はじめての大佛次郎記念館

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今年(2013年)は、大佛次郎没後40年です。もっとも、これは、後から知ったことでした。私にとって大佛次郎といえば、大河ドラマの「三姉妹」(1967年)で、幕末から明治維新にかけて激動する社会の中に生きる人々を描いた作者、という印象、「鞍馬天狗」の作者で、私が実際に知っている鞍馬天狗の物語はほんの一部だ、ということ、そして、「天皇の世紀」(これも、大河ドラマ「獅子の時代」(1980年)をきっかけに知った作品です)や「パリ燃ゆ」の作者ということなどが思われます。それらに見えてくることは、激動の歴史とその中で生きる人間を綿密な舞台考証に基づきこの上なく緻密に描くという特徴です。それは、とてつもない魅力となって私をひきつけていました。彼が亡くなった時は、まだあまり深く知るに至っていなかったこともあり、仕事にかまけて、あまり感慨も湧かすことなく過ごしてしまったのですが、改めて、既に40年、と思うのです。

 1966年(69歳) 鎌倉の自宅にて
                    
(大佛次郎記念館リーフレットより。写真は、大佛次郎研究会サイトより)

彼の業績については、大佛次郎賞、同論壇賞という名のある賞を世間が支え育てているところにその評価が見えてくるのですが、文学賞に加え論壇賞もあるところには、彼の仕事が、文学にあっても、そしてそれらが一見、大衆小説のように見えても、そこには、深い文明論的考察があって、批評、評論とともに、それらに境を区切るのでなく滲むように繋がっていることの証しなどです。

とりわけ、最近読んだ「パリ燃ゆ」において、それは、歴史評論でもあるのでしょうが、そこには、叙事詩といってよいようなドラマが展開されていて、それは、ありふれた小説家には作れない作品として、訴えるところが強いのです。多くの史・資料を読み込んで、厳選した引用を多く配しつつ展開されるドラマは、高質な小説のみに可能な高揚感を与えてくれるのです。

大佛次郎記念館は、彼にふさわしくボランタリーな博物館(公益財団法人)です。こざっぱりした洋風の佇まいで、横浜山の手、港の見える丘公園の一角に大小の樹木に抱かれ、目の前には欧風の公園が配されるように建っています。

 記念館正面、左手はティールーム「霧笛」
                               
(「写真は、大佛次郎記念館NEWS」サイトより)

その日は、同じく港の見える丘公園にあるKKRポートヒル横浜に泊まることになっていたのですが、その日の予定が早めに終わったので、チェックインをすませてから、散歩を兼ねて記念館に出向いたのでした。

玄関で受付をすますと、事務員の女性が、館内のことなど、要領よく説明をしてくれました。展示はほとんどが二階です。記念室、展示室と名付けられた部屋では、彼の生涯、作品、書斎などを一瞥することが出来ます。書斎には、猫の置物がいくつも並べられ、彼の猫好きがうかがわれます。サロンには、著作の現物が書棚に並べられ手にとって読むことが出来ます。「鞍馬天狗」がズラリと並び、ライフワークであり絶筆となった「天皇の世紀」菊判全10巻17冊も鎮座していました。

 「天皇の世紀」(写真は、大佛次郎研究会のサイトより)

今回は、特別展として「没後四〇年・大佛次郎と神奈川」と銘打った展示でしたので、そうした内容の展示物がたくさん並べられていました。彼、本名野尻清彦は、横浜に生まれ、幼時に東京に移り、学生結婚をして卒業後は鎌倉に住み、以後、鎌倉の住民であり続けました。イギリスのナショナル・トラストを紹介する仕事もしており、自然保護運動にも力を発揮しています。75歳で亡くなりました。野尻といえば、抱影は長兄にあたることも紹介されていました。

閲覧室には、彼の蔵書や収集資料などの一部が展示されており自由に手に取ってみることが出来ます。私は、パリ・コミューンの史料が所蔵されているとどこかで読んでいたので、それを期待してもいたのですが、丁度居合わせた係の女性に伺ったところ、今は展示していないということで、それらのリストがすぐ手近にあるのを教えて下さり、それを見せて頂くことで我慢しました。リストによると、フランス語のものを含め、ほんとうに浩瀚ともいえる多数の資料が集められていることが分かり、そこから、あのドキュメンタリーが出来上がったことが理解できました。彼は、年譜によると、一高仏法科出身とあり、それ以後、まじめにフランス語を身につけたと見受けられます。

大佛次郎の多面を知ることのできた記念館訪問でした。        
                                            
(2013/07/11訪問)
: http://www4.airnet.ne.jp/tomo63/parimoyu.html

(2013/8/2)                    

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