闇のすとれんじゃー


scene:2
2週間まえにさかのぼる。

広大な砂漠。はげしい砂嵐が吹く中に、巨大な塔の遺跡。

バベルの塔の一室で眠っている、バビル2世。
ふいに、ばっ!、と身を起こす。
「テレパシーだ!」

そう、たった今、強力なテレパシーが発せられた。
いや、それは、強力、などというレベルではなかった。一瞬にして全世界を走り、テレパシー能力を持つ者は、バビル2世同様とびあがって驚いたことだろう。
そればかりか、人より少し勘がいい、といった程度の、かすかな能力しか持たない者でさえ、なにかを感じて、きょろきょろとあたりを見回す、それほどのテレパシーだった。
これほど強力なテレパシーを発することは、バビル2世にすら不可能である。
発信者は、はかりしれない能力の持ち主、と推定される。

そのテレパシーは、だが、正確には、テレパシーの断片、かけら、とでもいうべきものだった。
論理的な思考の形態を成さない、おそらく、激しい感情の発露の一部であり、ここから何かを得るのは不可能に近い。
しかし、すぐれた超能力者であるバビル2世は、無意味と思えるこの断片からさえ、多くの情報をつかみだした。
・・・発信者はかなり若い人間。
・・・無意識に発せられたもので、本人は能力にたいする自覚がない。
・・・その能力は、いまだ潜在能力にとどまっている。
・・・したがって、力が偶然に発動されない限り、精神感応で特定するのは難しい・・・


日本、国家保安局の一室。

顎髭をたくわえ、びんに白いものの混じる渋い中年の紳士が、デスクでパイプをくゆらせている。
「困ります!」
隣室の秘書の声が聞こえ、どたばたともめている様子、
バターン!弾けるようにドアが開き、
「局長!」
トレンチコートに帽子を目深に被った、いかにも熱血漢、という男が部屋に入り怒鳴るように言った。
「伊賀野、何事だ?」
男の後をついてきた秘書に目配せをして隣室に下がらせながら、国家保安局長五十嵐は、
部下の伊賀野に声をかけた、
「何事、じゃないでしょう!」つかつかとデスクに歩み寄り、
「R学園の件です!」
「そのことか」すっ、と五十嵐の顔が無表情に変わる。
「そのことか、じゃないですよ!
 A国やらS国の連中が勝手なことをやっているのに、何もするなってのはどういうことなんです!」
「命令が出ているはずだ。この件には政治的判断が下された。我々は一切手出し無用だ」
「政治的判断?すると、なんですかい!国同士の取引で、同じ日本人を売り渡すってんですか!」
「伊賀野!」サングラスの奥の目がひかり、五十嵐局長の全身から、あたりを圧する威圧感が吹き上がる、
「・・・・・」激昂する伊賀野が思わず黙り込むほどであった。
ふ、と目を閉じ、椅子の背もたれに身をあずける、同時に先ほどまでの威圧感がきれいに消え去る。
「伊賀野、私だって納得しているわけじゃあない、だが、我々は命令には従わなけりゃあならない・・・
「局長・・・」
「それと、だ。傍受したCIAの通信に、「Bの介入の可能性大」という報告があった」
「B?、おお!」ぱっ、と伊賀野の顔が明るくなる。
「そうか、そうなりゃもうだいじょうぶ!安心しましたよ」
だが、五十嵐局長の顔が曇る、
「・・・報告には「Y」の組織の暗躍の徴候有り、ともな・・・」

scene:3へ続く