美少女超能力者ブレザーバビル
このページは「その21〜29」まで記されております
|
|
| ★その21 翌日。 その日も食事当番であったシムレとダンカンは買い出しに出掛け、大きな買い物袋いっぱいに食糧をつめ込んで、海底基地に戻ってきた。 「おかえり。今日の夕飯はなんなんだ?」 「肉じゃがだ。」 「うひょー大好物だぞ。ん?この肉、牛じゃなくて豚じゃないか。」 「牛でも豚でも、肉じゃがには変わりあるまい。」 「だけどさー、おれん家じゃいつも、牛だったぜ。カレーの時も。」 「なにい!?カレーに肉なんか入れていたのか?ぜいたくな。」 「おまえの家は入れなかったのか?肉…」 「おれの家では、いつもちくわが入っていた。」 食事当番の二人は、見張りとの会話もそこそこに、厨房に向かった。 「うむっ。」 「はっ、ヨミさまどうなさいました?食事が口に合わなかったでしょうか?」 「いや、うまい。こんなにうまいメシは今までに食った事がない!」 「そうですよね、おいしいんですよ、今日の夕飯は。一体どうしたことでしょう。」 「今日の食事当番は誰だ。ここに呼べ!」 「はっ。」 ヨミの部屋に入ってくるシムレとダンカン。 「お呼びでしょうか、ヨミさま。」 「うむ、二人とも近くに寄れ。」 「ヘエ…」 ヨミは近づいてきた二人の腕をとり、いきなりエネルギー衝撃波を放った。 「うぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃあああーーーっ!」 「あがあがあがあがあがあがあーーーっ!」 「おまえら二人の料理の腕が、急にあがるとは思えぬ。買い出しに行った時に、外部の人間と入れ替わったに違いない。正体をあらわせ!」バリバリバリバリバリバリバリ… 衝撃波をあびせられているシムレの顔が次第に歪み、浩一の顔に変化していった。 「ふふふ、きさまバビル2世のしもべではないか。」手を離すヨミ。 浩一とダンカンはその場に倒れた。二人ともすでに意識を失っていた。 「誰か、ダンカンを部屋まで運んで休ませてやれ。さて、この侵入者はどうしてくれようか、ふっふふふ。」 ぐったりしている浩一を見下ろしながら、ヨミは笑みを浮かべた ★その22 バベルの塔は、相変わらず砂の嵐に隠れていた。 塔の中の寝室のドアがばんっと開き、中からパジャマ姿の由美子が出てきた。目は真っ赤で、顔は涙ではれ上がっている。 由美子はロデムが作った食事をたいらげると、ブレザー制服に着替えた。 「ロデム、出掛けるわよ、ついて来て!」 「ハイっ」 塔を出て行く由美子と、後を追うロデム。 「ロプロ−ス!」ばさばさっ。 ロプロスは由美子とロデムを乗せて、砂嵐の中を飛び立った。 浩一をクビにしてから、三日が経っていた。あれから由美子は、ベッドの中で泣きながら考えていた。 『浩一くんが可愛い女の子とベタベタして暮らしていた。 しもべのくせに、許せない! それに、私をすっかり忘れてたなんて事、信じられないわよ! きっと、あのユキちゃんて子と一緒にいたかったから、 記憶喪失のフリをしていたに決まっている。 なにがカン太くんよ! 私の顔見たとたんにおろおろしちゃってさ、心にやましい所がある証拠だわ。 そのくせ従順ぶっちゃって、心にも無い事言って! フン!浩一くんの望むようになんかしてやるもんですか。 あのユキちゃんと幸せになりたがってたって、私の知った事じゃないわ! 泣こうがわめこうが、首根っこひっつかんで連れ戻してやる!』 結論を出した由美子は、再び北海道を目指して飛んだ。 北海道・ワタリ牧場。 「浩一くん、昨日買い物に行ったきり、今日になっても帰って来ないなんて…一体どこに行っちゃったの!?」 「ユキ、落ちつけ。警察に行って事情を話すんじゃ。」 「そうね。じゃあ警察に行ってくるわ!」 そう言って、牧場から外に出たとたん、ユキの目の前にスーツを着た男が立ちはだかった。 「?!」 ユキは数人の男に囲まれて取り押さえられた。 「何をするの!うっ…」 口と鼻に布を押さえつけられ、ユキはぐったりと眠らされた。 ユキの声をききつけた祖父が、あわてて外に出てきた。 「きさまら、ユキをどうするつもりじゃ!」 「フフフ、孫の命が惜しかったら、おとなしく我々の言う事に従うのだな。」 「………!」 男たちは、ユキと祖父を連れて車に乗り込むと、牧場から走り去っていった。 その頃、由美子は超音速のスピードで、ワタリ牧場に向かっていた。 「浩一くんには個人の自由なんか、ないのよーっ!」 ★その23 浩一が目を覚ますと、目の前にヨミが立っていた。 「やっと目が覚めたか、バビル2世のしもべよ。」 「お、お前はっ!ってああっ」 立ち上がろうとした浩一は、自分がイスに座らされ、数本のベルトで縛り付けられている事に気づいた。 「お前は、わしの基地に潜りこんで、捕らえられたのだ。思い出したか。」 その通りだった。浩一は、ヨミの部下に化けていたところへエネルギー衝撃波を浴びせられ、意識を失っていたのだ。 「………僕をどうするつもりだ、ヨミ!」 「わしのしもべとして働いてもらう。お前はこれから、わしの命令に従うのだ。」 「なんだって!?」 「わしには逆らえぬ。連れて来い!」 「!?」 浩一は目の前のガラス板の向こうの部屋に、ユキとユキの祖父が入ってきたのを見た。 「ユキちゃん、おじいちゃん!どうしてこんな所に…」 「お前のズボンのポケットにあった財布に、住所と電話番号が書かれていたのだ。」 しまった!と浩一は心の中で叫んだ。 関係のないユキちゃん達を巻き込んでしまった。 「わしの命令に従わなければ、あの二人がどうなるか、わかっているな。ふっふふふ…」 「くっ…」 「浩一くん!」 「浩一…」 うなだれる浩一。ガラスの向こうから、不安げに浩一をみつめるユキと祖父。 一方そのころ由美子は、ワタリ牧場の前に降り立っていた。 「あら?人の気配がないわ。誰もいないなんて…。」 「三人トモ外出中ノヨウデス。」 「仕方ないなあ。帰ってくるまで待つか。ロデム、しりとりしよう、んーと、あわび!」 「鼻孔」 「う、う、う、うなじ!」 「痔核」 「く、く、く、くつずれ!」 「轢死」 「し、し、し…」 しりとりは続いたが、日が暮れて翌朝になっても、三人は帰って来なかった。 ★その24 ヨミの部下・シムレは、北海道のとあるスーパーの裏で、両手足を縛られ、さるぐつわをかまされていた。 仲間のダンカンと一緒に、食事の買い出しに来たところを背後から襲われ、気絶している間にパンツ一丁にされてしまっていたのだ。 襲ったのが誰なのか、顔すら見ていなかった。 とにかく仲間に助けを求めようと、テレパシーを送った。 (聞こえるか、俺はヨミさまの部下、シムレだ。助けに来てくれー。) ヨミの海底基地内にいるひとりの部下が、シムレのテレパシーを受けた。 (おお、シムレ!お前に化けたにせものが、基地に入りこんだぞ。お前は無事か?) (ああ、縛られて身動きとれないが、なんともない。頼む、こちらに来てくれ。) (わかった。ヨミさまの許しを得たらすぐそちらに向かう。) 部下は、すぐヨミのいる場所へと向かった。 「ヨミさま、本物のシムレが助けを求めていますが。」 「うむ。行ってやれ。」 海底基地からひとつの潜水艇が出ていった。 「シムレ、こんなところにいたのか。すぐほどいてやるからな。」 「………ふーっ。ひどい目にあった。すまん、服まで持って来てもらって。」 「しかしお前も災難だったな。バビル2世のしもべに襲われるとは。」 「俺そっくりに化けていたんだって?一度見てみたいな。」 「うむ。目の前で並ばれたら、区別がつかぬくらいうまく化けていたわ。」 「へー…よし、着替えも済んだぞ。」 「では、基地に帰るか。」 「ちょっと待ってくれ!ずっと縛られていたから、小便に行きたくて行きたくて…」 「さっさと行って来い。」 「すまねェ!」 シムレはトイレを求めて駆け出して行った。 そして、少々時間が経った。 「悪い悪い、待ったかい?」 「待ちくたびれたぞ。ずいぶんとかかったな。」 「ついでに大きい方も済ませてきたんだ。へへへ。」 「早く戻らないとヨミさまがカンカンだぞ。」 「いけねェ、急がねェと!」 二人は走って潜水艇へと向かった。 潜水艇は海底基地に戻った。 「さて、ヨミさまにご報告しなくては。」 「…こんなりっぱな基地を、海の中に造っていたなんて…」 「ん?シムレ、なんか言ったか?」 「い、いやあ!なんでもないよ、ははははは。」 「?」 その頃、スーパーの近くのとある公衆便所の中では、シムレがパンツ一丁で両手足を縛られ、さるぐつわをかまされた状態で気絶していた。 ★その25 ヨミに捕まった浩一は、海底基地の廊下にぞうきんをかけていた。 浩一ひとりならば基地を抜け出す事もできるが、ワタリ牧場のユキと、ユキの祖父を人質にとられて、今はヨミの命令に従うよりほかはなかった。 せっせとぞうきんがけに励む浩一の前を、ひとりのスーツ姿の男が通った。 男はじろりと浩一をにらむと、廊下の拭き終えたところを人差し指ですーっとなぞり、 「なんだこれはっ!まだ汚れが残っているじゃないかっ!」 「ええっ?!すみません!」 「まじめにやらないと、夕飯抜きだからな!わかったか新入り!」 「はいっ!すみませんっ!」 もう一度廊下の隅から掃除をやり始める浩一。そこへもう一人スーツを着た男がやって来た。 「シムレー、そろそろ夕飯の支度しないと、時間に間に合わないぞー。」 「ダンカン。わかった、今行く。」 浩一をどなりつけた男は返事をすると、その場を立ち去った。 廊下掃除をなんとか済ませた浩一は、ヨミの部下の基地内清掃部長に報告した。 「廊下の清掃、終わりました!」 「うむ。おおっ!ピカピカで、顔が映る程ではないか!短い時間でここまで磨き上げるとは…お前一体どこでこんな技術を身につけた?」 「え?家で普通にやっていただけですけど…」 浩一は古見家にいた頃、由美子の母親の手伝いをする事で、炊事・洗濯・掃除、家事の全てを身につけていたのだった。 「ううむ、それだけとはとても信じられぬ。よし!合格だ、メシに行ってよし!」 「はいっ!」 浩一は食堂に向かった。 食堂は大勢の人間でにぎわっていた。ちょうどこれから夕食を出すらしい。トレーを持ったヨミの部下たちが、配膳台の前に列を作っている。 浩一もトレーを持って、行列の後ろについた。 配膳台の向こうに、先ほど廊下で浩一をどなりつけた男が、割烹着に三角巾をつけた姿で部下達にみそ汁をよそっている。 浩一が男に気づいた時、ふと、ふたりの目が合った。 「えっ?!」 浩一は自分の目を疑った。 目が合った瞬間、男が浩一に向かって微笑み、軽く左目を閉じたのだ。 「今のは、ウインク?なんで?!」 あわてて目をそらした浩一の額に、冷汗が流れる。 配膳してもらって席についた浩一は、「いただきまーす」と手を合わせてから、みそ汁を一口すすった。 「ん!?」 みそ汁の味に目を白黒させる浩一。 浩一の周囲で食事をしていた男達も、「なんだこのみそ汁は!」「ベタベタに甘えじゃねえかー!」「飲めるかこんなもん!」と騒ぎはじめた。 浩一は、みそ汁の碗を見つめて考えた。 (これは…ひょっとして!?) 「おいっ、シムレ!味噌汁に砂糖なんか入れる奴があるか!ヨミさまも怒っておいでだったぞ。ったく、本当に何を考えているんだか。」 あきれながら、作り直した味噌汁の鍋を抱えて厨房を出て行くダンカン。 その背中を見送りながら、シムレと呼ばれた男はぽつりとつぶやいた。 「浩一くんは、おいしいって言って食べるのに…」 ★その26 夕食を済ませた後、浩一はシムレに会おうと厨房に入った。 シムレは流しで食器の後片付けをしていた。浩一が入ってくると、シムレは気配を感じ取って浩一の方を見た。 「あ、おめえは…」 「手伝います。」 そう言って生ゴミの始末をしようとする浩一を、ダンカンが止めた。 「子供、おめえは手を出さなくていい。今日夕飯の味噌汁に砂糖入れた罰で、シムレ一人に片付けさせてんだ。 俺までヨミさまにこっ ぴどく叱られたんだからな。」 「そうなんですか…あの味噌汁おいしかったですけど。」 「げえっ!おめえはあんなのが好きなのか?まあいい、そこまで言うんなら好きにしろ。 シムレ、もう二度とあんなバカな真似はやめ るんだぞ。それじゃお先に。」 ダンカンが厨房を出て行き、浩一とシムレの二人だけになった。 「私の料理のセンスが理解できないなんて、あきれた連中ね、っとに!」 突然言葉遣いの変わったシムレに、浩一の目が輝いた。 「やっぱり由美ちゃん、助けに来てくれたんだね!」 喜びの表情を隠せない浩一。 「しょうがないでしょ、牧場の人までさらわれてしまったんだから。 浩一くんだけなら、放っておくつもりだったけどっ!」 そう言って、シムレの姿を装った由美子は、赤くなってプイッと横を向いた。 「………と、とにかくっ、ユキちゃん達を助け出さないといけないなあ。」 「ふふっ。それなら、もう作戦を始めているわ。」 「え?」 その時急に、厨房の外から男達の騒ぐ声が聞こえてきた。同時に戸が開き、ダンカンが顔全体を真っ青にして怒鳴った。 「シムレ!きさま料理に何を混ぜたァ!」 言い終えた途端、ダンカンはバタンと荒っぽく戸を閉めて走り去った。 「………何が起こったんだ?」 「ふふふふふ…どうやら薬が効いてきたみたいね。」 「薬ィ?!」 「さ、浩一くん、私達も行動開始よ!」 二人が廊下に出ると、ヨミの部下たちが大騒ぎで、手洗いに駈け込んでいた。 「うわあああ、ここも満員か!」バタバタバタ… 「早く出てくれ〜!」ドンドンと戸を叩く音。 皆腹を抱えて、冷汗だらだらで苦しんでいた。 「由美ちゃん!これは…」 「夕飯のハンバーグに強烈な下剤を混ぜておいたの。香辛料がキツイから、誰も気づかなかったわ。」 「下剤!?」 「半日は効き目が続くから、それまでこの部下達は役にたたないわねえ。ふふふっ…」 そう言って笑う由美子を、浩一はポカンと見つめた。 「………はっ、由美ちゃん!僕もあのハンバーグを食べたぞ。」 「あー、それなら大丈夫よ。」青ざめる浩一に由美子は答えた。 「下剤の効き目を中和する薬を、味噌汁に混ぜておいたから!」 ★その27 ドンドンドン、ドドドンドン! スーツ姿のヨミの部下が、戸を叩いていた。 「ヨミさま、大変です、ヨミさま!早く出ていらしてください!」 すると、『ヨミさま御専用』と書かれた戸の向こうから声がする。 「騒々しい!今とりこみ中だ、用事があるなら、そこで言え!」 「は、大変です!基地上空にバビル2世が現れました!」 「なにいっ」バターン! 戸が開き、右手にトイレットペーパーの芯をつかんだヨミが現れた。 ヨミは報告に来た部下と共に、管制室に入った。 「バビル2世が現れたというのは本当か。」 「はっ!監視カメラの映像を拡大してみました。ごらんください。」ピッ 画面に写されたのは飛行中のロプロス。その首の付け根に、ブレザー制服を着た少女がつかまっているのが、はっきりと見える。 「おおお、これはまさしくバビル2世!」 「ロプロスは、まっすぐこの基地に向かって来ています。基地が目標である事は間違いありません。」 「うむむ、ついに来たなバビルめ。しかし、お前を倒すために造ったこの基地、そう簡単にやられはせんぞ。ふっふふふ。」 「ヨミさま、いかがいたしましょう?」 「迎え撃つのだ。全員戦闘配置につけ!」 「はっ!」 ビーッ、ビーッ、ビーッ、 『北北東の方角から、バビル2世接近。全員戦闘配置につけ。くりかえす、北北東の方角から…』 「げえっ、こんな時にい?」 「やばいな、おれまだ腹に力が入んないよ。」 「おれだって、げっ、またもよおしてきやがった。バビルどころじゃねえよ!」 「一体どうしたらいいんだー!うっ、また腹が…」 バタバタバタ… 部下達があわてふためいている姿を眺めながら、薄笑いを浮かべる、シムレに化けた由美子。 「ふふふっ、このどさくさにまぎれて、ユキちゃんとおじいさんを探しだすのよ!」 「ヨミさま、部下の半数以上が腹痛を訴え、配置につけません!」 「なにいっ!この非常時に腹いたごときで戦えぬとは、だらしがない!…うっ」 「ヨミさま?」 「い、いや、よいか、決して警戒をゆるめてはならんぞ!」だーっ 管制室を飛び出していくヨミ。 バタン! そして再び、戸に『ヨミさま御専用』と書かれた個室に閉じこもった。 ★その28 カツカツカツカツカツ… ヨミの海底基地の廊下を走ってゆく、部下のひとり、ダック。 「バビル2世が近づいてきているっていうのに、仲間のほとんどがハラこわして動けないなんて、どうすりゃいいんだよ全く…ん?」 一人の男が廊下の隅に寄りかかって、腹をおさえて苦しんでいる。ダックは足を止め、男に近づいた。 「おい、シムレじゃないか。大丈夫か?一人で歩けないなら、オレが肩を貸すぞ。」 「い、いや、大丈夫だ。それよりも、オレの代わりに人質を連れてきてくれないか?」 「あの牧場からさらってきた二人をか?なんでだ?」 「ヨミさまのご命令だ。バビル2世にあの二人を見せてやるのだそうだ。」 「なるほど、人質がいればバビルも簡単には手が出せないものな。わかった、オレにまかせろ。」 カツカツカツカツカツ…ダックは人質を連れに走って行った。 ワタリ牧場のユキとユキの祖父は、海底基地の一室に閉じ込められていた。 「なんだか部屋の外が騒がしいわね。」 「何かあったのかのお?」 「うん。浩一くんがひどい目にあっていなければいいけど…」 ドンドン!がちゃり ドアが開いてダックが部屋に入って来た。 「おい、お前ら、部屋から出るんだ。」 「なぬっ?」 「お前らを助けに来た奴に、お前らを見せてやるんだ。奴は人質には攻撃できないからな。」 「なんじゃと!」 「ふふふ、さっさとついて来い!」 ユキと祖父に拳銃を向けておどすダック。と、部屋へ走りこんで来た一人の影。 「むっ?!なんだお前はっ…うっ」バタッ 影は素早くダックの腹に拳を食らわせ、気絶させたのだ。 「しばらくここで眠っててもらうよ。」 足元に転がるダックに、そうつぶやく影が誰なのかわかって、ユキと祖父の表情がほころんだ。 「浩一くん!」 「浩一!」 「大丈夫かい?ユキちゃん、おじいちゃん。」 「うん、平気よ。浩一くんも、何ともない?」 「ああ…」みつめあうユキと浩一。 これからどうなるかわからないけれど、浩一が助けに来てくれて、今こうしてそばにいてくれる。 ユキはそれだけで幸せだった。 そんなユキに優しく微笑みかけながら、浩一は話し始めた。 「ユキちゃん…実は僕には秘密があるんだ。こんなところでなんだけど、聞いてくれるかい?」 「え?ええ。」 「僕は小学4年生まで、おねしょが治らなかったんだ!」 「ええっ!」 「ついでに言うと、5年生のころから水虫になって、いまだに治らない。」 「な、なんですってえっ!」 「こないだの健康診断では、糖が出てるって言われたし…とにかく僕の体はボロボロなんだ。」 「そ、そうだったの…」 「こんな僕と一緒にいると、ロクな事はないよ。今からでも遅くない、もっとカッコいい彼氏を見つけて…」 「由美ちゃん!なにやってんだよ!」 「ちぇっ、もう来ちゃったの、あーあ。」 そう言うなり、ユキの目の前にいる浩一の顔が、みるみる変形し、由美子の顔になった。 「こ、浩一くん!?」目をまるくし、後ずさりするユキ。 そして、部屋に入ってくるシムレ。 「僕の服を貸せっていうから、何するのかと思ったら…」 そう言いながらシムレの顔もみるみる浩一の顔に変わっていった。 「ひいいいいい!!」蒼ざめるユキの祖父。 「まあ、いいじゃない。うまくいったんだから。あら?」 振り向くと、床に倒れているユキと祖父。 「ユキちゃん、おじいちゃん、しっかりして!」気絶した二人を起こす由美子と浩一。 「変ねえ、どうして気を失っちゃったのかしら…」 ★その29 「弱ったな、ユキちゃんもおじいちゃんも、気絶したまま目を覚まさないよー。」 「しょうがないわねえ、このまま担いでいきましょ!」 「うーん、そうするしかないねー。」 「じゃ、ユキちゃんは私が運ぶわ、いいわね!?」 「えっ…?」 「えっ、て何?浩一くんもユキちゃんを運びたいの?」 「そ!そんな事言ってないだろ!」 「ならいいじゃない。んっしょっと…浩一くんはおじいさんをお願いね!」 そう言って、由美子はユキの体を自分の肩に抱えると、部屋を出ていった。 残された浩一はひとり、 「由美ちゃん、何怒ってるんだろ…?」 とつぶやきながら、ユキの祖父を背負って由美子を追った。 「ヨミ達がロプロスに気をとられてる隙に、潜水艇で逃げるのよ、浩一くん急いで!」 「う、うん、でもおじいちゃん重くって…ゼイゼイ」 二人は脱出口を目指して駆けていった。 そして、ロプロスは基地の真上まで近づいてきていた。 「撃て!バビル2世ごと撃ち落とすのだ!」 ヨミの命令で海中からミサイルが次々と撃ち出される。 しかしロプロスは、数々のミサイルをすらりとかわしていった。 「ヨミさま、ミサイルはかすりもしません!」 「ううむ、このままでは武器のむだ遣いになってしまう。やむをえん!」 ヨミは両手のひらを高くかかげて、精神を集中した。 「ロプロス、わしの命令にしたがえ。わしのいう通りに動くのだ。そのまま海に突っ込め!」 ヨミの命令に、ロプロスはぴくっと反応すると、翼を止めて頭から海に落ちていった。 「さすがヨミさま!」 「ヨミさまの超能力は、どんな武器よりも素晴らしいです!」 「感心している場合か!わしがロプロスの動きを止めている間に、バビル2世を攻撃するのだ。」 「は、はいっ!」 ブレザー制服の少女は、海に落ちてからも、ロプロスの首につかまっていた。 ロプロスと共に海底に沈んでゆく少女を狙って、ミサイルが発射される。 ド、ドーーーン! 命中したと同時に、少女は黒色の流動状に変わった。 「うむっ…これはロデム!」 その頃、由美子と浩一は潜水艇に乗りこんでいた。 「みんな乗ったわね、さあ出発しましょ!」 「うん…ところで由美ちゃん、これどうやって動かすの?」 「え…?」 由美子と浩一はだまったまま、しばらくみつめあっていた。 |
|
|
| 続き(その30〜)を読む |