闇のすとれんじゃー


scene:1
人けのない校庭うら、
ひとりの(美)少女が、数人の(不良)男子生徒にからまれている。

「私立理光学園高等部」 少し郊外の、静かで緑の多い環境にある学園。
伝統なのか、いまどきめずらしく、男子は詰め襟、女子は落ち着いたブレザー、という制服。
名門の進学校であるが、中にはこんな生徒たちもいる。

「あの、・・・用事があるから・・・」
「ちょっと、つき合おーよ」
「いいじゃんさぁ」
大柄な男子生徒に囲まれて、少女は怯えきっている。
「やめろ!」
思いもかけないところからの声に、男子生徒たち、ギクリ、として振り向く。
声の主はひとりの少年。
きちんと詰め襟を身につけ、小柄だが、均整のとれた体、なかなか端正な顔立ち。
よほど肝が据わっているのか、この状況に動じた様子もなく、落ち着きはらっている。

相手は生徒ひとり、体格も自分たちのほうが上回っている。一瞬ひるんだ男子生徒たちも、
再び落ち着きを取り戻し、次に、怯えを見せてしまった恥ずかしさを消し去ろうと、
凶暴な怒りの感情がひろがる。
生徒のひとりが、ずかずかと少年の前に歩み寄る。
「なんだ、おマエ」
素早く少年の襟の学年章に目をやり、1年生であることを確かめ、
ぐいっ、いきなり少年の胸ぐらを掴む、
「1年のくせに、先輩にたいする口のききかたしらねぇかぁ?」
「歳上にはケイゴ使うっての、習わなかったの?」
「それでよくうちに入れたな」
他の生徒たちも口々にあざける。
「やめろ」
再び少年が口を開いた。男子生徒たちの期待する怯えの色はまったくない、平然とした口調、
「こ、こいつ!」
そのとき、少年の腕がすっと伸びて、自分の胸ぐらを掴む手を取るとぐいと捻った。
「あ、痛てててて、」
情けない声が上がり、あっさり手が離れる。
「こ、このやろう!」
様子を見ていた他の男子生徒たちが、いっせいに少年に殴りかかる。
さっ、すす、
少年は、自分からは手を出さない、相手の攻撃をかわすだけだ。
なにか武術でも身につけているのか、無駄のない動きで、すべての攻撃をみごとに避ける。
かえって、男子生徒たちのほうが、勢いあまって、互いに体をぶつけ合い、足をもつれさせて転倒する。

「はあ、はあ、」
「ひー、ひー、」
息をきらし、ふらついている生徒たち、あいかわらず落ち着いて立つ少年。
「・・・・・」
さすがに、自分たちではとてもかなわない相手であることを悟り、お互い顔を見合わせ、こそこそと退散する。
少年は、男子生徒たちが立ち去ったことを確認すると、少女のほうに向き直り、
「だいじょうぶ?」
「え、あ、はい!」
「そう。気をつけなよ、
にこっ、と笑うと、
「じゃあ」 そのまま歩み去る。
「あ、」
少女、声をかけるタイミングを逸して、立ち去る少年の後ろ姿を見送る。

「ユキー!」
名前を呼ばれてふり向く少女(ユキという名前らしい)に向かって、(可愛い)少女が小走りに近づく。
「晴美、」 ((可愛い)少女は晴美という名前らしい)
「どしたの、こんなとこで、ぼけー、として?」
「え?う、うん」
「図書館、いくんでしょ?横山光輝の原画集が入ったんだって」
「う、うん」
少年の立ち去った方角を、未練っぽく、ちらりと見て、
「うん!行こう!」

・・・・・
二人の少女が立ち去った後、
木陰から、いまの出来事の一部始終を監視していた、ひとつの影が現れる。
ブレザーの制服。 謎の(美)少女の姿が。

scene:2へ続く