二人の銀河鉄道―嘉内と賢治    江宮 隆之(著)  河出書房新社 (2008/02)  

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宮沢賢治において保阪嘉内との友情はいかに大きかったか,  2012/1/14

宮沢賢治と保阪嘉内との友情については、かねてより何人もの方が指摘してきたのですが、本書は、ふたりの間で交わされた手紙を核に、ふたりの歌やふたりを巡る史実と想像により肉付けしてなった小説といおうか、評論といおうか、そんな書物です。ドキュメンタリー小説といって良いでしょう。ふたりの友情を描くにおいて、多分、菅原千恵子「宮沢賢治の青春−゛ただ一人の友゛保坂嘉内をめぐって」に次いで、丁寧に跡づけた本ではないでしょうか。

本書では、賢治のかなりの短歌が彼らの交友から生まれていること、「双子の星」をはじめ初期の童話のいくつかにとどまらず、主要な童話作品、とりわけ「風の又三郎」、「銀河鉄道の夜」が、そして羅須地人協会ほかの農業実践の多くがふたりの交感を通して成り立っていると描いています。さらに、それらの基底に法華経の厚い信仰があるとしています。盛岡高等農林学校時代の同人誌「アザリア」の仲間との交流もそれらを支えるものとなったとしております。

とりわけ力が入っているところは、嘉内が甲府中の恩師野尻抱影の薫陶を受けて観察したハレー彗星のスケッチとそれに添えられた詩句「銀漢ヲ行ク彗星ハ/夜行列車ノ様ニニテ/遙カ虚空ニ消エユケリ」が「銀河鉄道の夜」のモチーフとなったのだろうというところです。このエピソードは、山梨県科学館のプラネタリウム番組で、本書と同名により2011年9月17日より2012年4月20日まで上演されております。また、「風の又三郎」も八ヶ岳山系の阿弥陀岳が地元で風の三郎と呼ばれていたことが嘉内の口から賢治に伝わったことと関係しているのではないか、とほのめかしていることです。

ふたりの間の恋愛といえそうな感情について。日本では、従来、性は男と女とにきっちり分かれているという考え方が強かったのですが、性の多様性が認められつつある現在、そうした観点から、二人の関係を見るということも必要かもしれません。そこから、賢治の特性もいっそう深く見えてくるかもしれないと本書から感じました。

宮沢賢治に関しては実に多くの書物が書かれてきました。しかし、まだまだ見過ごされている側面、修正される事柄がありそうです。多くの人々が多くの角度から賢治作品などを読んで、それを出し合うならば、それらが続々と見えてくるのではないでしょうか。

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