『追って追われて』
「ふぁあ〜あ」
僕は大きなあくびと共に目覚めた。寝る前ならともかく、起きてからもあくびするなんて、相当寝たりないのかな?でももう10時間以上バッチリ寝ちゃってるし……。それにやってみると気持ちいいけど、周りから見ればそれはマヌケな姿に違いない。まあ、誰もいないからおもいっきりあくびもできるんだけど。
ゴツン。
あれ?何だ?テレビのリモコンかな?いや、それにしては妙に暖かで、柔らかい……。
これって……人の肌?
「はは……まさかねぇ」
そう思って布団をめくってみると……。
「すぅー、すぅー」
小さな寝息をたてた朝日奈さんが横になって眠っている。
「あ、朝日奈さん!?」
どうして朝日奈さんがここに!?っていうか、一緒に寝てた!?よーく見てみると、朝日奈さんは下着を身に着けてるだけ。こ、これって……?
「と、ともかく落ちつこう」
とは思っていても、横には下着姿の女の子が寝ているのだ。しかもかわいい寝顔で。この状態で落ちつけっていうのも無理な相談だ。しかも起きぬけで、朝立ちしてる状態っていうのに!
「う、うぅん……」
朝日奈さんが寝返りうった。腕を頭の上にやった格好になり、まさに豊かでみごとな胸が目に飛び込んできた。
「こ、これは見事な……」
上を向いても形の崩れない胸には、ただただ見とれるばかりだ。
ゴクッ……。
僕はついツバを飲みこんだ。
「さ、触っちゃおうかな……」
僕の手は、いつのまにか丸い球体を触る準備ができていた。どうやら、頭で考えるよりも身体の方が先に反応していたらしい。
「そ、それでは……」
自分で言うのもなんだがさっきからどもってばかりだ。やっぱり緊張しているのかもしれない。などと思いつつ、手はゆっくりと朝日奈さんの胸へと近付いて行く。
そして、今にも触れようかという瞬間
バアン!!
という大きな音と共に、部屋のドアが開いた。そこには……
「渉部くん……」
なぜかものすご〜く恨みがましい声。
「に、虹野さん!」
そう、そこには僕のあこがれの人、虹野さんが仁王立ちして、こちらをにらんでいた。
「あ、いや、これは……そう!違うんだ!」
何がどう違うのかは説明できなかったけど、とりあえず僕はそう言いながら、両手を後ろに隠した。
「なによぅ……うるさいなぁ」
やっと朝日奈さんも目を覚ましたようだ。
「あっれー?沙希ちゃんじゃない。こっちに来て一緒に楽しもうよ!」
一緒に……楽しむ?まさか……。
僕は良からぬことを想像してしまった。そんな、3人でなんて……ドキドキ。
「ふざけないでよ!」
そう言うと、虹野さんはどこから取り出したのかサブマシンガンを僕達二人に向けて乱射し始めた!
ガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
「ちょ、ちょっとぉ!当たったら死んじゃうじゃないの!」
そう言いつつ朝日奈さんは僕の手を取ってすばやくベッドから飛び出し、一気に窓の前まで移動した。着地した瞬間僕の目に入ってきた映像は、もうめちゃめちゃで見るも無残な姿になっていた我が愛しの部屋だった。ああ、ここで僕はどれだけ虹野さんを妄想の中で汚してしまったのか……。ひょっとしてそれがバレた?いや、いくらなんでも虹野さんはエスパーじゃないんだし。
「観念なさい!」
虹野さんは再びサブマシンガンをこちらに向ける!どうして!?誕生日にちゃんと拒人の星全集をプレゼントしたじゃないか!!
僕は覚悟を決められないまま立ちすくんでいた。と、次の瞬間僕は空中に身を躍らせていた!
「ひえぇ〜!」
どうやら朝日奈さんが僕を抱え込んで窓から飛び降りたらしい。にしてもどうしてこんなに長く落下してるんだ!?2階の部屋から飛び降りただけだってのに!
ん?この白いのは……雲!?うそだろ?ここは上空何メートルなんだぁ!それにこのスピード!体がバラバラになりそうだ!
そういえば、いつのまにか朝日奈さんと僕の身体はしっかり固定されており、ゴーグルもかけていた。しかし、この顔を切り裂くような冷たい風。なんとかならないの!?
なんとか薄目を開いて周りを見ると、ただ青い空間が広がっていた。所々で白い雲が顔を見せるものの、青い空間にアクセントを添えた様でぴったりマッチしていた。……今時マッチなんて言葉、誰も使わないか。
「パラシュートを開くわよ!ちょっとキツイけど我慢して!」
ブワァ!という音と共に豪快にパラシュートが開いた。空気の抵抗をいきなり感じたためか、身体が舞い上がるような感覚に包まれた。
「ふわぁー!」
僕は声にならない悲鳴を上げた。落下するスピードは多少落ちついたものの、それでもやっぱりコワイものはコワイ!
「そろそろ着陸するわよ。足をそろえて上に上げて!」
下を見ると大地が近付いて来る。ただ果てしない草原が眼下に広がっていた。
そしてズザザァという音と共に僕らは着陸した。
「ふいー。なんだかめったにできない経験ができたな」
なんて一息つこうとしていたら、朝日奈さんはパラシュートを取り外し、スカイダイブ用のウェアを脱ぎ捨て、半袖短パンの格好になってダッシュし始めた。
「私についてきて!早くしないと追っ手が来るわ!」
「追っ手?」
「あれよ!」
そう言って指差した方の空を見上げると、確かにこちらにぐんぐん向かってくる人影が見えた。
「わかったでしょ!さ、はやく!」
そう言われた僕は、ただ朝日奈さんについて行くしかなかった。それにしても朝日奈さん、めちゃくちゃ早い。いつもマラソンとかだと最下位候補だったはずだけど……?
あつぅ……。焼けそうなほど喉が乾いていた。滴る汗もいつのまにかなくなっている。完全な脱水状態だ。
ヤバイ……。
どう考えてもこれ以上走れそうにない。朝日奈さん、なんであんたそんなにタフなの……?
意識がもうろうとして、何を考えているのか分からなくなったころ
チュイーン!
という音と共に、足元の石がはねた!後ろを振りかえってみると虹野さんが低く身構えライフルでこちらを狙っている。
「う、ウソだろおい」
「残念だけどウソじゃないわ。さあ、こっち!」
僕はいつ撃たれるかと背中が気になったものの、とにかく一心不乱に走った。脱水状態だろうが意識が混濁してようが、耳に「飲みて〜!」という声の後にC.Cレモン歌が聞こえようが、とにかく走って走って走りまくった。
どうやら狙撃はあの一発だけのようだが、追いかけてきていることには変わりがなかった。
どれくらい走ったか、1分か1時間か自分でもわからなかったが、そうこうするうちに海岸に出た。
「海か……」
しかしここはどこなんだろう?さっきまでは見渡す限り緑の生い茂っている草原だったのに、今はだだっ広い海が目の前に広がっている。
「地平線の次は水平線か」
などと感心していると、
ドカーン!
僕から5、6メートル離れた地点で爆発が起こった!
「なに?なんなの!?」
「手榴弾を投げつけてきてるわ!早く海に入って!」
「ええ!?」
自慢じゃないが、多少泳ぎに覚えがあるとはいえ、遠泳や素潜りなんてとてもできそうにない。しかし、四の五の言ってる状況ではないことはよーく分かっていた。
「行くわよ!」
そう言って朝日奈さんがものすごいスピードで泳いでゆく。あのスピードなら清川さんといい勝負ができるかもしれない。今からでも遅くないから水泳部に入部すればいいのに。なんて呑気なこと言ってる場合じゃない。後ろには手榴弾を投げつける虹野さんが迫ってきているのだ。もうこうなっては説得の仕様もない。ただひたすら逃げるしか手段がないのだ。僕は急いで海に入り泳ぎ出した。
冷たい水が僕の身体を刺激する。ちりちりと焼けた肌に冷たい水。さながらサウナの後に入る水風呂のようだった。生命を司る母なる海が、僕の身体に息吹く命を癒してくれたのだ。くう〜、俺って詩人。そうだ。これからはペンネームを吟遊詩人ガライと名乗ることにしよう。
などとオバカな事を考えているうちに、いつのまにか朝日奈さんがどんどん潜って行く。僕も遅れずついて行くことにした。息ができないとか、浸透圧がどうだとか言ってられなかった。とにかく潜って潜って潜って行った。そして気が付いてみると苦しくない。息ができる。あれ、なんでだろ?別にエラ呼吸しているわけでもないんだけど。おまけに視界も良好。地上と何一つ変わりなかった。う〜む。
………………………………ま、いいか。とにかく泳げる事には変わりないんだから。
シュー
ん?……モリ!?
「なんて用意周到なんだ!」
まったく虹野さんの装備には恐れ入る。でも、これは不得意らしく、かなりあさっての方向に飛んで行った。
「私達には何も装備がないからしかたないわ。現地調達しか手がないなんてね!」
あれ?海の中なのに会話ができるの?…………ま、いいか。息もできるんだし、話せた方が何かと便利だ。
追撃をかわしながらひたすら泳いだ。しばらくすると目の前に海底トンネルが現れた。
「この中に入るわよ!」
「OK!」
僕は海底トンネルへと入っていく。じょじょに辺りが暗くなり始めた。当然といえば当然だ。光が入ってこなくなってるのだから。
完全に真っ暗になったと思った瞬間、突如まばゆい光が目の前に広がった。
「まぶしいっ!」
実際なんの前触れもなく急に強い光を当てられたら誰だって驚く。あ〜まぶし。視力落ちてないだろうな?
「その前に夜更かしとゲームの時間を減らせ!」
どこからか威厳のありそうな声で僕の頭の中に響いた。
「ほっとけ!」
とりあえず光に慣れた僕は、ゆっくりと目を開いた。おや、うえの方に水面が。そうか出口か。長かったなぁ。マラソンの後にいきなり水泳だもんね。こちとらトライアスロンなんてやりたくないやい!
「早く上がって!」
朝日奈さんの声が聞こえる。どうせなら前もって教えてくれてもよさそうなものを。
「よっこらしょ」
僕はつい掛け声と共に上がった。どうも最近オジさんくさくなってないか?いや、そんなわけがない!まだ17歳という青春真っ盛りの僕が、オジンになってるわけがない!
周りを見渡すと、小さな部屋の中で、出口はちょうど3m四方ぐらい。そして1つだけドアがあった。
「ちょっとどいててね」
そう言って朝日奈さんは僕を部屋の隅へと追いやった。僕は素直に従い、朝日奈さんの邪魔にならないようどいた。朝日奈さんは
「せぇーのっ!」
と気合を入れて出口に分厚い鉄板の蓋をした。
「これでだいじょーぶ!」
パンパンと手を払いながら、ゆっくりとドアのノブに手をかける朝日奈さん。
「さ、こっちこっち」
とりあえず危機は去った。いくら虹野さんがどこに隠しているか分からないほど、というよりは思いついた武器をあっさりと出せるような存在であれ、真っ暗闇の水中に、しかも出口は閉ざされ出てこれないという状況ならなにもできないに違いない。心の奥では少し痛みを感じていたが……。
扉をくぐるとそこはまるで高級ホテルの最高級ロイヤルスイートと呼べる豪華さだった。何であんな部屋につながっているのかが不思議で仕方なかった。が、しかしこれまでの事を考えると別に対した事ではないように思えてくる。それに今までは陸・海・空と死ぬような思いをしてきたのに対し、ここはいわば極楽。僕はしばらく平和というなの安らぎが得られると思い、緊張してこわばっていた体中の力が抜けた。
「ふぃ〜」
僕はものすごく大きいベッドに体をあずけた。最後にこんなに心から安心できたのはどれくらい前なんだろう……。
僕はベッドのふかふかした柔らかさにいざなわれるかのように、ゆっくりと睡魔が近付いていた。無理もない。僕自身とても疲れている。それにこんなベッドで寝れる経験なんてそうそうないしね。
うとうととまどろんできたころ……。あれ?なんかキモチいい?布団の柔らかさじゃない。僕の体全体に走り抜ける快感。体が重い……?いや、なにかのっかかってる?けど暖かで柔らかくていいにおいがする。
ゆっくりと意識がはっきりとしてくる。ん……。
朝日奈さんが僕にキスをしていた。まるでキスで目覚めた格好だ。かなり濃厚で、あむ、あぁん、うん、と喘ぎながら僕の唇を求めてくる。僕も朝日奈さんのやわらかな唇を求め返した。
長い長いキスを終え、朝日奈さんが僕に覆い被さる形でもたれかかってきた。
「渉部くんとのキスってなんだかキモチいい。何回やっても飽きないよ」
じーん。うう、朝日奈さん、かわいいこと言ってくれちゃって。
そういえば今まで気付かなかったけど、僕も朝日奈さんも裸になっていた。ええ……?
こ、この展開は……。
朝日奈さんはこっちを見て、
「じっとしてて。もっと気持ち良くさせてあ・げ・る」
「あ、朝日奈さん……」
僕ら二人は肩で息をしていた。朝日奈さんはふうふうと息をつぎながら、ゆっくりとつながったまま僕の上にかぶさってきた。そして僕のおでこに人差し指を当てながら
「気持ちよかった……?」
と聞いてきた。僕の答えは1つしかない。
「うん。今まで味わった事のない気持ちよさだった」
と素直に返した。が、次の瞬間僕は今まで味わった快楽を一気に吹き飛ばしてしまうかのような不安に襲われた。もしも。もしも朝日奈さんが僕の子供を宿してしまったら……?
「あ、あのさ……」
「なに?」
「ひょっとしたら……妊娠しちゃうんじゃないかって……」
深刻そうな顔でそういった僕を、朝日奈さんはニカッと笑って答えた。
「それならそうで産むわよ。もちろん賛成だよねっ!」
と逆に同意を求められてしまった。
仕方ない……。まだ17とはいえ既に婚約者を持つことになってしまった。でも、あの快感をこれからも味わえるならそれはそれでいいかもしれない。ごめんよ虹野さん。僕は君のやさしさよりも、快楽の方を取っちゃった……。
「さ、早く着替えて」
あれ?いつのまにか僕らは2人ともシャワーを浴びたような気がした。まあいいか。汚れてる所も汚れてない。僕は深く考えず服を着た。でもなんでそんなに慌てているのだろう?べつにもっと余韻に浸っていてもいいんじゃない?
「いそいで!やつが……やつが来る!」
「やつ?」
僕はマヌケな声で聞いた。
「さっきまで追われたのを忘れたの!?」
朝日奈さんの顔は真剣だ。
「え……?でも、蓋もしたしもう大丈夫なんじゃないの?だから、もう1回やろうよ」
僕は自分でもかなり大胆なこと言ってみせた。やはり、先ほどまでの快感が忘れられないみたい。きゃっ、くせになりそッ!
「バカなこと言ってないで早く!あの音が聞こえないのッ!?」
そう言われてみればなんだかどんどん騒がしい。さっき部屋に入ってきたドアからだ。
あれ……?ということは……。
「またかよ〜!」
そう言って僕は急いで手近にある服をつかみあわてて着た!
朝日奈さんはそんな僕などお構いなしに、部屋の本当の入口から出て行こうとしていた。
おいおい、置いてきぼりかい!
そして服を着終わってドアをくぐった瞬間、
バアン!
と威勢のいい音がした。ドアが破られた?これは……マズイ!
そう思うよりも早く僕は空前絶後のダッシュを見せ、一気に朝日奈さんに追いついた。
ドアの外は普通のホテルで、廊下が伸びているだけ。
「朝日奈さん、ここって何階!?」
「たぶん……78階!」
「なんやてぇ〜!?」
おっといけない。関西弁を使ってしまった。
しかし、エレベータを待っていたらいつ追いつかれるか分からない。ここは階段で降りるしかない……そう考えていた矢先
パアン!
銃声!?もしや!
はたして、その音の発信者は虹野さんだった。
「追いつかれた!?」
とはいえ、距離にしたら相当な距離がある。とりあえず廊下の端から端までたっぷりとあった。そこの非常階段に出れば……。
そう思ったと同時に朝日奈さんが非常階段へのドアを開けた。
下を見ると……人がほんの点にしか見えなかった。
「うわ、めちゃくちゃ高い……」
これじゃあ高所恐怖症の人なんかはショックで気を失うに違いない。それでなくても78階分風がビュンビュン吹いている中降りなくてはならないのだ。もうほんと助けてください。
非常階段を降りようとした瞬間……。
ガバァ!
「に、虹野さん!」
虹野さんが飛びついてきた。おいおい、なんであれだけ距離があったのにそんな一瞬で追いつけるわけ!?
「うわあぁぁぁ!」
僕は虹野さんともに階段から飛び出した格好となり、とにかく叫びまくった。ただただ落下。今回は前回と違い安全装置などは一切ない。そう。地面に到達した瞬間に死が待っているのだ。
「死にたくな〜い!」
恐怖のあまりに目をつぶる。くっ……、俺の人生ここまでか。最高の快楽を感じた後で死なんてひどすぎるぅ!
あれ……?おかしい。さっきまで垂直落下していたはずなのに、今は横方向に移動している。いくら目をつぶっていたって感覚で分かった。僕はおそるおそる目を開けた。
道路をものすごいスピードで走っている。いや、よくよく見てみると宙に浮いている!虹野さんが僕を抱えながら、わき目も振らずに弾丸の様に飛びつづけているのだ。
「うわあああああああああああああぁぁぁぁぁ」
目の前の十字路から急に車が飛び出してきた!こ、今度こそ本当に死んじゃうのか?だが虹野さんはその車の屋根まで浮かび上がり、そのまま屋根を踏み台にして高くジャンプした!
「うそおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ」
僕はというとさっきからわめいてばかりだ。そういえば朝日奈さんはどうしたんだろう?
広い公園について、虹野さんはそこで着地した。どうやらここに向かって飛びつづけていたらしい。そして着地すると同時に、僕もその場に立った。
「渉部くん……」
虹野さんが口を開いた。どうやら話し合いの余地は残されているらしい。
「どうして?どうして朝日奈さんにたぶらかされてるの!?」
えっ?僕は不意に聞かれ言葉を失った。たぶらかされてるだって?
虹野さんがゆっくりと僕に近付いてきた。殺されるのだろうか?だが、虹野さんの悲しそうな表情を見ている限りとても僕を殺すとは思えない。おお、なんだかサスペンスチック!
ぎゅっ……
「に、虹野さん……」
「お願いだからしばらくこうさせていて……」
そんな虹野さんを見て僕は自然と彼女を抱きしめていた。
「こおおおおあらあああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
ものすごい叫び声。この叫びに反応したのか、草はざわめき、木々は振動し、鳥たちはいっせいに飛びたった。この声は……
「さっさとはなれろおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
僕は声に反応し、そちらを向く。予想通りというか声の主は朝日奈さんだった。
虹野さんはさっと僕から離れ、朝日奈さんに対して身構える。
2人の間に緊張感が走る。
「波動拳!」
朝日奈さんが放った技に虹野さんも反応する。
「パワーウェイブ!」
2人の飛び道具が炸裂する!2人の放った技はちょうど2人の立つ中間地点で消滅した。
「竜巻旋風脚!」
朝日奈さんが回転しながら蹴りを繰り出す。
「バーンナックル!」
だが、落ちついて虹野さんも対応した!
2人の放った技は相打ちとなり弾き飛ばされる!だがすぐさま着地し、虹野さんが
「クラックシュート!」
を朝日奈さんに叩き込む。朝日奈さんはモロに食らってしまった!
キレた朝日奈さんはジャンプして虹野さんに攻撃を加えた!
飛び蹴りを加えた後、そのままアッパーを繰り出した!そしてアッパーを引き戻すモーションをキャンセルした!
「波動拳!」
いわゆるキャンセルの基本3段といわれる技だ。だが、虹野さんは全ての技にガードで対応していた。そして、波動拳を放った隙を突き、技を繰り出す!
「はっ!はっ!うりゃあ!」
そのまま近距離大P → バックナックル → (キャンセル)ファイヤーキック
→ ライジングタックルを決めた!虹野さんの頭上に15HITという文字が浮かび上がる。
だが朝日奈さんも負けてはいない。ライジングタックルを食らったあと、そのまま受身を取りすばやく立ちあがる。
そんな朝日奈さんに虹野さんは飛び蹴りをお見舞いする!だが、そのとき朝日奈さんはニヤッと笑った!
「もらった!神龍拳!!」
ものの見事に対空技が決まる!しかもレベル3と威力は抜群だった。
「ああああっ!」
飛び蹴りをもかき消し虹野さんの体は無残にも朝日奈さんの技の餌食となった。だが、すぐに立ちあがりファイティングポーズを取った。
「やるわね、沙希ちゃん!」
「そういう朝日奈さんこそ!」
なんだか2人はこの戦いを楽しんでいる様にも見えた。にしても、いつ、どこでこんな修行を積んだんだろう?
「砕破!」
「昇竜拳!」
「飛燕疾風脚!」
「天昇脚!」
「龍炎舞!」
「昇桜拳」
2人が互いに技には技で対抗する!その様子はまさに互角で、息をする事も忘れるほどだった。SNK
vs CAPCOM。ドリームキャストで発売されたりして。
なんて事を考えている間に2人がいったん間合いを取った。互いに十分な距離がある。
「はあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」
同時に気合を溜め始めた。2人の体が闘気のオーラを帯び始める!
はっと気付くと朝日奈さんの姿が無かった。いや、虹野さんの姿もない。ただあたりがやけに明るい。そしてドガガガガと打撃を加える音だけが響く。
そして気付いたときには倒れている虹野さんの前で仁王立ちをしている朝日奈さんの姿があった。
「見たか!瞬獄殺の威力!!」
「くぅ……うっ!」
おなかの辺りを押さえながらゆっくりと立ち上がる。しかし、かなりのダメージが残っているのは見た目から明らかだ。
「まさに超ラッキーって感じぃ?」
朝日奈さんが挑発する。だが、虹野さんはその隙を逃さなかった。
虹野さんはとてつもないダッシュで朝日奈さんへ駆け寄る。朝日奈さんは挑発していたせいか、虹野さんのスピードの反応できていない!
「極限流奥義!オラオラオラオラ……もらったぁ!」
朝日奈さんの体が虹野さんの繰り出す打撃に左右に揺さぶられる。そして、最後に虎砲を決めた!
朝日奈さんがそのまま落下する形で地面に落ちた。が、朝日奈さんも気力を振り絞って立ち上がる。しかし、二人に残された体力はもうほんのわずかしかないのは明らか。まさに、一撃を決めた方が勝利者となる。
2人は残る体力と気力を全て集め、最後に繰り出す技を繰り出す。
「この一撃で……決める!」
「全ての決着をつける!」
決意を固めたのか、2人が構えを取った!
「覇王翔皇拳!」
「真空波動拳!」
互いの超必殺技が炸裂する!互いの威力が大きいのか、二人のちょうど中間の地点で技がせめぎあう。2人は技を放った体制を崩さず、ちょうど力比べをしているかのようにも見える。
そして、2人の技がまばゆい閃光を放った!僕は思わず目をつぶった!くっ、眩しすぎる……。
しばらくして、僕はゆっくりと目を開けた。あれ?なんだか暗い……。さっきの眩しい光で目がやられたか……?それにしてもこれは……?なんだか近代的な設備だな……。
「艦長、しっかりしてください!艦長!」
なんだ?艦長?ぼくが?いったいなんの話?
「艦長、ヤクトドーガを先頭にギラドーガ隊が近付いています。早くご指示を!」
おや、よくよく見れば片桐さんじゃない。どうしちゃったの、いったい?
「艦長、このままではラー・カイラムがやられます。はやく!」
ラー・カイラム?あれ、そういえばここは……コクピット!?ということは、外は宇宙空間なのか!?言われてみれば着ている服もノーマルスーツ。つ、ついに地球から離れたのか……。
「ギラドーガ隊、ラー・カイラムに攻撃を加えてきます!」
仕方がない。こうなったら腹をくくるか。
「メガ粒子砲、発射!」
片桐さんの顔がぱあっと明るくなる。
「了解!」
そして次の瞬間、ギラドーガ隊に向かってメガ粒子砲が発射された!メガ粒子砲が、何体かのギラドーガにあたり、隊列を乱した!ヤクトドーガが隊列を立て直そうと懸命だが、
そうそう立て直せるものではない。むりだって、ねぇ。……ってヤクトドーガに乗ってるのは紐緒さん!?
「ジェガン隊、出撃!」
隊列を乱したギラドーガに向かって、ジェガン隊がビームライフルで攻撃した!だが、次の瞬間、僕の体に戦慄が走った。なんだ!?この嫌な感覚は!その時、ギラドーガとジェガンが戦闘を行っている空間から一体の赤いモビルスーツが姿を見せた!
あれは……サザビー!
ズガアァァァァン!
突然ラー・カイラムに衝撃が走る!
「なんだ……どうした!」
「お、おそらくサザビーのファンネルによる遠距離攻撃かと思われます!」
くっ……。厄介な相手だな。ファンネルを軽々とこうも操ることができるとは!……ってあれは詩織じゃないか!なんで僕に攻撃して来るんだ!?ほんとは僕のことが嫌いだったのかぁ!?ちゃんとお気に入りのヘアバンド買ってあげたじゃないかぁ!
「館林見晴、リ・ガズィ、出ます!」
おいおい、出撃許可は出してないぞ!?
「サラダ作って待ってまーす!」
なんだぁ?あの手を振ってるのは……好雄!?お、おまえらいつの間に……。しかも僕に内緒で……。くそぉ……。
「艦長、巨大MAが攻撃してきます!!」
片桐さんが大声で叫ぶ。確かに肉眼ではっきりと見える。それにしてもデカイ。あんなにデカイMAといえば……。
「急速旋回!α・ア・ジールの攻撃に備えろ!」
まったくもってどうして敵軍ばかりあんなに性能のいいMSがごろごろ出て来るんだ!?
「我が軍にはもう出せるMSがないのか!?」
あせった僕はついどなり声を上げてしまった。が、片桐さんは冷静に判断を下す。
「もう1機、νガンダムがいます!」
「ならすぐに出撃させるんだ!」
「ラジャー!了解。νガンダム出撃せよ!」
これでこれ以上不利になる事はないはずだ……。
「虹野沙希、νガンダム、出ます!」
なに!?虹野さんがνガンダムのパイロットだと?……なんかしゃべり方が艦長っぽく変わってきた?
「今こそ決着をつける……!」
決着?どういうことなんだ?
「そう簡単にいくかなぁ〜?」
この声……、もしやα・ア・ジールのパイロットって……!
「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!ファンネルたち!!!」
「ふふふ、これで我が軍は買ったも同然……」
急に艦内に敵軍の兵の声が響き渡る。そしてそれと同時にモニターが写し出された。
「か、鏡さん!」
映像を送ってくるという事はレウルーラの艦長ということか。それにしてもよくもまああれだけのMSをそろえたもんだ。
「あなた達の負けはもう見えているわ。今なら許してあげてもよろしくってよ」
やけに挑発的だな。もっとも質的にも量的にも向こうの方に分があるのは確かだが。
「ふざけた事言わないでくれる!?あなたみたいな厚化粧で自慢しいーのタカビー女に何ができるっていうのよ!Go
to HELL!」
「ちょっと片桐さん……」
「Be quiet!艦長は黙っててください!しょせんおーほっほほほほほっていう訳分かんない高笑いしかできないんでしょう!さっさと帰ってらどうなの!?」
うっわー。ヤバイ、ヤバイって片桐さん。あの鏡さんの顔……直視できないっす!
鏡さんは口元をヒクヒクさせながら、薄ら笑いを浮かべている。コ、コワイ……。
「ど、どうやら死にたいようねあなたたち……。それなら望みをかなえてあげるわ!」
ブツン。捨て台詞を最後に会話は終わった。どうやら全面戦争への突入は回避できなくなってしまったらしい……。
「艦長、こうなったらもうやるしかないです!一気にあのタカビー老け顔女をやっつけましょう!」
片桐さんて意外と挑戦的な性格だったのね……。それにやるしかないって片桐さんがそういう状況に追いこんだんじゃないのよ……。
ズガアァァァァァァン!
うっ、なんだ、どうした!
外を見ると、νガンダムが1機でサザビーとα・ア・ジールと戦っている。リ・ガズィは、リ・ガズィはどうした!?
そのとき、どうしたのかサザビーとα・ア・ジールの2機がレウルーラへと帰っていく。
そしてνガンダムもラーカイラムへと帰ってきた。νガンダムは、ボロボロになったリ・ガズィと共に……。
2機のMSをゆっくりと迎え入れた僕たちは、急いで虹野さんの元へと向かった。MSの格納庫では、好雄が館林さんに泣きながらすがりついていた。
「一緒にサラダ食べるって言ってたじゃないかぁー!」
もしや館林さんが……。
「ファンネルが敏感過ぎたのよ」
物静かな口調で虹野さんが話し始めた。
「私はヤクト・ドーガのパイロットの言うとおりファンネルを放出した。でも、ファンネルは私の奥底にある意志に反応してヤクト・ドーガを狙ったの。ヤクト・ドーガを倒す事はできたけど、館林さんは……」
とにもかくにも館林さんとこんな形で別れなければならないとは……。僕はこれまで似ない怒りを覚えていた。彼女が何をしたんだ!?犠牲にならなければいけない理由でもあるというのか!?
「僕も出撃する!」
僕は今まで誰かに守られてきた。決して自分で何かをしようと考えていたわけではなかった。けど、今やらなければいつやるって言うんだ!
周りを見渡してみると……。残っているのはフルバーニアン1機。νガンダムしか残ってないって言ってたけどちゃんとMSがあるじゃないか!僕は急いでGP-01に乗りこんだ。こうなったら……こうなったら!
「渉部、フルバーニアン、吶喊します!」
僕は目の前の物をとにかく破壊したい衝動にかられていた。僕はこんな事を受け入れられるような人間じゃないんだ!どうやら後ろからνガンダムも出撃したようだ。後の指揮は片桐さんに任せておけばいい。僕は自分の手でこの争いに終止符を打ってやる!
サザビーとα・ア・ジールはまっすぐνガンダムへと向かっている。主人公である僕を無視するというのかぁ!?
と思いきや、新しいMSが姿をあらわした。あれは……GP-02 サイサリス!
「キミのような庶民を相手にしないといけないとは、僕もつらい立場にあるもんだねぇ」
このしゃべり方……伊集院!ちょうどいい、もし女の子達だったら戦意も喪失したかもしれないが、伊集院相手なら全力でいける!
「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
僕はビームサーベルでサイサリスに突撃した!
「その心意気やよし!だが、この僕に立ち向かうにはキミはまだまだ未熟!」
サイサリスもビームサーベルを抜き、あっさりと切り払った。
「まだだ、まだ終わらんよ!」
僕はさらに切りつける。2機のMSは死闘を繰り広げた……。
一方νガンダムはサザビーとα・ア・ジール2機を同時に相手にしなければならないため、苦戦を強いられていた。
「さあ、そろそろ観念しなさい!」
詩織が警告する。が、虹野さんも負けてはいない。
「νガンダムは伊達じゃない!」
「本当にそうかなぁ?これで……終わりよ!」
その時α・ア・ジールからメガ粒子砲が放たれた。
「フィンファンネル展開!」
6機のフィンファンネルがνガンダムの周りにIフィールド発生させる。が、メガ粒子砲はそのIフィールド貫いた!
「くっ!」
だが、νガンダムも持ち前の機動性を発揮し、すんでのところでかわした。
3機のMSは、いったん間合いを取った。
「あなたが……あなたが彼のそばにいるから私は!」
朝日奈さんが涙をこぼしながら叫ぶ。
「みんな……死んじゃえー!!!!!!」
次の瞬間、α・ア・ジールは全てのファンネルを射出しながらさらにメガ粒子砲を放った。それは、サザビーとνガンダムがファンネルを放つのとほぼ同時の事だった。
僕は無我夢中でMSを操縦していた。ただ、自分に向かってくる敵を倒す事だけを考えていた。
「腕を上げたな……渉部!」
伊集院が思わず叫んだ。こんな事、こんな事認めたくはなかったが……。
「今の僕ではフルバーニアンを倒せん!詩織くん、僕に力を与えてくれ……」
伊集院はビームライフルを放ちながら少しづつフルバーニアンと間合いを取り始めた。が、僕はバーニアを最高まで上げ、サイサリスへと近付く!
「くう!こうなったら左腕もろともキミだけでも!」
次の瞬間、MSたちはファンネルやメガ粒子砲、ラー・カイラムとレウルーラの戦艦はハイパーメガ粒子砲を一斉に放った。それと同時に、サイサリスはアトミックバズーカを放った!
まるで全てを包み込むかのようにあたりが光り輝いた。そして……
「はっ!」
僕はガバッと目覚めた。は、はは……なんだ夢か。そうか、そうだよな。そんなわけないよな。まさか虹野さんと朝日奈さんが2人して僕を取り合ったり、まるでゲームやマンガのような技を放ったり、あまつさえMSを操縦できるわけないじゃないか。だいいち、僕は虹野さんと付き合ってるんだから。
「ふぁあ〜あ」
寝る前ならともかく、起きてからもあくびするなんて、相当寝たりないのかな?でももう10時間以上バッチリ寝ちゃってるし……。それにやってみると気持ちいいけど、周りから見ればそれはマヌケな姿に違いない。まあ、誰もいないからおもいっきりあくびもできるんだけど。
ゴツン。
あれ?何だ?テレビのリモコンかな?いや、それにしては妙に暖かで、柔らかい……。これって……人の肌?
布団をめくると、そこには虹野さんがいた。はは、そうだよな。朝日奈さんがいるわけ……ってなんで虹野さんがここに!?た、確かに僕らは付き合ってるとはいえ清い交際なのに!それに、虹野さんとそんなことした覚えがまったくない!どういう事だよ、これは……?
コンコン
はっと気が付くとドアをノックする音がした。
コンコン
もう1度ノックの音。
「も、もしかすると……」
僕は恐くなってもう1度布団をかぶった。夢の中なら、夢の中なら……!
バアン!
ドアが勢いよく開けられた。けど僕はもうさっきの夢の中へと帰って行ったあとだった……。
(end?)
あとがき
すいません。オチなしです。ここまで読んでくれてありがとうございます。
なんかいいオチが見つかったら教えてください(爆)
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