闇のすとれんじゃー


scene:11
秘密基地

S海岸から十数キロの沖。いくつかの島が点在している。
その中のひとつにヨミの組織の秘密基地、ベース・EJ-0043がある。
「基地」といっても、主な役割は、情報の収集、食料・燃料・武器の備蓄、であり、
そして、正規なルートを使わない出入国のための中継点、であった。
S海岸から、海釣り船に擬した小型クルーザーに乗って、
晴美を連れたエミは、いま、この基地にいた。
「迎えの船は?」
「はっ、さきほど連絡がありまして、到着が2時間ほど遅れるそうです」
「2時間かぁ・・・」

密かに日本を出るときには、小型の船かヘリでこの島に渡り、大型船や潜水艦に乗り替えて行く、
入国するときも同様だ。その、迎えに来る大型船の到着が2時間ほど遅れるようである。
(数ヶ月前に海底火山が爆発し「秋の島新島」という火山島が誕生していた。これを迂回するために遅れていたのだが、最近その島で人が発見されたという報道があった)

少し考えて、
「晴美を連れてきて。超能力検査を行う」
「待って下さい。コマンダー・ノースフィールド、」
「ドクター、」 エミ、まずいな、という表情を、ちら、と浮かべた。
Dr.ヒーラー。
この作戦のために本部から派遣されてきた、
超絶能力者である晴美の管理の全責任は彼に委ねられている。
「本部命令は、<何もせずそのまま送り届けること>ではなかったですかな?」
「ドクター、
 迎えの船が遅れている。2時間ただ待つだけ、というのはムダだと思うが?
 それに、超能力検査だけなら問題はないでしょう、・・・ネ?」 パチ、ウィンク(ドキッ!)
Dr.ヒーラーの顔が赤くなる、
「ま、まぁ、そうですね、検査だけなら、そう、問題ないでしょう、」
「感謝する。ドクター」
ぷくっ、く、笑いをこらえ気味に、副官のキム、ラー、
「たしかに、興味ありますね、」
「だろう?!」

手術台のような寝台の上に、晴美が横たわっている。
救急車の中で打たれた、体には害はないが強力な睡眠薬によって、丸一日は眠っているはずだ。
腕や頭にはセンサーがつけられ、センサーからは夥しい配線が、周りを囲む計測機器に伸びていた。
少し高い位置に、大きな一枚ガラスの窓。
窓の向こうの部屋では、コンソールの前にDr.ヒーラーが座り、その後ろで白衣姿の数名の助手が忙しく機器の調整をしている。
ドクターの隣には、副官のキムを従えて、エミがガラスごしに晴美を見つめていた。
「おわかりでしょうが<超能力検査>はさほど正確なものではありません、
 その人間の持つ超能力の大まかな傾向と大きさを示す程度のものです」 コンソールを操作しながらDr.ヒーラーが行う説明に、エミ、うなずく。
モニターパネルにさまざまな幾何学模様が浮かび、デジタルメーターがイルミネーションを輝かせる。
「検査開始」
カチリ、ドクターがスイッチを入れる、とたんに、モニターやメーターが劇的に変化した。
「こ、これは!すごい!いままでこれほどのものは見たことがない!」興奮した声を上げるドクター、
「う?これは、この形態は?!わ、うわわ!」 バシッ!
ボン!コンソールが火を吹いた、バチバチバチ、火花が走り白煙が上がる、
ちか、ちかっ、と部屋の照明がまたたく。「なんだ!」「どうしたんだ!」
「あれを!」
晴美が、目を開き、寝台から半身を起こしていた。
ゆっくりと周りを見まわす、バシッ、 バン!ボボン、ボン!(はずむボールが夢をえがく、ではなく、)
晴美の視線の動きに従って、デリケートで精密な計測機器が次々にはじけ飛ぶ。
「取り押さえろ!なにをしている、早く取り押さえるんだ!」
Dr.ヒーラーがマイクに向かって怒鳴った。
まるでそれが聞こえたかのように、晴美がふと、視線を上げる、
バッシャーン!
「うわあ!」 弾も通さない強化ガラスの窓が粉々に砕け散った。
ダダダ、数名の男たちが晴美に殺到する、手には麻酔の圧搾注射器が握られている。
だが、晴美が見つめると、何かに押さえつけられたかのように、男たちの動きがピタリと止まる。
「ううう、」「ぐぐ、」「うわー!」
男たちの体がふわりと宙に浮き、弾かれたように空中を走った。
ドガン!、ガシャ、ガシャーン!壁にぶちあたり、実験器具に突っ込み、いずれもが昏倒した。
「!」
様子を見ていたエミが、ガラスの破れた窓から、さっ、と身を躍らせた。

ブレザーのスカートのすそを気にしながら、寝台から降りた晴美、ぎくっ、として振り向く。
「目が覚めたようね、晴美」 エミが立っていた。
「それに、どうやら超能力にも目覚めたようね、」
腕を組み、顔を心持ち傾けながら、エミが話しかけた。
晴美、無言でエミを見つめる。
5メートルほどの距離をおいて、二人のブレザー姿の(美)少女が向かい合う。
「晴美、あなたは強大な超能力を持っている、
 でもね、」
エミの右手が上がり、晴美に向けて手のひらをかざす、その手のひらを放射板にイメージして、
エミ、サイコキネシスを収束させ、指向性を持たせて放射した。
「きゃああ!」
晴美の脇をかすめ、いましがたまで晴美が横になっていた寝台が吹っ飛んだ。(布団も吹っ飛んだー、なんちて・・・)
いわばサイコキネシス・キャノンとでもいうべきもので、見事としか言いようのない超能力のコントロールであった。
「晴美、あなたは超能力者として目覚めたばかり、まだ力の使い方を知らない、
 どんなにすぐれた力も、使い方を知らなければ役には立たないわ、」
「よくってよ、ハルミ。あたくしがあなたに練習をつけてさしあげます!さあ、おいでなさい!」
「!」
何百キロもありそうな重そうな機械がふわりと持ち上がり、うなりをあげてエミに向かって飛んだ。
エミ、あわてる様子もなく立っている、その横30センチほどをすり抜けて、機械は床にあたり轟音を響かせた。
「ラインを見極めなさい!セカンドサーブが通用するなどと思ってはだめ!
 この一球にすべてを込めて、エースをねらうの!」
バシッ!バリバリバリッ!
「きゃああ!」


(・・・ううん・・・)
(ここは・・・、あたし、どうして・・・、)
とある一室で少女が目を覚ました。
さして広い部屋ではない。室内には寝台と、書き物机、小さなテーブルに椅子、
出入り口のわきに洗面台とシャワールーム、トイレット。
予備の簡易宿泊室のようだが、これまでほとんど使われた形跡がない。
そんな部屋の寝台のマットレスの上で、少女はともすれば再び眠りに入ろうとする頭を起こした。
なぜだろう、なぜだろう、心が燃える。
なにかが少女の心を騒がし、眠りの霧を晴らしてしまった。
それは、ふたりの超能力者のぶつかり合いから生まれた精神波の波紋だったが、少女は知る由もない。
(帰らなきゃ・・・、)
ふらつく足を踏みしめ、戸口にたどり着いてノブをひねる。ガチッ、鍵が掛かっている。
(・・・開いて、)カチン、鍵が開いた。
キイ、ドアを開け、おぼつかない足取りで少女は廊下を歩き出した。

バッシィィッ!
「はぐぅ!」
はじき飛ばされたのは、エミ。
「くっ!」
すばやく体勢を立て直したエミの顔から、余裕の笑みが(あ!しゃれ!)消えていた。
(バカなっ!)これまでにも、何度も強力な超能力者と闘ったことがある。
強力な能力者は能力に頼った力まかせの攻撃を行う者が多い、そんな相手はエミの敵ではなかった。
だが、いま目の前に立っている、この晴美は・・・。
「ふぅーっ」
呼気を整え、左足を斜め後方へ。少し腰を落とし、両腕が弧を描いてエミの胸もとで十字星を形作る。
ををっ!その構え! スカーレット・サザンクロス!(紅い柔道着でないのが残念)
「シャウッ」
発火炎で幻惑し、テレパシーのフェイントからサイコキネシスの網による不動金縛り、
流れるようなコンビネーション!
するり、
晴美はエミの連続攻撃を簡単に受け流した。
(私の力が効かない?!なぜ!この子は超能力者として目覚めたばかりのはず!)
ローリング・ヘルホールド!超猛虎落撃!蹴球潜水艦蹴!エックス・アタック!全てかわされた。
「くう!」
エミ、精神を集中し、相手の三半規管に直接<力>を及ぼす、これを受けた人間は平衡感覚を狂わされ、立っていることもできなくなる。
「はぁああ!」
それと同時に晴美の周囲の空気を振動させ、いっきに押し包んだ。
(やったわ!)
が、
まるで居酒屋ののれんをくぐるように(あっ、たとえがオヤジだ・・・)晴美はあっさりと抜け出した。
「ちがう!晴美じゃない!」
思わず口をついた言葉が、逆にエミに確信させた、
「あなたは晴美じゃない!誰?!」
だまってエミを見つめる晴美、その顔が徐々に変わり始める。
少女の、やさしいやわらかな頬の線に力強さが加わり、星が光る黒目がちの瞳にはがねの輝きが宿る。
意志を秘めた眉、むすんだ口もと。
現れたのは、
「バビル2世!」
(着ている服は変わらずブレザーの制服だったけれど・・・)


胸に理光学園のエンブレムのついた紺のブレザー、ひざが隠れる紺のスカートに白いハイソックス、
白いブラウスの胸元の赤いリボンも凛々しい(うう、)
「バビル2世!」
「君がヨミの超能力者であることはわかっていた、」
バビル2世、落ち着き払った声で話し始めた。(でも、スカート・・・)
「理光学園で、君はわざとS国エージェントに自分たちを襲わせた、
 ぼくが助けに入ると読んでぼくを足止めさせるためだ。
 だからその場をロデムにまかせて、ぼくは君の後を追った・・・」
あのときS国エージェントと闘ったのは、ロデムの変身したバビル2世だったのだ。
ユーイ少佐ひきいるA国超能力部隊の襲撃を受けたとき、エミの監視が解けた一瞬をついて
魔眼のノイエ・アハトを倒し(ごめんよぉ、)ノイエ・アハトになりすまして基地に潜入した。
基地の中で、今度は晴美の姿になって本人と入れ替わった・・・
 
 「前から思っていたのだけれど、」 エミがぽつりとつぶやく。
 「なに?」
 「推理小説の最後の謎解きの何頁かって、すっごく、ご都合主義だと思うよ」
 「・・・・・」

「できれば、このままヨミのところまで連れて行ってもらうつもりだったけれど・・・」
迎えの船の遅れと、エミの好奇心によっていきなり超能力検査を受けることになってしまった。
検査には、ヨミに酷似した超強力な<男性>超能力者のパターンがあらわれ、Dr.ヒーラーを驚愕させた。
だがすぐに真相は知られてしまうだろう。
「・・・残念だけど、ヨミとの対決は今回はあきらめる、でも、この基地は破壊させてもらう」
ヴィイイン、ヴィイイン!
基地内に警報が鳴り響いた。
「第一級警戒態勢!、巨大な飛行物体が当基地に接近!」
ロプロス。
「海中より、潜水艦と推定される物体が高速で進行中!」
ポセイドン。
(こんな小さな基地に、大人げないぞ!バビル2世、あ、子供か・・・)
カチャ、
ドアが開き、ひとりの少女が現れた。
「!」 「捕らえろ!」 バビル2世とエミ、同時に反応した、
いや、バビル2世の方が速かったが、ドアのそばには基地の保安要員が待機している。
行動を起こす前に、少女・晴美の身柄は拘束された。
「こんどは、本物、ね、」捕らわれた晴美を見つめてつぶやくと、
「バビル2世、計画に狂いが生じたようだな!」
エミの言う通りだった。
晴美と入れ替わり、晴美になりすまして輸送船で送られる、
その間にロプロス・ポセイドンに基地を攻撃させ、混乱する基地の中からロデムが眠ったままの晴美を救出する、
バビル2世はそのままヨミの許におもむき、そこでヨミとの決着をつける、
それが当初の計画だった、だが・・・
(しまった、彼女の超能力は実際に目覚め始めていたんだ、)
目覚めた超能力が、体内の睡眠薬の効果をうち消してしまったのだ。
晴美を危険な目に遭わせてしまった、突き刺すような後悔の思い、
(ぼくの、ミスだ、)
「降伏しろ!」 容赦のないエミの声がとんだ。

肌にピリピリする感覚、 きけん! キケン! 危険!
頭の中にかかっていたもやのようなものが急速に晴れて行く、それと同時に、
まるで夢の中のようだった周囲の様子が、みるみる現実感を増した。
カメラの焦点が合ったようにこれまでにないクリアーな視界の中で、自分に向けられた鈍く光る銃口が見えた。
(いや!) 思わず身をもがく、
「静かにしろ!」 大型のアーミー・ナイフが目の前に突き出された。
この場合のナイフには晴美を傷つける意図はない。
晴美と、そして、主としてバビル2世に対して、多分に視覚的な演出効果を狙って用いられた物だった。
だが、銃器の使用が一般的ではない日本の、十代の少女にとっては、非日常的な銃よりも
突きつけられたナイフの方が、より身近で現実的な恐怖を湧出させた。
(いや!いや!)
(なぜ?どうしてわたしがこんなめにあうの?!こんなの、嫌!)
「嫌ぁああーーーー!」
晴美の意識がはじけ、視界が、真っ白な光におおわれた。

scene:12へ続く