阪急電車   有川 浩著  幻冬舎 (2008/01)

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「電車って小説の舞台として面白くない?」,  2008/5/6

先日、作家の渡辺淳一さんが、「電車に乗ったら向こうに座っている人がどんな人生を送っているかなどと想像すると時間を忘れる、メモを取ってしまうこともある」とテレビで話しておられました。このことは、かなり昔、作家の辻邦生さんも、いろんな所で書いておられました。電車の中っていうのはいろんな人生の人たちが集まっていて小説の種(たね)がころがっているようで、どうやら作家は、結構そんなところから作品の構想を紡ぎ出しているようです。有川さんも、この本のあとがきに、

「『電車って小説の舞台として面白くない?』
と振ってきたのは旦那です。
『例えばほら』
 早朝の飛行機に乗るために始発の電車に乗っていたのですが、大荷物の我々の向かいにはどこへ行く途中なのか、しっかり手を繋ぎ合った若いカップルが爆睡中で。彼女には布団のように彼の上着が着せかけてあり。
『ああいうので妄想をたくましくするのが君の仕事やろ』」

と、この作品のできた舞台裏を明かしてくれています。

たしかに、この本を読むと、私たちが日常体験する電車の中のひとこまひとこまには、切ない恋心、ホッとするエピソード、別れと出会いのドラマなどがいろいろ顔を出しているのかもしれない、と思えるのです。

それをローカル線の雰囲気を漂わせる阪急今津線の八つの駅を舞台に、何人かの人たちと幾組かのカップル、グループとを登場させ、内容も感性も結構多様に描き出しているのです。そして、特徴的なのは、それぞれの登場人物達が網の目のようにつながっている。その全体構想は、なかなかよく考えられていて、結構楽しませてくれます。

それに、関東に住む私としては、読みながら何度も地図を開いてどんなところか確かめてみたものです。地図が好きな方にはそんな読み方もおすすめです。

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