美少女超能力者ブレザーバビル
このページには「その11〜20」まであります


★その11

「よし、ロプロス、このまま上昇よ!」
ロプロスは、自分のくちばしの中に浩一を閉じこめると、背中に乗せている由美子の命令どおりに、首を真上に向けて上空まで一直線に飛んでいった。
「うわわわあああああー!」
真っ暗闇のくちばしの中で、エレベーターが上にのぼる時の気持ち悪さを味わいながら、浩一は怯えていた。
「僕はこれからどうなるのだ……」
そう考えたのと同時に、目の前が明るくなった。
ロプロスがくちばしを開けたのだ。

その他さんのCGです。 ギャラリーにもありますよ〜!
 くちばしの外に広がるのは、青い空、輝く太陽、そして眼下には雲が浮かび、そのすき間からは地上がまるで模型のような……

「ぺっ」

浩一は、ロプロスの口から吐き出された。
「げえっ!わあああああーーーーー」
そのまま浩一は地面に向かって落ちていった。

ドッシーーーーーン!!!バキバキバキバキッ!ドサッ。

「何!?何が落ちたの!?」
ユキが、以前に浩一が落ちて屋根に大きな穴を開けた建物に駆け込むと、
天井にはふたつめの大穴が開いていた。
そして穴の下には、浩一がうつぶせになって倒れていた。
「カン太くん!?一体これはどういう事!」
「あああ、あず、あず…」
「えっ?何言っているの?」
「あずき…アイスが……」ガクッ
「カン太くん?しっかりして!おじいちゃん、おじいちゃーん!」

再び、救急車で病院にかつぎこまれる浩一であった。

 ★その12はナンバリングのミス?? ...のようです、中島さま...


 ★その13

ユキは記憶を取り戻した元カン太、浩一に詰め寄った。

「カン太くん、どうしちゃたの?私の事、忘れちゃったの?」
「???えーと、どこかでお会いしましたっけ……?」
「冗談でしょ?昨日まで一緒に暮らしていたじゃない!名前も思い出せないの?」
「カン太、落ち着いて、よーく思い出してみるんじゃ。わしらの事、覚えておらんなんて事はないじゃろ?」
「ここひと月、ずっと一緒にいたのよ?私の事、わからない?」
「ひと月!僕は空から落ちて、一ヶ月も気を失っていたんですか?!」
「そ、そうじゃなくって……」
「そんなに長くお世話になっていたとは、本当に申し訳ないです。すみません!」

深々と頭を下げる浩一。途方に暮れるユキと祖父。

「やはり昨日落ちた時に頭をぶつけたのかの。その拍子に失くした記憶が戻って、代わりにわしらと過ごした時の記憶が無くなってしまったようじゃ……」
「そんな!なんとか思い出してよ、カン太くん!」
「いえ、あの、僕の名前はカン太じゃなくて…」
「カン太じゃなくて、浩一くんっていうのよ!」

ユキが振り返ると、病室のドアの横に、ブレザー制服を着た少女が腕組みをして立っていた。

「ゆ、由美ちゃん!どうしてここに?」ぼくっ!(パンチをくらう音)
「ひと月も行方をくらましておいて、どうしてじゃないでしょ!さんざ探したんだから!」
「ご、ごめん由美ちゃん……(左のほっぺが真っ赤にはれあがる)」
「あ、あなたは…?」
「カン太の知り合いかの?」
「あ、由美ちゃんは、その、僕の…」
「浩一くんの主人です!」
「なぬっ!?」
「なんですって!?」


 ★その14

ユキは浩一に向かって聞いた。

「こういちくんの主人って……それ、どういう意味なの?」
「え?!つ、つまりだね、えーと、言葉のまんまの意味だなあ…」
「浩一くんは、私の命令にいつでも従うという事よ。逆らう事はできないの。」
「なんなのよ、それ!今の民主主義の日本で許される事なの?」
「私達は日本に住んでないわ。だから日本国憲法なんか関係ないの。」
「カン太くんがかわいそうよ!ちょっと、カン太くんはなんとも思わないの?!」
「ぼ、僕が?!それはだね、えーと……」
「言ったでしょ?浩一くんには私の命令が絶対なの。彼の意思なんて知った事じゃないわ。」
「横暴よ!人権の侵害だわ!」
「浩一くんに人権なんかありゃしないの!」
「………無茶苦茶だわ。カン太くん!こんな人のいいなりになる必要なんてない、自由になって、自分のために生きるべきよ!」
「浩一くんの生き方は、浩一くんが決める事じゃないわ。私が決めるの。」
「こんな事言われて、どーして怒らないのよっ、カン太くんは!」
「は、はあ……(ボリボリと頭を掻く)」

ユキが何を言っても、このひと月の間の事を全部忘れてしまった浩一には、この女の子は何をムキになっているのだ、という程度にしか聞こえないのであった。
一方、自分が浩一のためを思って、このえらそうな少女に対抗しているというのに、当の浩一本人はぼやーっと聞いているだけなのが、ユキには腹立たしかった。

「カン太くんがワタリ牧場で過ごした事を思い出しさえすれば、絶対そんな生き方間違ってるって気づくはず!でも、どうすれば思い出すの?」

そんな事をユキが考えている間に、由美子は浩一の腕を引っ張って、耳元に小声で話しかけていた。

「浩一くん、あの女の子は誰なのよ?」
「誰って、今会ったばっかりで、名前も知らないよ。」
「うそでしょ?!それにしてはずいぶん浩一くんに、親しげに話しかけてるじゃない。」
「それがよくわからないんだ……僕が気絶してる間に一ヶ月も経ってるっていうし…」
「一ヶ月も気絶?何を言っているのよ。元気に買い物に行ってたじゃないの!」
「ええっ?ぜんぜん覚えてないよ、そんな事してたなんて。」
「……………入れ替わりに忘れたのね。しょうがないわねえ、ロプロース!」

翼を羽ばたかせながら、病室の窓の向こうから顔を見せるロプロス。由美子は浩一の首根っこを引っつかむと、窓を開けて、浩一をロプロスの口の中に放りこんだ。
由美子もロプロスの背中に乗ると、ユキと祖父の方を見て、

「待っててください、すぐに戻ってきます。ロプロス、上昇してちょうだい!」

由美子が叫ぶとロプロスは病院から飛び去っていった。
それから30分ほど経つと、再びロプロスが窓から顔をのぞかせ、背中から由美子が病室に飛び移った。
ロプロスの口の中には浩一が、昨日の入院直前と同じ状態で気絶していた。

そして、また一夜が明けた。


 ★その15

「…う〜ん…はっ。」

病室のベッドで浩一は目をさました。ベッドのそばで、ユキがイスにすわって浩一をみつめていた。

「おはよう、カン太くん…じゃなくて、浩一くんっていうのね、本当の名前は。」
「う、うん……」
「身体の調子はどう?」
「うん、一晩寝たらすっかり良くなったよ。ほら。」
「あ、まだ起きあがっちゃだめ。」
「全然平気だよ、ハハハ。」
「……本当に、浩一くんて不思議な人ね。あんな大怪我してもすぐ治ってしまうんだもの。」
「丈夫なだけがとりえなんだ。……昨日はごめん、ユキちゃんの事がわからなくて。」
「そんな事はいいのよ、ちゃんと思い出してくれたんだから。」
「ユキちゃん…」

しばらくの間、互いにだまってうつむく浩一とユキ。

「浩一くん、自分の事はもう全部思い出したのね。」
「うん。ユキちゃん、本当に、いままでどうもありがとう。」
「やっぱり、退院したら自分の家に戻るのよね。」
「ああ、でも屋根の弁償代は必ずなんとかするから。」
「うん…ねえ、浩一くんておうちはどこなの?手紙だすからさ。」
「ええっ!そ、それは、そのお…」
「???どうしたの?」

だまりこんでしまう浩一。怪訝そうに浩一の顔をのぞきこむユキ。
一方、由美子はユキの祖父に案内されて、ワタリ牧場にいた。
牧場内のとある建物の天井には、浩一が空から落ちてぶちぬいた、三つの大きな穴がある。
穴はかろうじて、板を釘で打ち付けてふさいであった。板のわずかなすきまから風が吹く。

「まあ……これはひどいですね。」他人事のように言う由美子。
「まったく、カン太…浩一さんが落ちてきた時は、何事かと思ったもんじゃ。しかし、浩一さんの全身の骨が砕けていたのが、一晩で直ってしまった時は、もっとたまげたわい。」
「あの、これを完全に修理するには、どのくらいかかるんでしょうか?」
「そうじゃなあ、おおまかに見積もっても××××万はするのう……」
「そっ!?そうなんですか。」由美子は平静を保とうとした。
「まあ、あのまま浩一さんの記憶が戻らずに、一生ここで働きつづけたとしても、無理な額じゃわいな……」

記憶が戻ったって無理です!とおじいさんには言えない由美子であった。


 ★その16

東京・古見医院。かつて由美子と浩一が暮らしていた古見家は、この医院とつながっている。
古見家から、古見医師のいる医院の建物へ駆け込んでゆく由美子の母。

「あなた!見てくださいな!これを」
「うむ?こ、これは!由美子からの……」
「ええ。今さっき郵便で来たんですわ。あの子ったら、今までずっと行方をくらまして、どこで何をしているかと思ったら……」目頭を押さえる母。

由美子と浩一は半年ほど前までこの家にいた。
浩一は幼いころに両親を亡くしてから、おじの古見医師に引き取られ、いとこの由美子と兄弟のように育てられたのだった。
しかし、半年ほど前、浩一は突然現れた怪鳥につれ去られ、行方不明となる。それから三ヶ月ほど経ってから由美子も怪鳥にさらわれてしまった。
古見夫妻は消えた二人を必死で探しているが、まるっきり消息は知れない。

「ママ、開いて見てくれ。」
「ええ。」母は、はさみで手紙の封を切った。

パパとママへ

お久しぶりです。なんの連絡もしなくてごめんなさい。
私は浩一くんと一緒にいます。二人とも元気です。

実は、浩一くんが北海道で、他人の家の屋根に穴をあけてしまったのです。
その屋根を弁償しなくてはなりません。
そんなわけなので、パパ、下記のワタリ牧場という所の口座に××××万円、振り込んどいてもらえる?
よろしくね。

(銀行名と牧場の口座番号が書いてある)

○年○月○日   古見由美子

「…由美子…」
「この子ったら、もう…うっううう…」

頭を抱える父と、目に涙をあふれさせる母であった。


 ★その17

浩一が突き破って穴をあけた、ワタリ牧場にある建物の屋根が、修復されて元に戻った。

「おじいちゃん!これは…」
「おお浩一さん、あんたの家の人が、修理の費用を払ってくれたんじゃよ。」
「由美ちゃんが?…どこから出たんだ?そんなお金…」
「浩一さんもうちでよく働いてくれて、ありがたかったわい。今まですまんかったのう。」
「いいえ!穴をあけたのは僕なんですから、当たり前の事です。それに、さん付けで呼ばれると調子が狂うなあ。呼び捨てにしてくれていいのに。」
「うむ?いやあ、今までカン太と呼んでおったもんじゃから、名前が変わるとワシも調子が狂ってのお。」
「名前が変わっても、中身が変わるわけじゃありませんからー。」
「そりゃそうじゃが。ワハハハハ」

浩一とユキの祖父が話しているところに、ユキが現れた。

「ユキちゃん。」
「浩一くん、屋根がなおったから、もう家に帰るのね。」
「うん…いままでどうもありがとう。楽しかったよ。」
「私だって楽しかったわ。…ねえ、また会えるわよね?」
「ああ。そのうちここに遊びに来るよ。」
「本当に、きっと来てね!」

しかし、ユキの心の中では不安がうずまいていた。

「浩一くーん、行くわよー。」
「由美ちゃん、わかったー。それじゃ、お世話になりました。」

浩一はおじぎをすると、建物の外へ駆け出していった。

「あの由美子さんて人、本当に浩一くんの主人なのかしら…」
「ハハハ。あれは冗談じゃて。姉さんかなにかじゃないかの?」
「そ、そうよね、本当に浩一くんがドレイにされているワケないわよね。はははっ。」

ユキは祖父に笑って見せていたが、急に黙ると建物を飛び出し、浩一の背中に向かって叫んだ。

「待って!待ってちょうだい、浩一くん。」
振り返る浩一。
「ユキちゃん…」

ユキは浩一のそばまで駆け寄っていった。その様子を、黙って見つめている由美子。

「浩一くん…」
「なんだい?ユキちゃん。」
「…行かないで」
「ん?」
「ううん、なんでもない。ただ、もう二度と会えないような気がしたから。」
「え?ハハハハハ、大丈夫だよー。僕ががんじょうだってユキちゃん知ってるだろ?そう簡単に永遠のお別れになんてならないさ。」
「違うの。浩一くんが、ここを忘れちゃうんじゃないかって思って…」
「そんな事、あるわけないじゃないか。絶対に忘れたりしないよ。」
「……………」

黙りこんだままうつむくユキ。浩一はユキの肩に右手を置くと、笑って見せた。

「ユキちゃん。仲良くしてくれて、本当に嬉しかったよ。今までの事、決して忘れない。必ずまたここに来るから…ね」
「………うん。」
ユキは下を見たまま、うなずいた。

浩一もうなずくと、再び由美子の元へ駆け出していった。その後ろ姿を無言で見送るユキ。

「由美ちゃん、待たせてゴメン…」
ボカッ!

次の瞬間、浩一の体が10メートル程飛ばされ、ユキがいる手前の地面に叩きつけられた。

「きゃああ!浩一くん、大丈夫!?」
浩一に駆け寄るユキ。浩一はすぐにむくっと起きあがると、自分を殴った由美子の方を見た。唇から血が出ている。
「ゆ…由美ちゃん…どうして…?」

由美子は、右手の拳を前に突き出したまま叫んだ。
「浩一くんなんか、クビよ!」


 ★その18

「く、クビい!?」
「そーよっ!浩一くんなんか、路頭に迷えばいいんだわ!」
「ど、どうして急にそんな事を…」
「別にいーじゃない、ここで暮らしたいんなら、いつまでもここで働いてれば!」
「そんな事言ってないだろ!」
「ウソばっかり!浩一くんのバカ!」

そう言って由美子は、立ちあがった浩一の目の前に走り寄ると、浩一の左右の頬に平手打ちを食らわせる。
ビシバシビシバシビシバシビシ!右と左の頬に各20回ずつ。合計40回ほど。
浩一は由美子の手の動きの素早さに、かわす事もできずに殴られていた。
浩一の顔を殴り終えると、由美子は浩一のひざのあたりを、左右の腕でかかえて引っ張り上げる。
殴られて目が回りかけている浩一は、簡単に引き倒された。
由美子はそのまま浩一の両脚をつかんだまま、体をぐるぐると回転させる。
遠心力によって、浩一の体はふわりと持ちあがり、由美子の回転に合わせて振り回された。
浩一の頭に血が昇って、気持ち悪くなってきたころ、由美子は浩一の脚から手を離した。
浩一の体はその途端に、50メートルほど遠くに飛ばされ、積んであったワラの中に突っ込む。

「ゆ…由美ちゃん…もう…やめて…」
浩一がワラから顔を出すと、由美子はすでに目の前に立っていた。
「まだまだ甘いわ!」

由美子は浩一の胸ぐらをつかんでワラの中から引きずりだすと、今度は腕をつかんで回転し、手を離した。
浩一の飛ばされた方向には、ロデムが黒い壁に姿を変えて待ち構えている。
「びよん」と、もと来た方向へ勢いよくはじき返された浩一は、由美子が右腕を横に伸ばし、自分めがけて走って来るのを見た。
「とおーーーーーっ!」
由美子の腕が浩一の腹にぶつかった。
「ぐほっ」
浩一はその一撃を食らうと、目をむいたまま後ろに倒れた。

「いやーーーーーっ!浩一くん!」
ユキは絶叫し、浩一に駆け寄って呼びかける。
それを見た由美子は、「ふんっ」とそっぽを向き、ロプロスに飛び乗ると、
「浩一くんなんか、だーーーいっ嫌い!」
と、ふるえる声で叫び、牧場から飛び去っていった。


 ★その19

北海道上空。雲の上を猛スピードで飛ぶ怪鳥ロプロス。
その首につかまっているのは、ブレザー制服姿の由美子と、黒ヒョウのロデム。
「ゴ、ゴ主人サマ!ロプロスノ速度ヲ落トシテクダサイ、振リ落トサレテシマイマス。」
「……………」
由美子は無言だったが、ロプロスのスピードはゆるめられた。
「ゴ主人サマ、ナゼ浩一ヲ連レテ来ナカッタノデスカ?」
「浩一くんが来たがらなかったから、クビにしたの。」
「来タガラナカッタ?」
「…浩一くんは、牧場のユキちゃんって子と一緒にいたいんですって。だから、私の所には帰りたくないのよ。」
「???ヨク判リマセンガ」
「ロデムには関係ないわ!黙ってて。」
そうして、由美子は塔に着くまで沈黙したままだった。

一方、浩一はベッドの上で目を覚ましていた。
「う…ん、あれ…?」
「あっ!浩一くん、大丈夫?」
「由美ちゃん、由美ちゃんは?!」
浩一はガバっと起きあがると、側にいたユキに尋ねた。だまって首を横に振るユキ。
「そう…」
僕を残して行ってしまったのか…。そう思いながらぼんやりと窓の外を見る浩一。
『浩一くんなんか、クビよ!』
頭の中で由美子の言葉がくり返され、浩一の胸をえぐられるような痛みが走った。
ベッドの上で黙り込んでしまい、うつむいている浩一を見て、ユキはそっと部屋を出ていった。
ドアを閉めたユキの目に、涙が浮かんだ。
「由美子さんに比べたら、浩一くんにとって私なんか、いないも同然なんだわ…」

塔に着いた由美子は、真っ先に自分の寝室に駆け込んだ。
「ゴ主人サマ!ドウナサッタノデスカ」
「ほっといて!声をかけないでよ!」
由美子はそう言うと、ベッドの中にもぐり込み、寝室に閉じこもってしまった。


 ★その20

ヨミの部下である超能力者、シムレとダンカンは食糧の買い出し当番であった。
建築工事中の海底基地から、陸に上がり、スーパーに入った。
品物を買い物カゴに入れ、精算をすませて店を出る。
「さあ、早く基地に戻ろう。」
「それにしても、いま店でみた栗、栗ごはんにしたらうまいだろうなあ。」
「ばかっ、目的以外のものを買ったりしたら、ヨミさまに怒られるぞ。」
「そうだな、急いで帰ろう。」
スーパーから立ち去る二人の後ろ姿を、じっと見ている少年がいた。
「あのスーツ、どこかで見たような気がするなあ…?」

「ただいま。」
「浩一くん、おかえりなさい。」
由美子の元を追い出された浩一は、ワタリ牧場で働いていた。
ユキは、浩一と一緒にいられる事は嬉しいが、浩一がどことなく元気がない様子なのが気がかりで、あまり素直には喜べなかった。
浩一の元気がないのは、由美子とケンカ別れをしたせいだ、とユキは思っていた。
決して口には出さないけれど、浩一は由美子と仲直りする事を願っている。
いつか由美子が、自分を迎えに来てくれるのを待ち続けている。
そう考えるたびユキは、自分の胸に嫉妬の感情がわき上がるのに気づいた。
「浩一くん、由美子さんの事なんて、忘れてしまえばいいのよ!」
そんな言葉がのどまで出かかっては、必死に抑えこんだ。

夜、浩一は自室で物思いにふけっていた。
「由美ちゃん、ちゃんとご飯食べてるかなあ…」
心配で様子を見に行きたくても、浩一はバベルの塔へ帰れない。
ロプロスやポセイドンを呼び寄せても、由美子がより強いテレパシーで呼び戻してしまう。
電話もない、手紙も届かない。
「ご飯より何より、もしまたヨミみたいなのが現れて、由美ちゃんが戦う事になったらどうするんだ。ここからじゃ、僕は何にも出来ないもんなあ…」
そこまで考えた時、浩一はある事を思い出した。
「昼間の、買い物してた男達が着てたスーツ、あれ、ヨミの部下が着ていたものじゃなかったか?」
浩一は、すぐ首を横に振った。
「いや、まさかそんな…ヨミは由美ちゃんが確かに倒したはず。でも…!」
疑問を抱いたまま、夜は更けた。


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