荷風のリヨン―『ふらんす物語』を歩く 白水社 (2005/02) 加太 宏邦(著)
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荷風が生きたリヨンを知り幾多の驚きを得る旅の本, 2005/4/30
旅をする時、ガイドブックや添乗員さんから通り一遍の歴史や謂われを聞かされながら街を見て歩くのは、短い時間にいろんなことを見て知ることが出来るので悪くはないけれど、もっとずっと充実感を得られる旅として、作家などが描いた土地を、その作品の描写をたどりながら回る旅がある。
この本は、そのような旅を典型的かつ濃密に行った記録。著者の加太(カブトとお読みするとのこと)さんは、荷風の「ふらんす物語」だけでなく「西遊日誌抄」に加えて「西遊日誌稿」「書簡集」などを援用し荷風の足跡を追い、あわせて当時の行政文書や写真などを探し出し、関係者に聞き当時のリヨンの有り様をたどり、今との比較を試みる。
同時に、それらを著者が、いかに工夫して解き明かしたかを語り、その結果に対する感想・考察を展開する。著者は、荷風が風景をつかみ取るその目の確かさ、それを表現するリアリズムのすごさと、時には的確なシュールさに感嘆する。
多くの場所で、100年前のリヨンの景観が当時のままにその姿と雰囲気を今に伝えていることに驚きを表す。当時のリヨンの景観を撮した絵はがきが16枚掲げられているが、それらがとても鮮明であることや何よりもそれに見合うだけ多くを収集された努力と、それほどに見つかるだけ多くが売り出され、また今まで残されていたことは私にとって驚きであった。
私は、この本の冒頭に掲げられた「『ふらんす物語』のリヨン1907年」と題された地図をコピーして手元に置き、著者の記述を頼りにその地図に書かれていない建物や通りの名前を書き込みながら荷風の行跡をたどり、時空を越えてリヨンの旅を楽しんだ。
荷風が生きたリヨンを知り幾多の驚きを得る旅の本。旅好き、荷風ファン、フランス好きなどにお薦め。それぞれの旅、それぞれの荷風、それぞれのフランスを楽しんでいただけると思う。