中浜万次郎の生涯 冨山房 (1970/12) 中浜 明(著)
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アメリカの民主主義と日本の現状とのギャップ?, 2009/7/24
万次郎の孫の一人が書いた伝記です。中学生でも読めるように書いたと著者は書いておられます。万次郎の良いところを前面に出して書いている印象です。内容は、漂流からアメリカ時代が大半を占めます。つまり、帰国後の記述は徐々に薄くなり晩年は簡略にして終わっています。
万次郎の時代は、大きな変化の時代でした。アメリカでは、独立後の意気盛んな時代、奴隷解放宣言から南北戦争、西部開拓領土拡張などの時代でした。日本では幕末から明治維新、富国強兵、殖産興業の時代でした。そういう中で万次郎は、いやが上にも日米比較をしてしまうのではないでしょうか。ヨーロッパ出張を途中で切り上げて帰ったあたりから、それが彼の頭の中を大きく占めるようになったのではないかと思わせます。アメリカの歴史の節目を経験し世界を見たスケールの大きい眼でみれば、アメリカの民主主義と明治政府の軍国主義化の傾向との間に見られる乖離に一種絶望をさえ覚えるようになったのかもしれません。著者も終わりに近く、さらりとですが、それらを思わすような記述をしています。
いずれにせよ、通り一遍の漂流譚でも立身出世物語でもない、興味深い個性ある伝記です。