白鯨(上・下) ハーマン メルヴィル著 田中西次郎訳 新潮社 新潮文庫 改版 (1952/02)
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(上巻)各章が短いのは通勤電車で少しずつ最後まで読むのに良い, 005/3/31
この本を何らかの翻案ですでに読んでいて、「エイハブ船長と鯨の戦いの物語」と思ってしまっていると戸惑うかもしれない。第1に、鯨に関する記述が多い。何せ、鯨の語源から始まる。鯨に関しては、現在ではもっと多くのことがもっと正確に分かっているはずであるが、この本で述べられる鯨と捕鯨の知識量は半端でない。また、翻訳(本書の本邦初完訳とのこと)に19世紀的雰囲気がただよっている、すなわち現代的でない。しかし、語り手の言葉に、現代に通じる文明批判もチラチラ出てきて、偉大な文学の普遍性を思ったり、その面でのおもしろさはある。
というようなことから、この本を最後まで読もうとする場合、捕鯨船に乗って鯨の出現を待っていると思いなして、または長い船旅をしていると思ってじっくり読むか、あるいは少しずつでも最後までがんばるかのどちらかがよいと思う。幸いにも各章が概して短いのは後者の読み方に適している。
(下巻)捕鯨船ビークォド号の最後の航海を追体験して下さい, 2005/3/31
1851年の発表。この時代、筋書きがドラマティックでぐいぐい引っ張ってゆく作品が続出する。
読者にとってこの本も、筋書きだけの知識あるいは子ども向けの翻案物からの知識が先行していると思われる。エイハブ船長の執拗な白鯨追跡ドラマ、それが知識の背骨をなしていることは間違いない。ところが実際には、鯨と捕鯨に関するディテールにわたる記述が延々と続く。決してドラマティックな筋が貫いている作品ではない。それは、書名の有名さに引かれて読み出した特に若い読者をしばしば挫折させる。
もしもあなたが、ドラマティックな筋を追うことがお好きなら、あるいは、細々としたところの記憶力が衰えてしまった熟年者なら、上巻の前半と下巻の後半から流れの良さそうな章を選んで読むのもひとつのやり方かも知れない。ドラマティックな白鯨追跡ドラマが楽しめるから。
もしもあなたが、鯨と捕鯨のリアルな姿を知ることにも関心がおありなら、お気に入りの安楽椅子などを緑陰や暖炉辺に運び出してじっくり読んでみるのが良い。あなたもビークォド号の最後の航海を追体験することが出来るから。
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