闇のすとれんじゃー


scene:10
S海岸へ向かう道の途中

「止まれっ!」
キキィ、ブレーキを軋ませて、救急車が急停止する。
海岸に近づくにつれて建物の姿が減り、再び緑が濃くなってゆく。
周りを林に囲まれ、工場でも建つのか、整地された空き地のような場所で、
ユキ=エミは車を停めさせた。あたりに特に目にとまるようなものは、無い。
エミ、救急車の停まった20メートルほど先の地面を凝視する。
ドッグワァン!
地面が爆発した。地雷だ。
爆発はさほど大きなものではない、乗っている人間に怪我を負わせずに、車の足止めを狙って火薬の量を調整したのだろう。だが、すぐれた超能力者であるエミには通用しない。あっさりと爆発を誘発されてしまう。
待ち伏せが失敗したのを悟ると、それまで身を潜めていた男たちがばらばらと姿を現した。その数20名あまり。全員が自動小銃等できっちりと武装している。
「こんどはA国か。ご苦労さまね」
「どうします?振り切りますか?」
「いや、後をついて来られても困る。この場で殲滅する」エミ、部下の問いに言い切った。(ブレザーの制服姿の可憐な(美)少女が言うセリフとは思えない)
「理光学園のS国の連中は、バビル2世がかたづけてくれたんですけどね」
「頼んでみるか?
 ・・・わるいひとたちに襲われているの、助けて、正義の味方バビル2世・・・」
くすり、と笑って、エミ、後部の輸送室を振り向き、
「まかせたぞ」
「はっ!」「はっ!」晴美に付き添っていた白衣姿の二人が立ち上がった。

「車は完全に包囲した、無駄な抵抗はやめろ、」
停車している救急車に向かって拡声器で呼びかけながら、ユーイ少佐は余裕を感じていた。
A国特殊超能力部隊。
(その存在はA国内でも秘密にされている。内部では冗談に、コミックからとった「マーベル部隊」などと呼ばれ、ユーイ少佐は「キャプテン・マーベル」などと呼ばれたりしていたが、)
実働部隊員は全員超能力者であり、部隊結成以来の任務達成率は100%に近い、エリート部隊であった。
「全員武器を捨てて車から降りて来い、」
(まったく、たかが一人の少女の身柄の確保など、3、4名の隊員がいれば十分だ、それをこのメンバーでこの数とは!)(まあ、いい、さっさと終わらせるか、)
「早く降りてこい、」
カチャ、
「Oh、」
救急車の後部ドアが開き、白衣姿の二人の男が降りてきた。
武器は持っていないようだ、抵抗する様子もない。
(投降するのか、当然だ)
「残りの者も全員降りるのだ、早くしないと攻撃を開始する、」
そう呼びかけたときだった、
ダダダダダダッ、自動小銃の音が響き、数名の部下が倒れた。
「Wow!」
ユーイ少佐は驚愕した。撃っているのは自分の部下、それが味方に向けて銃を乱射している。
「やめろ!なにをする!」
それを合図に白衣の男たちが行動を開始した。
ピシュウ!
白衣の一人が、袖口から銀色の細いムチのようなものを飛ばす、
ピシリ、A国の隊員の腕にまきつく、とたんに、
「ギャアァァ」
断末魔の声をあげて絶命した。体が、高圧電流を受けたように焦げている。
その間にも味方に発砲する部隊員の数が増えていく、そればかりではない、
「うぐっ」「はうっ」突然胸のあたりを押さえ、苦悶の表情を浮かべて絶命する隊員。
ダダダダダッ、「ひでぶっ!」「あべしっ!」「おまえはすでに死んでいる」
A国特殊超能力部隊は大混乱に陥った。

・・・・・

白衣姿のもう一人、「魔眼のノイエ・アハト」と呼ばれる男。
強力な催眠能力の持ち主で、普通の人間は彼と目を合わせただけで意志を奪われ、操り人形と化す。
いまA国部隊員を操り、次々と同士討ちさせながら、別な能力、(催眠能力の他に、サイコキネシスの能力も持っていた、ただし、せいぜい10キログラムたらずの物体を持ち上げる程度のものだったが、)
サイコキネシスで相手の体の内部にある心臓をひねり上げる。
「うぐっ!」
念動力者が暗殺によく用いる方法で、(昔からの「呪術で相手を呪い殺す」というのもこれに含まれる)
岩を持ち上げるような巨大な力は必要とせず、確実に相手を倒し、さらにいくら調べても死因は心臓麻痺ということになる。
(「ヒャッホ!われわれに20人程度で向かって来るのが間違いなのさっ!」)

救急車の運転台で、エミが両目を閉じている。
一見、眠っているように見えるが、そうではなかった。クレアヴォイヤンス(千里眼)で冷静に戦場を観察し、二人の部下が、ふいをうたれそうになったり、危機に陥りそうになったときには、超能力を発揮して的確なバックアップを行っていた。
一般に、超能力者は、強力な能力者であればあるほど、一匹狼的な性格が強くなる。
他の者は無視して、自分一人の能力を頼りに行動する傾向にある。
そんな中にあって、エミは仲間や部下にたいしてしっかりと気を配り、そのため、「人使いが荒い」などと陰口をたたかれながらも、「おてんば天使」エミ・ノースフィールドは指揮官として信頼されていた。
運転席の男(本作戦におけるエミの副官で、ラー・ハーフウェアハウス、通称キム)、エミの精神集中を乱さないよう静かに待機している。
ぱちり、エミが目を開けた。
「終わりましたか?」
「ああ、」エミの感応からA国超能力部隊が消えた。
すなわち、A国特殊超能力部隊は全滅したということだった。

「ヒャッホ!どうやら片づいたかな?」
魔眼のノイエ・アハトは周りを見渡した。
(「キャプテン・マーベル」と「マーベル・フォース」、もう少し期待したのにな、)
かさっ、
木陰でかすかな物音がした。
「ヒャッホ!」
ノイエ・アハト、素早く反応した、木立ちに踏み込み、枝を払う。
大きな木の陰に隠れるようにして、人影が見えた。
「まだいたかっ!」
魔眼をきらめかせて、ノイエ・アハトはその人影と正面から向き合った。そして、
「うわっ!お、おまえは!」
・・・・・

カチャ、救急車の後部ドアが開き、白衣姿の二人が乗り込む。
「戻ったようですね」
「よし。出発する」
再び救急車はS海岸に向かって走り出した。

scene:11へ続く