このBBSはSWWの時間に合わせ、6時間ほど遅らせています。日付変更は一律午前六時です。
[終了]
●「一時はどうなることかと思いましたよ」
昨日の戦闘でアンドロスコルピオの毒を受けたジョセフィーヌさんは、目覚めてからも
しばらくは幻覚症状を訴えていた。しかし、魔法の毒ばかりは僕たちの力ではどうする
こともできず、ずいぶん歯噛みしたものだ。幸い、その影響はすでに消失していたが。●「さて、けっこう収穫はあったし、ここに潜りはじめてからもう6日になるけど…
どうしようか?」
ステファンさんの台詞に、みな考え込む。これまで順調に障害を踏破してきたので、
もっと先に進んでも良いとする意見と、そろそろ街に戻りたいという意見が半々くらい
だった。しかし、賢者の多いこのパーティでは戦利品を鑑定したい気持ちも強く、僕と
ワットさんの場合は学院での奉仕義務もある。結局、もう一つ奥の玄室を抜けてから
帰ることで話が一致した。●ゆるやかなカーブを描く通路を、警戒しながら進む。曲がり角の頂点に達した時、
突然「明かりを隠してください」とローランド君が言った。精霊使いの視力で、先に
敵を見つけるつもりのようだ。緊張こそしているものの、数日前に比べれば格段に
自信の感じられる声だった。●暗闇の中にたたずむこと数秒。「何か…います」ささやくような張り詰めた声。
「小柄な生き物が二体。こっちには気付いていないようです」ライカさんが頷いて
補足する。僕たちは武器を構え、突撃に備えた。ジョゼさんのカウントが始まる。
「準備良いわね、行くわよ…。1…2…3!」●勢いよく玄室になだれ込む。隠されていたランタンの白い光が闇を切り裂き、
小柄な人間型の生物を照らし上げた。闇色の肌。不気味に蠢く尻尾。奇怪な、
人間ばなれした顔で…それでも、明らかに嘲っていると分かる表情を浮かべて、
そいつらは甲高く笑った。
「グルネルだ!」
叫びにも似た、何人かの声が唱和した。いや、叫んだのは僕だったかもしれない。
並みの魔術師を上回る魔術を使いこなし、肉体的能力でも人間を遥かに凌駕する、
忌まわしき魔界の住人。それが、2体。不意を突いたつもりだったが、狡猾な彼らは
闇を見透かして僕達の存在を感知し、迎え撃つ準備を整えていたのだ。
「魔法が来る、散開して!」
ステファンさんの声に従い、玄室の始点で前衛達がぱっと左右に広がる。
「風の乙女よ、大気を鎮め彼の者達に沈黙をもたらせ!」
「マナよ、不可視の鎧となりて我らを覆え!」
僕とライカさんの緊迫した詠唱にかぶさり、魔神達の古代語の詠唱が響く。不自然な
風に包まれた魔神の一体の詠唱が途切れたが、もう一体は呪文の影響を逃れ、詠唱を
完成させた。赤い閃光が走ったかと思うと、轟音と共に凄まじい熱と衝撃が僕達を
襲った――その破壊力ゆえに禁忌の魔法とされる、火球の呪文だ。
爆風で壁に叩き付けられ、手にしていた杖が床に転がる。体中に激痛が走り、意識が
ふっと遠くなった。●「うおおおっ!」
ダルシャーンさんの声…だろうか。僕は頭を振り、消えかかる意識を繋ぎ止めた。
戦いは、まだ続いていた。全身に傷を負いながらも、戦士達が魔神と激戦を繰り
広げている。対する魔神は、ライカさんの再度の沈黙の魔法によって、今度こそ
完全に呪文を封じられているようだ。傍らで、ワットさんが光の矢を放っていた。
ローランドさんも、荒い息をつきながらなお精霊を呼び出そうとしている。
僕は杖を拾い上げ、息を整えた。迷っている余裕はない。今、僕が使える唯一の
攻撃魔法を、全力で叩き込む。
「…万能なるマナよ、光の弾となりて敵を撃て!」
僕は残された気力を振り絞り、一体の魔神を狙って光の矢を放った。
身体から力が抜け、急速に意識が遠くなって行く。視界が暗転する寸前、呪文に
気を取られた魔神の一体が、ステファンさんの槍で串刺しになったのが見えた。●「大丈夫ですかィ?」
モパスさんの気力移しの魔法で、ようやく僕が目を覚ました時には、戦闘は終わって
いた。気を失っている間に回復魔法をかけてくれたらしく、傷もかなり塞がっている。
「今回は、本当に危なかったね」
「ああ、死ぬかと思ったぜ」
血だらけの顔で笑うダルシャーンさんは、二振りの剣をぶら下げていた。たしか、
あの魔神達が持っていた武器…光を放っているところを見ると、魔剣なのだろう。
思い返すもぞっとする、きわどい戦いだったが、幸運にも「猫の手」は一人の死者も
出さずに勝利を拾うことができた。
「後の治療は頼みまスよ、あっしも魔法の使い過ぎでふらふらでしてね、うひ…」
モパスさんも、最後は声が裏返っていた。相当に消耗したのだろう。
「分かりました。あとは任せて、眠っていて下さい」
僕は痛む身体を起こし、背負い袋から包帯と薬草を取り出した。●怪我人の治療を終え、休息を取った僕たちは、街に引き返すことにした。
この玄室の先に何がいるにせよ、グルネル達でさえ護衛に過ぎないことを考えると、
「それ」は僕達の手には負えない公算が強い。それに「猫の手」が駆け出し冒険者で
あることを考えれば、これまでに積んだ戦闘経験と収穫はすでに十分以上のものだと
言えた。そして…。
「三人とも、本当に良く頑張ったよ。もう新米は卒業だね」
「そ、そうですか?」
ローランドさんが照れたように頭を掻いた。僕と目線が合ったワットさんも、顔が
輝いている。僕も…きっと、同じような表情を浮かべていたのだろう。
「そうね、立派なもんだわ。このあたしが認めるんだから間違いないわよ」
ジョゼさんがウィンクして笑いかける。
…数秒後、誰かが吹き出したのをきっかけに、僕たちは爆笑の渦に包まれていた。
「…なによ、なに笑ってんの!」
まだ続く笑い声の中、不機嫌そうなジョゼさんの声が、妙に耳に心地よく響いた。
戦利品:青と赤の魔剣二振り
■前を歩いていたダルシャーンが皆を制す様に手を上げる。
どうやらなにか見つけた様だ。静かに前方の暗がりを指差している。
「サソリ…それもとびきり大きいヤツね。
よく見えないけど4・5匹はいそう…」
ダルシャーンの指差す先に蠢く影を確認して私がそう言う。
「…あれはアンドロスコルピオじゃないかな?」とステファン。
「僕もアンドロスコルピオだと思います。前に何かの本で読んだことありますから」とワット。
「アンドロスコルピオって精霊魔法の使い手でしたよね? あと、サソリのように毒も持ってますから気をつけて」とフィニット
「うひひひ。こんな所で珍しいモノに合いましたねぇ」と、モパス。
……みんなしてイジメなくてもイイじゃないの! アンドロスコルピオなんて見たの初めてだったんだもん。
と、口には出さず私は眉をしかめる。
どうやら相手はまだ気がついていないようだ。
「5匹いますね。どうします?」
ローランドが相手の数を確認する。暗闇でも物が見えるというのは便利だなと思う。
彼らが言うには物を見ているので無く精霊力を感じているのだそうだが、私からすればどっちも同じような・・・
■「あれだけ居ると一度に倒すのは困難ね……
ライカとローランドはアイツ等をかく乱してちょうだい。
ワットとフィニットは魔法の援護。モパスは彼らの護衛をお願いね。
ステファンとダルシャーンは手前の2匹をお願い。
で、一度つついたら手前の少し狭くなっているところまで引き返すの…アイツ等に囲まれない様にね。
あそこなら良くても2・3匹くらいしか並べないでしょ? こういう時は地形を有効に使わなきゃ!」
手早くみんなに指示を出す。
相手は毒を持ち魔法を操る危険な魔物…うまく行けば良いけど。
「いいわね? 行くわよ!」
駆け出す3人。
「レプラコーンよ! 奴等の意識を掻き乱せ!」
「大地の精霊ノーム! あいつの動きを奪え!」
「万能なるマナよ…全てを切り裂く刃となれ!」
「マナよ! 彼等の目に眠りの砂を!」
魔物達に混乱の呪文、転倒の呪文、眠りの雲の呪文が襲い掛かる。
ダルシャーンの斧槍が魔法に包まれ魔物の大きな腹に突き刺さる。
ステファンの必殺の一撃は魔物に致命傷を与えている。
私も負けてられないわ!
目を引く赤い布を巻きつけたアンドロスコルピオ(もしかしてリーダーかしら?)に斬りかかる。
ガキン!
と、止められた? やるじゃないの。面白いわ!
「くっ! 抜けない!」
ステファンが魔物に深く刺さりすぎた長槍に苦闘している。そんな彼に奥に居た魔物が迫る!
魔物が邪魔して彼の元へ援護に行けないわ。
打つ手無しかと思った時だった。
何者かがステファンに振り下ろされんとした剣を間に割り込んでブロックした!
「も、モパス?」
「ジョセフィーヌさんズルイですよぉ。自分達ばっかりぃ。私も近くで観察したいですよぉ。うひうひひひ」
全く…困った人ねぇ(^^;
その間にステファンは体制を立て直していた。
■後は勢いに乗った私達が畳みこむ様に魔物を押していく。
最後の一匹、例のリーダー格に最期の一撃を与える。
ザシュッ!
ブスリ
「え?」
剣を振り下ろすと同時に足に激痛が走る。
見ると私の腿に深々とサソリの毒針が刺さっている。
「なによ…刺し違えたつもり?」
魔物はニヤリと笑ったまま絶命した。
私もその場に膝をつく。
フィニットが慌てて駆け寄ってくる。
「毒を吸い出さなきゃ! 大丈夫ですか! ジョセフィーヌさん!」
そんな彼の声が頭の中にガンガン響く。Black Out。
*****************************
毒の効果は幻覚ですが、今回はこんな感じで…スミマセン
宝箱の中身は何かな〜(^^;
「へへへ、俺達も凄ぇじゃねぇか。あんな化け物を、終わって見りゃぁ完全撃破だぜ?」
「そうだね、俺もあんなに楽に勝てるとは思ってなかったよ」
「ふふっ、私の活躍も忘れないでよねっ、ダル、ステフ」
「そ、そうですよね、皆さん、凄かったですよね、あんな怖そうな怪物相手に・・・」
「そう言うローランド君だって、頑張ってましたよ。もう少し修行を積めば、良い精霊使いになれると思いますよ♪」
「うひひひ、しかし古代王国のゴーレムを研究出来たのは幸運でしたねェ、あっしは幸せいっぱいでござイますよ、うひひひひ」
◆フレッシュゴーレムを打ち破った俺達は、その通路の先へと進んで行った。しばらく進むと、またもや通路は広がり、部屋となる。そこで俺達が見た物は・・・! 宝箱!なんだ!?無数の宝箱じゃねぇか? す、凄ぇぜ! 皆からもどよめきが上がる。浮かれて居たのがいけなかったのか・・・、強敵を打ち破り、気が弛んでいたのか・・・。俺達は、そっと忍び寄る恐怖に、まったく気付く事はなかった。
◆突如、最後尾のモパス君が声にならない悲鳴をあげる。宝箱の方に興味が行っていた俺達は、何事かと振り返り、唖然とした。大男のモパス君が引きずり倒され、その背には何やら黒い人影のような物が張り付いている!その影は、モパス君の首を、ぐいぐいと締め付けている。
◆俺は素早く近寄って、その影にハルバードを突き入れようとする。が、それをワットさんが止める。「だめです!そいつには銀か、魔法のかかった武器じゃないと効きません!・・・待って下さい・・・」と、何やら唱え出す。と同時に、ローランド君が魔法をかけようとするのだが、それを止めたライカさんは何やら呪文を唱えている。「みなさん、魔法をかけるのは、僕の後にして下さい・・・」そうつぶやいてライカさんが魔法を発動させると、影の動きは突然止まる。その隙を突いてモパス君は影を振りほどく。影は身体をおこし、何やら呆然と辺りを見回している?
◆「今ですよ!みなさん」そのライカさんの声に、ロー君、フィニットさんからの魔法が一斉に炸裂する。と同時に、俺はブーツから銀のダガーを抜いて、その影に突き立てた。ジョゼとステファンは、ワットさんの呪文で輝いたそれぞれの武器で、影に攻撃をかける。・・・そこで、その黒い影の動きは止まっていた。じわじわと、輪郭が崩れ、ガスのように拡散していく・・・。
◆殺ったのか・・・?ステファンは、たぶんもう大丈夫だと言うが・・・俺達は警戒を崩す訳にはいかなかった。ある意味、力押しの化け物より、いつ襲い掛かられるか判からない恐怖の方がキツイな・・・。俺は背中がむずむずするような感覚を覚えていた。
●その日、誤算は二つあった。一つ目は、これほどの強敵がミノタウロスの間の
直後に配置されていたことだ。玄室に入り、光の中に「それ」が浮かび上がった時、
僕は慄然とした。死体を接ぎ合わせ、古代の魔術で仮初めの命を吹き込まれた、
恐るべき番人。
「あれは、フレッシュゴーレムです!」僕は仲間達に警戒を呼びかける。
だが…。
「おやおや、珍しいものに出会いましたねェ。これは貴重な存在でスよ、うひひ」
「精神系の魔法は効かないし、けっこう丈夫だけど、動きはそんなに速くないよ」
「よっしゃ、魔法の援護、頼むぜ!」
…僕の緊張感は、呆気なく吹き飛んでしまった。さすがに場数を積んだ冒険者は
違う(モパスさんはちょっと論点がずれている気がするが)。●ローランドさんがいち早く呪文を唱えた。どうやら戦う者の精神を鼓舞させる
魔法らしく、ステファンさんとジョセフィーヌさん――迷宮の中で合流した女性の
戦士だ――が雄叫びを上げて突進して行く。防御を無視した、必殺の一撃で叩き
伏せるつもりのようだ。無茶な…!僕は急いで防御呪文を唱える。気合と共にジョゼ
さんの剣がゴーレムを捉えたが、動きの止まった彼女を痛烈な拳の一撃が襲った。
間一髪、魔法の力場が間に合い、わずかながら打撃を緩和する。それでも大きく
跳ね飛ばされ、口の端に血をにじませたジョゼさんだが、倒れるどころか「まだ
まだ!かかって来なさい!」などと挑発さえしている。いやはや、大した人だ…。●嵐のような打ち合い。ゴーレムの一撃は強力だが、戦士達の武器もワットさんに
よって魔力が付加されており、その威力は敵のそれに引けを取らない。さらに、
負傷を回復魔法で即座に癒していくモパスさんの存在が、戦士達に確かな自信を
与えていた。やがて、ステファンさんの狙い済ました槍の一撃が、ゴーレムの身体に
深々と突き刺さった。次の瞬間、ライカさんとローランドさんの召喚した光の精霊が
炸裂する。ゴーレムは弱々しい反撃を繰り出すが、ステファンさんとジョゼさんは
それをものともせずに打撃を加え…一瞬の隙を突いて突進したダルシャーンさんの
ハルバードが、醜悪な魔法生物に止めを刺した。●二つ目の誤算…猫の手には、想像以上に堅く、鋭い爪が備わっていたことを、
今になって僕は知った。いつかダルシャーンさんが冗談交じりで言っていた、
「猫の手が虎の手になる」日は、それほど遠くないのかもしれない。歓喜に沸く
仲間達を眺めながら、僕はふとそんなことを思ったのだった。
俺達は警戒しながら洞窟を進む。四つ辻の所みたいにイキナリ怪物に襲われちゃたまらねぇからなぁ。しばらく行くと、道が二手に分かれている。どっちに行くべきか悩んでいると、ジョゼが「コインで決めたら?表は右、裏は左でどぉ?」と言って、コインを放り投げる。そうだな。こんな時は運に身を任せてみるのも良いかも知れない。そっとジョゼが手を開くと、コインは表。俺達は右に進む事に決めた。
◆右の道を進んでいくと広い空間に出た。どうやら部屋の様になっている所のようだ。その部屋を進んでいと、明かりの先、部屋の中央辺りから大きな人影がこちらに近づいてくる。光の中に姿を現わしたそれは、牛頭の化け物だ!ステファンが「ミノタウロス!」と叫ぶ。俺達の間に一気に緊張が走る。古の地下迷宮で俺とモパスを追い掛け回してくれたヤツだな?ヤツにはお返しをしなきゃいけねぇと思ってたんだ。そいつは赤く不気味に輝く戦斧を振りかざし襲ってくる!
◆素早くロー君から魔法の炎が飛ぶ。ライカさんも魔法を唱えている様だ。ステファンが助走をつけつつ槍を構え、ミノタウロスに飛び込んでいく。俺とジョゼも、両サイドから攻撃をかけようと近づく。ステファンの突撃は、ミノタウロスの脇腹に突き刺さった。と、同時にミノタウロスの様子が変わった?ライカさんを見つめ、恐怖の表情に顔を歪めている。俺は奴の足にハルバードを突き立てる。俺とジョゼの攻撃は当たったが、奴を倒すまでには至らなかったようだ。
◆奴は俺達の攻撃を振りほどき、背を向け一目散に逃げ出す。逃がすかよ!俺はハルバードを脇に構え全力で奴を追う。そのハルバードがフィニットさんの魔法で輝く! 追いついた俺は逃げる奴の背中に全体重をかけ、気合と共に突撃をかました。「ゥウォリャアァァッ〜!!」俺の一撃は奴の延髄を捉え、貫く!その一撃でミノタウロスはがくりと膝を着き動かなくなった。殺ったか? へへっ、地下迷宮の時とは反対になったようだな?・・・しかし、魔法の威力ってのはすげぇもんだ。あの牛頭野郎が逃げ出すとはね(笑)
◆どうやらこの部屋にはコイツ以外、特に何も無いようだった。通路は部屋の奥から、さらに先へと続いている。俺達は更に奥へと進んで行った。*************************
J地点突破! 戦利品:魔戦斧?
分かれ道がある場所に僕たちは出た。いくつかの道があるようだ。
「このまままっすぐ進もうぜ。」
少し先行しているダルシャーンさんがそう提案し、皆もそれに同意しまっすぐの道を行こうとする。「うわぁ!」
その言葉と同時に急にダルシャーンさんがくずおれて、視界からいなくなる。
「モンスターだ!!」
ダルシャーンさんのその言葉の前にステファンさん達は穴(ダルシャーンさんはここに落ちたのだ)の周りに駆けて行き、状況を見定めている。
僕もそれを急いで追い、穴の前に立ち、中を覗き込んだ。
ダルシャーンさんは既に態勢を立て直し、いつ襲われてもいいように身構えている。
その先には大きな鋸のような角が2つ(鋏か?)、地面から突き出て、ダルシャーンさんを待ちかまえてギッチャ、ギッチャと打ち鳴らされていた。
状況を見定めたのか、ステファンさんとジョセフィーヌさんはそれぞれの武器を構え、穴に降りていく。
「魔法の援護を!」
ステファンさんの言葉にフィニットさんはすぐに、ワットさんは少しどぎまぎしながらも反応し、呪文を詠唱し始める。
「これはなんでしょうね、うひっ。」
モパスさん、そんなに悠長でいいの?
あ、そんなこと言いながらもモーニング・スターは油断なく構えられている。みんなプロなんだ・・。
僕は・・・・。
足がすくんでいる・・。怖い・・。
恐怖の精霊で心が満ちているのが分かる。怖い・・。
どうすればいいんだろう?なにかしなくちゃ・・・。
しかし、恐怖の精霊が邪魔して、うまく考えがまとまらない・・。
恐怖の精霊・・・。
そうだ、この精霊を使おう。
今の僕にはそれしか考えられない。
心の中の精霊に意識を集中し、闇と恐怖を司る精霊「シェイド」を召喚するための呪文を紡ぐ。
目標は目の前のモンスター。
一瞬、モンスターの真ん前に深闇の空間が出来るが、すぐに消え去る。
シギャァァァァーーー!!
あとにはモンスターの怒りとも苦しみとも思える鳴き声が響く。
そこを狙ったようにもう一つのシェイドがモンスターに当たり、消え去る(ライカさんだろう)。
その一撃でモンスターは動かなくなった。
ダルシャーンさんは動かなくなったモンスターに槍を突き立てとどめを刺していた。シェイドでは気絶するだけで、死なないのを知っているんだろう。
それを見て僕は力が抜けて、座り込んでしまった。「おい、こんなもの見つけたぜ。」
最後にロープで引っ張り上げられたダルシャーンさんが何かをみんなに見せている。
「おや、これは・・・」
フィニットさんはそれがなんだか知っているようだ。
しかし、僕にはそれはどうでもいいことだった。
僕にもやれた・・・。
そのことが頭を駆け巡る。
やれた!
やれたんだ!!
まだ恐怖の精霊が心には満ちているが、今はそれだけじゃない。
満足や喜びなどの感情もわき上がってきているのが分かる。
自然と笑みがこぼれ落ちた。
「だ、大丈夫かい?」
そこへワットさんが手を差し延べてくる。
「あ・・、大丈夫です。・・有り難うございます。」
その手は少し震えていた。
「お互い初めてだと苦労するね。」
そうか、ワットさんも初めての冒険だったっけ。
苦笑を浮かべているワットさんの手を取り、僕は立ち上がった。
私たち「リファール猫の手冒険隊」は結成後初めての冒険を、この遺跡で行う事になった。
メンバーの中に、以前精霊亭にいった時には見なかった顔が有る。エルフのライカさんと、戦士のジョセフィーヌさんだ。
二人は前に一度、ダルシャーンさんや、モパス君、ステファンさんらといっしょに冒険をした事があるらしい。
一度でも冒険を乗り越えると、変わるものなのだろうか?
これがはじめての私に比べ、彼らはずいぶん落ち着いているようにおもえる。
この探索が終わったら、私も変わっているのだろうか?私たちは、隊列を整えると慎重に遺跡の中に入っていった。
しばらく遺跡の中を進んでいると、少しひらけたところで先頭を歩いていたダルシャーンさんが何かを見つけた。
それは、人間のようだったが決して私たちと同じ世界のものではなかった。
なぜなら、体が透けて後ろの壁が見えていたからだ。
私は、混乱していた。私は学院から魔術師としてみとめられている。
うぬぼれではなしに、それだけの努力はしてきたつもりだ。
魔術だけではなく、賢者として必要な知識を得るために、寝る間を惜しんで様々な本を読んできた。
しかし私は、”これ”がなんなのか全くわからない。
今まで読んできた本の中にこのようなものについて書かれたものはなかった、と思う。
(いや、落ち着け、きっとどこかで読んだ事があるはずだ。落ち着いて思い出せ。)
そう言い聞かせるほどますます私は混乱していった。「あれはファントムだ。大丈夫、あの場所からは動けないはずだ。まあ魔法を使われたら厄介だがな」
そう落ち着いた声で言ったのは、ステファンさんだった。
私は複雑な気持ちで彼の方を見た。と、その時”ファントム”が話し出した。
『この先へ行ってはならない。この先には奴が居る。この先へ行ってはならない』「警告か、しかし何もしないまま引き返すわけにはいかない。危険は承知の上だ。そうだろう、みんな」
これがはじめての冒険の、私とローランド君はファントムの言葉にすっかり怯えてしまったのだが、
ステファンさんのこの言葉によって、気持ちを切り替える事が出来た。
そう、冒険に危険は付き物だ。そして、それは乗り越えなければならないものだ。
私は自分の臆病な心を奥底にしまい込むと、前を見て歩き出した。モパス君は唯ひとり、とても楽しそうだった...
第四回、最も近い迷宮を開始します。
期限は七月末日です。