蘆花の妻、愛子―阿修羅のごとき夫なれど  藤原書店 (2007/10)  本田 節子著

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蘆花作品の多くは、愛子がいてこそ生まれた, 2007/11/9

徳富蘆花には、高校生の時に「思出の記」を読んで以来、関心を持ち続けてきました。その妻、愛子の陰がチラチラすることが気になっていました。以前、熊本に行ったとき、「蘆花と愛子の菊池」を買い求め、愛子の像がかなり鮮明になった気がしました。今回、この本が出たというので、早速買って読んでみました。

戦前までは文豪と呼ばれた徳富蘆花、その妻愛子に視点を合わせてふたりの人生行路を跡づけてくれました。エゴと優しさのない交ぜの蘆花、嫉妬も激しくしばしば暴力的にもなります。それに、愛子は耐え、適応し、凌駕します。著者本田さんは「蘆花作品の多くは、愛子がいてこそ生まれた」と書いておられるが、この本全体を通して、そのことがとりわけ書き込まれているように感じました。

著者が、熊本で活躍中の方だけに、蘆花と愛子の熊本人らしさがまず最初に目を引きます。会話だけでなく、地の文にも時々熊本弁が登場します。

ふたりの生活を蘆花の日記などをもとに忠実に紹介してくれるので、性的表現やどぎつい言葉なども出てきます(この本、もとは熊本日日新聞夕刊連載なのだそうですが、そこでは書けなかったこともこの本にするときに復活させたとか)。

あくの強い蘆花が、「思出の記」「みみずのたはこと」「自然と人生」など、すぐれた著作を多く残したのには、本人の性行に加えて愛子の貢献があったことが分かります。

なお、愛子に焦点を当てた本として、上記「蘆花と愛子の菊池」が熊本県菊池市教育委員会(熊本日日新聞情報文化センター発行)によってまとめられています。その本では、愛子の短歌をはじめふたりの作品のさわりと要約などを中心に、愛子の郷里、菊池について紹介してくれています。巻末の年譜は、愛子の没年にまで及んでいませんでしたが、本田さんの年譜では、没年まで記載されています。加えて、系図や参考文献なども詳しく、利用価値が多そうです。これら二つの本を併せて読むと得るところ大です。


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