を追うのに疲れただけでなく、その内容がそんなことをだんだんと分からせてくれたからだったように思います。勝間さんの本が売れる年数は、そんなに長く続かないように思うのですが、それは、別の違う道を求めようとする若者や女性などがだんだん増えていますから、それほど遠い将来ではないでしょう。勝間さんは、沢山お金を貯めたでしょうから、売れなくなっても困らないだろうなどということまで心配してしまう番組でした。

註:NHK総合、2009/12/04 8:30-9:25 生活ほっとモーニング「この人にトキメキっ! 勝間和代」

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