eggplant 連載小説 −雫−

-sizuku-
前編

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    彼女は泣き虫だった。  いや、神様とケンカして泣き虫になった。  きっかけはとても些細なものだった。  ”コールリムのクッキー”に”ラウトの糖”を加えるかどうかで口論となり、二人共す ねてしまったのだ。  些細と言えばバカらしい位些細。おっと、  彼女が一言謝ればそれで済む事なのだが、誰に似たのかいじっぱりで、少しもその気は 無い。  .....  そこで、いじっぱりな神様は、彼女に一つの問題を出した。  『世界中の人々が全て幸福になれる時を一瞬でもいい。創ってみろ』  「できない」と答えるのが悔しい彼女はムキになって言った。  「できるもん」  「オイオイ、できないよ」  「やるんだもん」  「そんな事、神様だって難しいぜ」  「それなら、なおさらやり遂げて神の座から追放してやる!!」  「オイオイ、それこそ無理だよ」  「なんで、」  「それ、誰が決めるんだよ」  「・・・・・・・・・・・・・・・・・・神様」  「な、無理だろ」  「やるのーー!!」  あーあ、神殿から出てっちゃった。全く、大体この時期のタリムって我慢するって事知 らないよな、・・・あ、ゴメンナサイ、これ読んでる皆さんは何の事かわかりませんよね。 では、簡単ですが、私、妖精テスが、ここの世界の一部を説明しましょう。  まず、我らが主人公タリム、勝ち気な女の子です。で、一つ注意して下さい。この「タ リム」って云うのは名前ではありません。”天使見習い”という意味で、天使になれるま では、これ以外の名称を使う事は禁じられています。貴方達の知る天使の階層とは、違う かも知れませんが、事実はこうなっているのです。でも、今タリムだけでも、2万人いる んだよね。  さて次に、コールリムのクッキー。美味しいんですよこれ、神様の好物の一つです。作 り方は簡単、コールリムの樹皮にサペルの粉をふりかけて練り、生地にして、後は好きな 形に仕上げて焼くだけ、普通味付けはネンルの蜜を使います。ね、簡単でしょ。・・・・ え?、コールリムも、サペルも、ネンルも無い?じゃ、この美味しさは理解出来ないわけ だ。人間って不幸な生き物だね。ま、いいか、つまり、神様はネンルの蜜によるコールリ ムのクッキーが好きだったんだけど、タリム・・・そっか二万いるんだった。二万人のタ リムの中で唯一勝ち気なわがままタリム・・・長いな、タリムでいいですか?、一応規則 では、タリム一人に付き、妖精テスは一人付く事になっていて、僕のタリムはあの子なん で、いいよね。他にタリムでてきたら、”その他のタリム1”とかで説明するから、ね、 ね。で、・・・どこまで話たっけ?、あ、そうそう、タリムはラウトの糖っていう糖実が 好きでそれで味付けしたから、さぁ大変。だって、本来ラウトっていうのは、聖なる実と して階級単位で使用数も決められている。高かな実。それを一季節分使っちゃったからさ ぁ大変。神様怒る怒る、しかも、コールリムとの相性も悪いみたい。味が勝ちあっちゃっ て、美味しくないって、僕は食べた事ないからわかんないけど。で、タリムお菓子作りに は自信あったから、ケンカが始まって、御覧の通り。  でも、神様もムチャな注文するよなぁ、「全世界の人を一瞬でも幸せにしろ」って、だ って、この瞬間にも、産まれる人あらば死ぬ人ありだよ。結婚式とお葬式が同じ日に入っ てる人もいる世の中でさ、タリムやるって言ってたけど、どうする気だろ?  あ、タリム図書館から出てきた。  「ねぇ、やっぱ諦めようよ」  「やるの」  「無理だって」  あ、涙目、・・・・・・しかたないなぁ、手伝ってやるか、もう。  「ね、テスはどうゆう時が幸せ?」  「コールリムのクッキーを食べてる時」  「・・・・・・むー」  「え?」  「それ、ケンカ売ってるでしょ」  「あ、そうじゃなくて、本心。それに、ラウトの糖使ったやつは、食べた事ないから、 僕は、評価できないよ」  「食べる?」  彼女はそうゆうと、背中の羽根の中に隠してあった袋を取り出した。  「ヘッヘー、あのクソ親父だけにはもったいないと、作り置きしといたんだよね」  タリム、それ、非合法。  「食べるでしょ」  「・・・うん」  だって聞いただけで共犯だもん。なら、食べた方がお得。  僕は、タリムの広げた袋の中をのぞきこんだ。出来たての暖かさが身体中に伝わる。お 菓子独特の優しい香りも伝わってくる。  「ね、出来たてでしょ。だって、この為に、神様の”刻の袋”を無断で借りてきたんだ もん」  タリムー、それも非合法だよー。刻の袋って言うのは、ものを入れた時の状態が再び開 ける時までつづくという袋。つまり、この袋の中は時が止まっているんだ。タリムはこれ を”無断”で借りてきたって・・・もう、どうとでもなれ!!  僕は、自分の大きさもあるクッキーを取り出した。ネンルの蜜を使った物は、べとつく んだけど、これ、くっつかない。ラウトは糖分強いから(ネンルよりも)、もっとべとつ くと思ったのに、なんか不思議。そして、僕は大きく口を開けてほおばった。  サク  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  「どう?」  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  「どおって聞いてるでしょ」  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  「何泣いてんのよ」  「オイシイ」  オイシイ、これ、本当においしい。僕はタリムが言ってる事も聞かずにパクパクパクパ クパクパクパクパク  「いい加減にしなさい」  気が付くと半分たいらげていた。  「おいしいよ、これ」  「当たり前でしょ、最高傑作だもん」  「でも、神様怒ってたよ」  「当たり前でしょ、あれ失敗だもん」  え?  「コールリムにラウトが合うっていうのは、わかってたのよ。でも、問題は分量。コー ルリム1ルク(単位です。1ルク=約500グラムです。テスより)に対して、ラウトは 3ルク混ぜる必要があるってわかったの。あのジジイにだしたのは、コールリム1ルクに 対して1/10ルクよ。」  「え、じゃあ、これ、ムチャクチャ甘いハズじゃあ、とてもいい位なのに」  「ね、ラウトって、多く使えば使うほどいいのよ」  「でも、それで、一季節分使っちゃったのね。」  「ジジイに1/3、残りはこれね」  ああ、僕は重犯罪者になっちゃった。神様お許しを!!「ダメじゃ」ひえええ・・・・ なんて、バカなお遊びは止めよう。  でも、タリムわかってんのかなぁ、エンジェルハイロウ貰えなくなるぞ・・・あ、ハイ、 エンジェルハイロウの説明ですね。エンジェルハイロウとは”天使の輪”です。頭につい てる丸っこいの、あれ天使にならないと貰えないんですけど・・・タリム無理そう・・・ エンジェルハイロウの無い天使なんてやだー!そんなのに使えてる僕の身にもなってよ、 タリムー。  「テス、何悶えてんの?」  「あ、ああ、未来を感じて怖くなった。」  「さぁて、そろそろやるわよ」  「え?、何を?」  「あったしの優秀性を神に見せつけて、神の座から奴を追放する計画!名付けて!!」  「名付けて、」  「神ちゅどーん計画」  神様、僕テスを辞めたい。  「さぁ、私の超絶的な能力と魅力で、世界中の人間全部に”幸福”を見せてやるわ!!」  何か、悪魔に魂を売ったかの形相がそこに・・・・・・  タリムは、僕を鷲掴みにすると、神殿の中央に存在する”深層の泉”に走っていった。 ここまで読んでくれた人はもう、わかると思うけど、ここ、立ち入り禁止。  「タリム!神様の許可取らないと!参級天使にもなってないのにー!」  「参級でも、弐級でもかんけーなし!!神がやれって言ってる事をやるんだから、神の 施設の一つや二つ必要経費よ!」  「ちがうーーーーーーーーーーー!!、僕ら神様に消されちゃうーーーーーーーー!!」  「じゃっかぁしい、世の中やったもん勝ちなのよ」  僕は、この後、神様の拷問を想像してしまい気絶してしまった。  気が付くと、六つの柱に囲まれた井戸があった。井戸穴からは、幾つ物、光のすじが踊 っていた。  「これが、深層の泉・・・」  タリムは、その光のすじを指でなぞりながら、何か呪文みたいな物を唱えている。その 姿は、ああ、これが天使っていうんだと、とんちんかんな考えを持つ位、綺麗で気品があ って、あの「オテンバ”タリム”」とは全然想像ができない物だった。  全ての光のすじをなぞり終えたタリムは、その一本一本を丁寧に紡いでいって、テーブ ルクロスの様な物を編み上げた。すると、光のすじの光が中心に集まり、一つの鏡を形成 した。  「あれが、カハスの鏡」  彼女は壱級天使にしか伝授されるはずのない代物を作り上げていたのだ。凄い、天使見 習いで、何であんな凄い技ができるんだ?!・・・しまったぁ、タリムの奴、あの呪文ど っかの壱級天使から盗んできたなぁ  「かの、カハスがこれを授けた時、彼は言った。『これは、遠くの真実を写すもの』だ と、全ては偽りなく、ありのままを写す・・・・」  泉にサファイヤの様な球体が現れた。すごく綺麗な蒼だ、・・・でも、ちょこちょこ茶 色くて汚い、あ!、これが神様の云ってた  「地球・・・」  僕達は、その星の持つ美しさと、そこに住む人達の退廃した感覚が圧倒的な量で僕達を 襲い肌に打つけてきた。僕はそれをとても怖く感じ、改めて神様のだした問題の難しさを 感じていた。  こんな退廃した感覚の人間全員をたとえ一瞬でも、幸福にさせる瞬間なんて創り出す事 ができるんだろうか?。さすがのタリムも冷や汗をかいている。そうだよ、タリムでもこ れを見るのは辛いよ。タリム辞めよう。神様に謝ろう。  「おっしゃぁ、いっちょやったるかぁ!」  ・・・・・・・・・・・・・・  尊敬したくなるよ。その図太さ。  タリムは、両手を広げカハスの鏡に向かい  「まず、第壱の命題。我は彼らにこの”念”を与える!」  カハスの鏡が、タリムの声に反応し、鏡面に紅い波と蒼い渦が巻き起こった。 雫 −sizuku− 後編に続く。
(C)1996 naoki shimura , eggplant

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