研究とニーズ

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「研究といえどもニーズと結合させてビジネスを」とは社長が繰り出す課題のひとつである。企業でなぜ、今更、そんな課題が云われるのか?私には、いまだにそれが信じられない。

私は、大学を出てから行政研究機関で働いて来た。そこでは、ニーズ指向研究以外はあり得なかった。シーズ研究なら大学でやってくれ、と言われる。基礎研究であってもニーズを意識し、人当研究費(いわゆる「生活費」に相当する研究費。どんな研究に使うかは、全く研究者に任される)さえ、その多くはニーズを背景においていた。研究の性格として、大学はシーズ研究、企業はニーズ研究という両極の間に行政研究があると思っていた。企業でニーズを前提にしないシーズ研究があるというのは思いもよらなかった。

ニーズとは何だろうか。私は、それと思われる具体的テーマを何人かに持ちかけてみたけれど、興味を示していただいたのは、ほんのわずか。皆さんの考えているニーズ像が分からない。信じられないことであるが、本当にニーズを考えてはいないのかも知れない。

とすれば、社長の課題に応えられるように、何か出来ることからしなくては、と思うのだが、次のようなことは、すぐにでも出来るのではないだろうか?

予算、つまり研究資金を頂く時は、シーズ、背景、あるいは最大譲歩しても学問上の意義を明確にする。それがはっきりしないものには予算を付けない。

試作研究発表においては、その研究の背景となるシーズはどこにあるかを最初にデータ・根拠を以て明らかにする。それに応えられたか否かは発表を聞けば分かるはずである。

これだけでも2,3年やれば、おのずとニーズ思考体質は研究所に備わってくると思うのである。

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