怪物医師 光文社 (1990/06) 和巻 耿介(著)
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文字通りの怪物医師の物語, 2006/3/9
主人公馬島|は、医者として戦前の早い時期から産児制限運動を展開したり、ストライキの指導に関わったり、岡田嘉子に越境逃亡の知恵を与えたり、東京市会議員にもなり、戦後は日ソ、日中の関係回復に大物政治家、実業家、外交官などの間を奔走し、文字通り怪物医師ぶりを発揮する。
この時代には、これほどではない小怪物が東京にも地方にもいた。それらを全部束にしたようにでっかい怪物ぶりである。その人生の後半は、数知れないほどの女性関係を持ち、「四十過ぎての道楽と七つ下がり(午後四時すぎ)の雨は止むときがない」を地でいった後半生であったという。ほとんどの人物が実名で登場するが、やはり小説、かなりの誇張や一面的描写もあるのではないか。身近な人から見れば違った意見も聞かれるに違いない。
読んでみて主人公に関して気になった最大の点は、民衆にとって良いことも沢山したのかも知れないけれど、女性をまるで物扱いしているようなところとの矛盾。それは作者の解釈かも知れないが、その矛盾をそのままで生きたところが小説としておもしろいところかも知れない反面、それが本当とすれば根源的大問題だったのかも知れない。