遙かなる大地―イリヤーの物語〈第1・2部〉 熊野 洋著 草思社 (2002/07)
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(第1部)世界をゆるがした10年間, 2002/9/16
田舎の女教員の産んだ父なし子を主人公として、ロシアの各階層の人々が、どのようにペレストロイカとその後のあのクーデター失敗までの社会の波にもまれてゆくか、を描いた第1部。ソ連社会の最後の時点で、その崩壊がどう進んだかは、ノンフィクション風に再現される。第2部も通してジョン・リードに模していえば「世界をゆるがした10年間」。
著者は外交官。モスクワ大学で文学の研究に関わり、文学的視点を備えている。そして、外交官としての観察力、得られた情報を駆使して、その10年間の出来事、またそこに到る何百年もの歴史の主流をスパイスにしてこの小説を作り上げた。日本人には、余りなじみがないロシアの歴史、表面的にしか知られていないその10年間の諸事実を散りばめた物語の展開は、かなりのリアリティーを感じさせる。
(第1部)こんなことじゃ、出口がないぜ!, 2002/9/16
スターリン支配下で作り上げられたソ連という超独裁社会が崩壊した後、イリヤーが歌ったように、
「神よ、救いを、お助けを!
さあ自由、ビジネスの世界と乗り出せば、
たまるものは請求書。税金、電話、用心棒代。
華の都の銀行は、通貨投機にかまけるばかり。
この俺たちにゃ、びた一文もよこさない。
こんなことじゃ、出口がないぜ!」
と模索するロシア。
自由競争、市場経済が急激に持ち込まれたロシア社会が、その矛盾をどう解決してゆくか、真の自由への渇望と現実に展開するロシア社会との矛盾の解決は、現代ロシアの課題。著者は、その出口をロシアの大地のどこに求めるか?