% 対偶

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\begin{document}

\noindent{\bf 対偶(contraposision)}

日常使われる言葉はあいまいさをかなり含んでいる。たとえば
\begin{eqnarray}
雨が降っている\ ならば\ 傘が要る \label{A2B}
\end{eqnarray}
と言えば当たり前の話で、それを逆に言う
\begin{eqnarray}
傘が要る\ ならば\ 雨が降っている \label{B2A}
\end{eqnarray}
というのも至極当然である。さらに
\begin{eqnarray}
雨が降ってない\ ならば\ 傘が要らない \label{notA2notB}
\end{eqnarray}
も正しい表現として通用する。

おそらく(\ref{A2B})は$100$人中$100$人が思考することだと思われる。現実に傘を手にしていなくても、雨が降っているのだから傘が要ると思うだろう。実際の行動が、タクシーを利用するはめになったり、雨に濡れるはめになったりしてもだ。つまり、この命題は正しい。

しかし、(\ref{B2A})や(\ref{notA2notB})は必ずしも$100$人全員がそう考えるとは限らない。なぜなら、(\ref{B2A})や(\ref{notA2notB})の場合には、雨が降っていなくても傘が要ると判断する人がいる。午後から雨が降ることを信じる人だ。だからといって、(\ref{B2A})や(\ref{notA2notB})の言い分に価値がなくなるわけではない。日常生活では(\ref{A2B})〜(\ref{notA2notB})はすべて同等に正しいのだから。

ところが数学は天の邪鬼(あまのじゃく)である。(\ref{A2B})が正しくとも、例外を含む(\ref{B2A})や(\ref{notA2notB})を正しいと認めないのだ。(\ref{B2A})と(\ref{notA2notB})はそれぞれ(\ref{A2B})の「逆」と「裏」と呼ばれるものである。「逆は必ずしも真ならず」の言葉が示すように、数学的には逆や裏の言い換えは正しいとは限らない。

では、言い換えて必ず正しくなることはあるのか? それは「対偶」と呼ばれ、次のような言い換えをしたときである。
\[
傘が要らない\ ならば\ 雨が降ってない。
\]
そう、傘が要らないと判断している人は、間違いなく雨を目の前にしていない。もっとも日常では、雨が上がってから建物を出るのだから傘は要らない、などという状況があることはあるが、時間差を考慮したらどんなことでも正当化できてしまう。一般に、厳密な話題では時間差を考えないものだ。元の命題が正しいときは、いかなる場合においても対偶も正しい。当然、このことは証明をしなくてはならないが、簡単な論理式など用いればすぐに理解できることなので、ここでは述べない。

\begin{center}
\begin{picture}(270, 100)
\put(0, 80){\makebox(0, 0){\fbox{『Aである』ならば『Bである』}}}
\put(100, 80){\vector(1,0){70}}
\put(135, 85){\makebox(0, 0){(逆)}}
\put(0, 60){\vector(0,-1){30}}
\put(10, 45){\makebox(0, 0){(裏)}}

\put(270, 80){\makebox(0, 0){\fbox{『Bである』ならば『Aである』}}}
\put(270, 60){\vector(0,-1){30}}
\put(280, 45){\makebox(0, 0){(裏)}}

\put(0, 10){\makebox(0, 0){\fbox{『Aでない』ならば『Bでない』}}}
\put(100, 10){\vector(1,0){70}}
\put(135, 15){\makebox(0, 0){(逆)}}

\put(270, 10){\makebox(0, 0){\fbox{『Bでない』ならば『Aでない』}}}
\put(95, 65){\vector(2,-1){80}}
\put(150, 50){\makebox(0, 0){(対偶)}}
\end{picture}
\end{center}

図は、一つの命題に対して、どのように述べたものが「逆」「裏」「対偶」になるかを示している。このとき、元の命題の真偽と対偶の真偽は一致するが、逆と裏については必ずしも真偽が一致しない。用語は実にうまい単語を選んだものだ。「逆」や「裏」というのは反対のことを意味する単語である。このことを踏まえてもう一度図を見てほしい。元の命題から対偶へ行くには、「逆」と「裏」を一度ずつ通過する。すなわち、反対の反対は元どおりというわけだ。

日常の言葉遣いでは気にならないことも、数学ではかなり気にしているのだ。ちなみに、矢印が逆向きになっても、それぞれ「逆」「裏」「対偶」という。

\end{document}