辺境の冒険

戻る

……未熟?
ヴァネッサ=ヴォルフィードは、かく語る(8月18日)
    ■……依頼はつづがなく終了した……と言いたいところですけど、マースさんが元気をなくしてしまわれました……私、マースさんを元気づけてあげたいのですけど、なんていったらいいか分からなくて、結局なにも言えませんでした……■帰り道、私は自分の武器である長剣を見ました。私はほとんどなにもしていませんでした。まだまだ未熟です……ため息をつき、天を仰ぐ。もう少し、頑張ってみようかしら……

帰り道
ヴァリは、かく語る(8月18日)
    ■『迷惑なんて思ってないさ。たとえ剣を置いたとしても、あたしはまだいろいろあなたから学べると思う。だから、また訪ねて来てもいいかい?』昨日とは打って変わって元気のないマースさんとの別れ際、あたしは彼にそう言った。 ■帰り道、ゆっくりと歩きながら、あたしは何か物思いにふけっている様子のディドに話し掛けた。『ところでさ、昨日の戦い振りを見てて思ったんだけど、さすがだね。人食い鬼が出てきた時はヒヤっとしたけど、あんたの戦い振りは全然引けをとってなかった。危なげなく見ていられたよ。ずいぶんいろんなやつと戦ってきたんだろ? よかったら話を聞かせてほしいね。それに、街へ帰ったら一度手合わせもお願いしたいんだけど、どうだい?』

一つの終わり…/老戦士のゴブリン退治
“鉄の城壁”ディドは、かく語る(8月18日)
    「迷惑かけてすまんかったの。お詫びと言ってはなんじゃが、これも持っていってくれ」そう言って真新しい杖をついたマース殿は、報酬とは別に我々に二つのコモンルーンを差し出した。「儂はもう…戦いには出れんからのぉ…」断ろうとしたそれがしの言葉は、老人の言葉に遮られる。戦いによる負傷以外の理由で戦場に膝をついてしまったこと…それがどれほどの屈辱か、今のそれがしには想像することしかかなわぬ。「…勇敢なる戦士マース。それがしは、貴方と共に戦えたことを誇りに思います。されど、願わくば、これからは戦場に赴く貴方を常に支えて下さったであろう奥方様のためにも、ご自愛くださいますよう…」■…それがしの言葉は「老い」故に剣を置かねばならぬ戦士にどのように受け止められたか、知る由もない。…それがしが、老いて武具を置かねばならなくなったしたら…どのような思いが胸をよぎるのであろうか?一つの終わりを目の当たりにしたそれがしは、自然そのように思考を進めていた。無論、答えなど得られはしなかったが…。

黄昏/老戦士のゴブリン退治
“鉄の城壁”ディドは、かく語る(8月17日)
    日課の早朝鍛錬のために、あてがわれた部屋を出ていくと、居間で身支度を整えている最中のマース殿に出会った。老人の朝は早いとも言うが、彼の御仁は久々の戦に心逸っておられるのだろう。結局それがしは、鍛錬には行かずマース殿と互いの戦場経験などを話し合って、仲間たちの起床を待った■「あそこだな」先頭に立って、妖魔共の足跡を追っていたカイト殿が、奴らの巣穴と思しき洞窟を指さして言う。「さて、どう攻めましょうや?」「よーし突撃じゃ!」それがしの発言とマース殿の言動とが同時に行われた。茂みを飛び出し、雄叫びを上げて巣穴に向かうマース殿。一瞬の自失の後、それがしは仲間たちと共にマース殿を追った■「砕!」右手の連接棍棒がゴブリンの頭部を粉砕する。その隙をついて繰り出された別のゴブリンの粗末な槍がそれがしの胸を突く。最も、それはわざとかわさなかっただけの話。厚い胸甲とその前に広がる魔法の防護壁の前では、非力な妖魔ごとき何匹よろうと傷一つ付けられはしない。「甘いわ!裂!!」そのゴブリンの頭部に左手の戦斧を叩きつける。これで何匹目か?それがしは大兜の面頬を上げ、辺りを見回した。優勢だ。それがしとマース殿は無論、ヴァリ殿も妖魔共を圧倒している。ヴァネッサ殿もカイト殿の援護の下、充分に敵と渡り合っている。「どれ、もう一暴れするとしようか」それがしは再び面頬を下ろし、連接棍棒と戦斧とを手にした。その時。すさまじい咆哮が、決して狭くはない洞窟を振るわせた。「!?オーガーか!」それがしは戦斧を手放し、背中の大盾を手に取った。流石に奴の棍棒の一撃をまともに喰らってはまずい。「おお!大物がおるではないか!」いかにも楽しげな声。今更これが誰のものかなど、確認するまでもない。「マース殿!油断めさるな!」そう言いつつ、それがしは新手の妖魔たちに向かった。立ちふさがるホブゴブリン。「邪魔だ!砕!!」■それがしがホブゴフリンを1匹屠った時、既にマース殿は2匹のホブゴブリンを仕留めていた。全く持って良い腕をしておられる。と、その時。マース殿が突然その場に倒れ込んだ。「いかがなされた!?マース殿!」なにがしかの魔法であろうか?しかし、それらしき術者は見あたらぬ。何にせよ、このままではマース殿が危ない。「オーガーはそれがしが引き受ける!誰ぞマース殿を!」■それから数刻、我々は妖魔共の巣穴を後にした。オーガーは確かに強敵ではあったが、所詮は力任せの戦いしか知らぬ輩である。我が親父殿はもとより、ジャックなる戦士やマース殿、「古の地下迷宮」で戦った竜牙兵などに比べれば、取るに足らぬ相手であった。何匹かの小者の逃走を許してしまったが、ま、何ほどのこともあるまい。それと、マース殿の身に起きたことはいわゆる「ギックリ腰」、血気おさまらぬ老人の宿命である。それがしに背負われての凱旋となったマース殿は、戦いに赴く時とはうってかわり、終始無言であった…。

こりゃぁ楽な仕事だぜ/老戦士のゴブリン退治
砂漠鼠のカイトは、かく語る(8月16日)
    ◆「よお、また一緒に仕事だな。お前さん信頼してるから、よろしくな」、武器屋で再会したディドに声をかける。他にも雇われた野郎…いや、女がいた。「ノッポの姉ぇちゃんとベッピンの神官戦士さん…月光の煌き亭で見た顔だな。荒くれ者を力比べで打ち負かしたの見てたぜ、まぁお手柔らかに頼むぜ」◆自前の騎乗馬にまたがり、馬車を先導する形で街道を行くことにした。斥候役に徹し、荒事はディド達に任せることにしよう。どうせ大した危険もあるまいて。◆村に着く頃にはすっかり日は暮れていた。マース爺さんとディドが手合わせしてるが…なんか、ディドの方が押され気味じゃねぇか!?人は見かけによらねぇもんだぜ。◆マース爺さんの家で晩飯をご馳走になりながら、ゴブリンどもについて聞いてみる。まだ怪我人や死者が出てるわけじゃないのか…この爺さんとディドに任せとけば、こりゃ楽な仕事だな。

老いてなお盛んなる者は尊うべきかな…/老戦士のゴブリン退治
“鉄の城壁”ディドは、かく語る(8月16日)
     早朝、それがしは身支度を整え、ザンテ武器防具店の前にいた。以前、修練場を訪れた際に引き受けた、武具の運搬と妖魔退治の依頼を遂行するためである。 愛用の鋼鉄の甲冑を身に纏い、背中には戦斧と大盾と矢筒、腰の後ろには連接棍棒、右側には槌矛、左側には長剣、手には長弓という完全武装である。これならば、いかなる敵が現れようとそうそう遅れは取らぬ。 同行者は冒険者が3人。野伏にして盗賊のカイト殿、女戦士のヴァリ殿、大地母神に仕える女神官戦士ヴァネッサ殿である。 このうち、カイト殿とは面識がある。あの忌まわしき事件において、共に邪神徒めと戦った仲である。…あの時は少々無礼と言うか、無茶な真似をして怪我をさせてしまったりもしたが…。何にせよ、彼の力量には疑うべき点はない。 後の女性お二人とは面識はないが、ヴァネッサ殿は一度修練場で見たような覚えがある。見目麗しき女性には似つかわしからぬ程の長剣を易々と振り回していたが、戦士としての力量はまだまだであると見えた。「それがしはディードリヒ・ロイシュナー、人呼んで“鉄の城壁”ディドと申しまする。おのおのがた、何卒、よしなに」 3人と簡単な挨拶を済ませた後、それがしが御者台に座って馬車を走らせた。こういったことはあまり女性や年長者にさせるべきではないように思えたからである。 道中は何事もなく過ぎ、日暮れを少々過ぎたかという頃に、我々は目的の村へとたどりついた。 我々の到着を待っていたらしいマースなる老人は、受け取った武具をその場で身につけると、うれしそうに剣を振り回し始めた。その動きは意外なほど無駄がない。「…ご老人、いやマース殿。ひとつ、それがしと手合わせしてみませぬか?」 ほとんど無意識のうちにそれがしはそう口にしていた。「ほいっ!ほいっ!それっ!」「ぬうぅっっ!!」 怒涛のようなマース殿の連撃に防戦一方に追いまくられるそれがし。親父殿ほどではないにせよ、いつぞやに修練場で手合わせしたジャックなる戦士にも匹敵しようかという恐るべき手練れである。とはいえ、やられっぱなしではいられんな。「うぉぉっ!せい!せいっ!」 強引に体勢を立て直し、力任せに槌矛で打ちかかるそれがし。しかし、それらは勢いを殺され、ことごとく受け流される。 ドガァ!かわされた槌矛が大地を打つ。そしてマース殿は。 ひょいっと身を引いた。「このへんにしとこうかのう。若いの」 …大したご老人よ。数さえ少なければ、妖魔ごとき一人でも…という言葉も大言などではないようだ。「…老いてなお盛んなる者は尊うべきかな…」

戻る
管理:ジャック天野
作成:GRIFIS