品質管理と研究(その1)

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我が社の品質管理は、ユニークであるらしい。以下では、そのことに関する私の理解を記すが、それは、別項で研究との係わりを考えるためのものである。ここで一旦、現場のことに口を出すようにみえることのお断りである。

さて、あるスペックの光電子増倍管のワンロットの何十個かが出来て検査にかけたとする。ある標準光源からの光子数を数えれば、管ごとにカウント数は異なる。ヒストグラムにすれば、ある分布を示すであろう。正規分布を仮定した平均値と標準偏差を求めれば、それらはそのロットの統計的品質表示となる。

今、ロットが、ある技術者個人/集団/工場からのまとまった製品であるとする。そして、そのスペックの製品が数ロットにおいて製作されているものとする。そして、全数検査か、抜き取り検査かは問わず、上記のような検査を行い、ロットごとの統計的品質を集計したとする。そこには、多分、平均値と標準偏差に多少なりとも違いがあるであろう。その違いは、統計上は、多分、等分散性の検定、平均値の違いの検定などを行う。すなわち、ロットごとに偏りやばらつきに違いがないかが調べられる。

そして、もしロット間に違いがあれば、それをもたらした原因はどこにあるかが検討される。そのために、技術者の意見を求め、それらを解析し、考えられる原因候補が列挙される。複数の原因があることも多いであろう。重要と考えられる候補がピックアップされ、実験を行い原因を特定し、出来るだけ良い品質の製品を得るための改善点を明らかにする。

この場合の実験は、どのようなことをするのだろうか。化学実験と工場実験とでは趣を異にすることがある。工場実験では、勝手に変えられる技術要素は限られることがあるからである。例えば、室温は、工場ごとなら変えられても、集団や技術者個人では難しいであろう。もし、工場ごとに室温が異なり、室温の高い工場の平均値が高く、室温の低い工場の平均値が低いという傾向があれば、それは、上記検定の結果から推定が出来るであろう。他方、材料が異なるのであれば、それは変えて実験することが可能であろう。そのような制限をも考慮した上で、実験できる技術要素を列挙して、それをどのような水準に変えて実験するかを検討する。そして、いくつかの技術要素ごとに水準を変えた実験を行う。そうすると、改善すべき技術要素が明らかになり、それを実際に工程に取り入れて、予想通り品質改善が実現すれば、この実験は成功したことになる。その結果、その製品の品質は、会社のシステムとして改善が保証され実現することとなる。

以上が、かなり単純化しているであろうけれど、世に行われ実績を上げてきた統計的品質管理の普通の姿である。

ところが、我が社の品質管理は、これとはどうやら異なるらしいのである。私は、その現場を経験していないので聞きかじりになるが、私の理解を単純化して記してみる。

いくつかの製品が出来たとする。当然、それらには製品ごとのバラツキやカタヨリが生ずる。そこに登場するのが、コントロールと呼ばれる「模範生」である。これが、どのように準備されるかは正確なところを知らないが、イメージとしては、製品の中の最高品質のもの、といったイメージである。他の製品のスペックが、その模範生に合うように必要な補正を施す。補正には、ハード的補正と共にソフト的補正もあるらしい。補正の技術は、それぞれの技術者が開発して持っているが、その多くはどうやら暗黙知であって、言葉には表せないことが多いらしい。従って、それらは徒弟的に継承されるところが多く、会社のシステムとして実現、継承されるところは少ないこととなる。以上が、我が社の品質管理の単純化した私流の理解である。

もし、この理解が正しいとすると、最後に記したような暗黙知になることは良く理解できるし、大量生産には向かず、非大量の受注生産向けとならざるを得ない。受注生産が前提ならば、そのような品質管理で良いのかも知れない。

以上の理解を前提に、研究のあり方に係わるところを別項で考ようと思うので、そちらも是非お目通しいただきたい。

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