イベリア半島の地形瞥見・・・ピレネー、メセタ、そしてジブラルタル

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 土地が異なると、文化や生活振りが異なってくることをしばしば感ずる。互いにそんなに離れてもいない関東平野と信州とで、人々の生活や文化に結構違いがある。北海道と静岡では随分違う。外国となれば違いも大きい。スペイン、ポルトガルの旅行記を書いたり読んだりするのに、その地理を知っとくことは多いに役立つに違いない。

 まず、イベリア半島の地形の特徴を地図で確認しておこう。イベリア半島を思い切って簡略化して四角形と書き、その中いっぱいいっぱいにカタカナのヨの字を右肩上がりに傾げて書く。ヨの字の右肩からさらに右に一の字をちょっと右肩下がりに引けば、山脈のおもな配置が書けたことになる。いわば「ヨ一」構造である。その骨組みに海岸線を実際の地図を見ながら書き直せばイベリア半島の概略図が書ける。



 もう少し詳しく見ておこう。この半島は、全体に高原が多い。メセタと呼ばれ、カンブリア紀から石炭紀にかけて、5億〜2億年前というけたたましく古い岩石からなる。その上にいくつかの大きな山脈が連なっている。北の外れは、ビスケー湾にそってカンタブリア山脈が西から東に並び、フランスに至る少し前から南下する山並みがあって、それはやや小振りな「山地」とよばれる山塊の連なりからなっている。その連なりが地中海に落ちるところがバレンシアであるが、そこから、地中海に沿ってジブラルタルに向かい、シエラ・ネバダ山脈を中心とする山脈または山地の列が走っている。四角な半島のど真ん中にマドリードの街があるのだが、その北側にグアダラマ、グレドスと続く山脈が大西洋岸のリスボンの方向に向かって走っている。そして東北隅のフランスとの境界をピレネー山脈が区切っている。アフリカ大陸との間、ジブラルタル海峡も14kmしかない。以上が山を中心に半島を概観した姿である。

 つぎに川によって特徴を見ておこう。

 ヨの字に抱かれたふたつの空間、そこは北側から、それぞれドウロ川、テージョ川水系からなる馬蹄形の盆地がいずれも大西洋に向け水流に沿って徐々に下りながら続いている。南側の馬蹄形は、より詳細には、二つの水系に分かれていて、北側が先ほど書いたテージョ川、南側がグアダルキビル川である。その間にはシエラ・モレナ山脈というやや高原状の山脈が寝ている。グアダルキビル川は、地溝帯を走り下り、セビージャから下流には平野、湿地帯が形成されている。ヨの字の縦棒と一の字のピレネー山脈との間は、エブロ川の谷である。地中海に向かって流れ下っている。

 イベリア半島には海岸平野が少ない。上述したセビージャ下流のほかは、テージョ川下流のリスボンを中心とした平野。他に見るべき平野としては大西洋岸のポルトからナザレに至る海岸平野くらいであろう。あとは、規模が小さく多くは崖が海岸に迫る。エブロ川の谷は、まさしく谷であって、海岸平野というほどの平地は海岸沿いにもほとんど無い。

 気候は、メセタ、エブロ川の谷では雨量が300〜500mm前後で、ステップに近い植生。小麦やオリーブが特徴的で草地も結構あって畜産も盛んである。北側のビスケー湾に近い地方は他地方に比べ雨が多く、湿潤温帯林。地中海沿岸は、地中海性気候で、灌漑により果樹などが栽培される。バレンシア・オレンジというわけである。

 かくして、イベリア半島は、メセタと上述「ヨ一」型に配置される山脈が基本構造を作り出し、ピレネーでヨーロッパ本土と境を画し、シブラルタルでアフリカに近くして、自然はもちろんのこと、生活、文化、歴史にもろもろの特徴をもつこととなったということができる。

参考文献
1) 日本大百科事典、「イベリア半島」(田辺 裕・滝沢由美子)、JapanKnowledge版
2) カシミール3D、特別版世界標高データ(DAN杉本)
3) エアリアマップ世界地図25 スペイン・ポルトガル 1:1,500,000(谷治正孝監修)、昭文社


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