裸足と貝殻 三木 卓(著) 集英社
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戦後復興期、満州引揚少年の日々は・・・, 2006/6/10
著者の自伝的小説。1946年秋深く、中国葫蘆島からの引揚船の舳先から物語は始まる。満員列車を乗り継いで、兄弟、母、祖父の4人家族は静岡市に落ち着く。小学5年から中学卒業直前まで。敗戦後の満州時代に比べれば考えられないほどに穏やかな日々が、多彩な人々の織りなすいろいろな出来事により展開され、物語として結構面白い。
この時代の世相が、登場人物の動きの合間にあまり詳細でなく簡潔に描かれていて印象に残り効果的。空襲の後の急激な復興の様子、白米の飯やラーメンのおいしさ、家主の屋敷や後に住むバラックの構造、2・1ゼネスト中止から下山・松川事件やレッドパージ、朝鮮戦争の推移・・・等々。
主人公とその家族、そして他の登場人物の多くは、経済的にまだ満足行くほどでないにせよ、希望に満ちて前進しようとする。それは、とりわけ現代のわが国の状況と比べた場合、輝いて見える。この本を読みながらしばしば現在と当時を比較して考えさせられた。
内容としては、この本の前に、敗戦から引揚船乗船前までを描く短編集「砲撃のあとで」があり、この先は、続編「柴笛と地図」へと続く。