今度の参議院議員選挙

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今度(2007年)の参議院議員選挙が、安倍政権の敗北となるか勝利となるかは、日本の有権者の質を測るバロメータになるだろう。

安倍政権が、
戦後レジームから脱却し美しい国をつくると喝破し、その内実は、各世代に共通する格差の拡大、それも圧倒的多数の人々に負担と苦難を強いるもの、年金問題にみられる無責任行政の蔓延、さらには諸悪の根源である規制緩和なる資本主義経済の悪しき面を強調する政策をさらに推し進めようとしている。それらの頂点にあるのが憲法9条の改訂である。

戦後レジームの解体は、きわめて
革新的である。戦後、サンフランシスコ講和以来、言い換えれば吉田内閣以来、連綿と続いてきた保守本流の政治は、憲法9条のもとで平和を確保しつつ、池田内閣の所得倍増、田中内閣の日本列島改造などに典型的にみられる経済発展を遂行する、という流れであった。岸内閣の新安保条約改定と退陣に示されるものは、その流れを確認するものであった。憲法9条のもとで冷戦の激化を背景に外圧が絶えなかった軍備増強は憲法9条、それも特に第2項の解釈をどこまで拡大できるかの攻防の範囲内でとどまっていて、改憲には踏み出せなかったのである。その主要な力はいうまでもなく戦争はごめんだ、という国民の声であった。そうした大きな流れを否定し、それから大きく踏み出そうとするところに革新的といった意味がある。

かつて政治において
革新と保守が云々されたとき、背景には資本主義から社会主義への直線的発展という仮定が横たわっていた。ところが、1990年前後に、ソ連、東欧の社会主義が偽物であったことが表面化し、それら国家が崩壊した辺りから、世界各地で、資本主義万歳の声が一時上がった。しかし、実際には資本主義国経済の行き詰まりは深刻化し、そこからの脱却を模索しはじめた。新自由主義、市場原理主義、規制緩和路線と呼び名、形態はいろいろあるものの、社会主義の影が薄くなった反面で、資本主義的方向での新路線が自由気ままに展開される傾向が強まった。出される政策は、現状を大きく変えるものであった。そこで、従来の保守政党が政治経済の大幅な改革を進め、従来の革新政党がそれに待ったを掛けるという基本パターンがわが国の政治の場でも展開されるようになった。

このことから分かるのは、革新的に見えるのが実はいつか来た道に戻ろうとする
反動であり、保守的と見えるのが実は民主主義の方向への進歩である、ということである。それぞれ支持母体が大企業などと民衆であることがそれを見る糸口となる。かつて、資本主義から社会主義への発展が現実的と見えた時代は、両主義が政治や経済の中で座標軸として分かりやすかったのだが、現在、その座標軸は分かりやすいのは不変であるけれど説得力が薄い。今、分かりやすい座標軸を、いくつかあげることはできる。民主主義対「金」主主義、権力対民衆、戦争対平和、格差対平等、等々。さらに時間軸を加味して考えてみよう。すると、それは近世あたりの王権国家から、現代では圧倒的多数となった共和制国家への流れ、換言すれば君主制国家から民主制国家への流れとして見えてくる。それは、民主主義の度合いというのが最も妥当である。この尺度からいうと、今の保守政党は民主主義を減らす方向を向いており、それに反対する勢力はその反動を食い止めようとしていることが分かる。

美しい国といううたい文句は、戦前レジームの裏側である。教育基本法を変え、学校に管理強化の枠組みを作り、教師や子どもに自主的に考える力と時間を出来るだけ与えないようにする、細部では、君が代を強制しそれに反対する教師は排除する、そして昔からの死を以て奉公する武士道精神を貴び、桜の咲き散るごとくお国にいのちを差し出し靖国神社に魂を祀っていただきこぞってそれを敬う、かような精神で統一された民族を育成する、これぞ美しい国・・・。全く御免被りたい。

戦後レジームからの脱却は、保守本流の解釈改憲を否定し、積極的参戦が可能なレジームを作り出すという点で、まさに歴史の歯車を戦前の方向へ逆戻りさせることになる。おどろくべきは、その
現実離れが実に首尾一貫していることである。庶民増税や福祉・医療の切り捨てをして大企業には減税をし資本の力を蓄え、軍事路線を進めて力で諸外国に対抗するという資本主義の初歩を民衆が苦しむのを無視してそのまま実行しようとする単純さには開いた口がふさがらない。さらに、過去の戦争の歴史さえ直視しようとせず、さらにあったこともないものと言いくるめる姿勢は、大臣の事務所費が架空のものであることが明らかになってもそれを認めようとしないところにも共通して現れている。この一貫性にはあきれてものが言えない。

それらは、アジアで進行しつつある協同の輪作り、平和なアジア作りに背を向けるものである。アジアにおいて
孤立する道は、まさに戦前の道である。

これを今度の参議院議員選挙で有権者が見抜けないとしたら、自分の首を絞める結果になるのであるが、毎日サービス残業に明け暮れるサラリーマンも、流行を追うのに忙しい女性陣も、さすがにこれはいけないと思うのではないか。貧困の蔓延や年金スキャンダル、政治と金の問題は、ほとんどの有権者に寝覚めの水をぶっかけた。それでも起きない人はいるだろうが、多くの人たちが
安倍政権に大きなダメージを与えないではおかないであろう。

選挙の予測は手持ちの情報が少ないのできない。予測ではなく
希望的観測をしてみよう。まずは、野党がそれぞれ票を伸ばすことであろう。

民主党だけが票を伸ばすことは、あまり良いことではない。なぜならば、民主党はいろいろな人が集まっているところに特徴がある野党であるが、自民党と随分オーバーラップしていて、政権を取ると反動自民党的体質が顔を持ち上げる可能性があると言われている。たしかにたとえば靖国神社に参拝する民主党員は、自民党との違いが分かりにくい。民主党のひとり勝ちの有する危うさである。

そこで、他の野党もそれぞれがんばって票を伸ばすことが必要で、それが民主党内の自民党に近い部分などを牽制することになる。そして
野党全体で安倍自民党の路線を追い詰め、この反動の流れを追い詰めて行くことになる。その方向が、当面、日本と、日本の民衆を守る現実的な道だろうと考えられる。わが国の有権者は、それに沿った行動をするであろうか。

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