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《コナン・ザ・コナン》ロバート・E・ハワードの世界
ロバート・E・ハワード
未訳作あらすじ紹介


SKULLS IN THE STARS by Robert E. Howard
星々の中で輝く髑髏
 ソロモン・ケイン・シリーズ《ヒロイック・ファンタジー》

【解説】


THE SAVAGE TALES
OF SOLOMON KANE

(Wandering Star, 1998)
 初出:ウィアード・テールズ誌1929年1月号。ソロモン・ケインといえば、邦訳された2作品「死霊の丘」「はばたく悪鬼」も含めて“未知のアフリカを旅するピューリタン冒険家”というイメージが固定していると思う。それは事実だが、一方では、イギリス、ヨーロッパの片田舎を舞台にした小編もいくつか残されています。そんなケイン・シリーズの二面性を知ってもらうために、この作品を紹介したい。

 これらの作品は、アフリカ編ほどの文量もなく、さらりと軽く楽しめるもの。ここでは「ヒロイック・ファンタジー」として紹介しますが、実際には活劇シーンは少なく、純粋なホラー小説を楽しむつもりで読んでもらうと丁度良いと思います。

【あらすじ】

 トーカータウンに向かうには、二つの道があった。ひとつは短く真直ぐな道で、もの寂しい荒れた高台を抜ける道。もう一方は、東への低い丘を囲むように存在する沼地の間を抜ける曲がりくねった危険な道だ。だからソロモン・ケインは、今来たばかりの村から、一人の青年が息を切らせて彼に追い付き、沼の道を行くよう必死で頼んで来たのに驚かされた。

 「沼の道だと!」ケインは、深みのある瞳で相手をじっと見つめた。ケインは、痩せて背が高く、暗く沈んだ顔色で、清教徒ならではの黒い衣服が目を引く男だった。驚くケインに、青年は沼地を抜ける道の方が安全だからと言う。そして、安全のため、今夜は村で一泊し、明日の朝、出発したらどうかとケインに勧めた。「そして、沼の道を行けというのか」ケインは肩をすくめた。「もうすぐ月が昇るだろう。月明かりを頼りに高台の道を行けば、ほんの数刻でトーカータウンに到着できるはずだ」とケインは言い張る。

 だが青年もあきらめない。高台の荒れ地に家はないが、沼地の途中には、エズラという老人が住んでいる。以前は知恵遅れの従兄弟ギデオンが一緒だったが、ギデオンが沼地にはまったのか行方不明になったあとは、エズラ老人が一人で住んでいるのだという。けちと評判のエズラだが、一晩泊まるくらいならば断わりはしないという。だから沼地を行くべきなのだと、青年も譲らない。

 ケインは、青年がこうも強硬に沼地の道を勧めるわけがわからず、怪訝そうに相手を見つめた。そこで青年は、仕方なく詳しい事情を説明した。もう1年以上も、荒れ地を抜ける道を通ることを村人たちは避けているというのだ。それというのも、夜になると、その荒れ地を呪われた死の恐怖が襲うからである。その実体を知る者はいない。だが、身も凍るような無気味な笑い声と、犠牲者の叫び声を聞いた者は何人もいるのだ。哀れな犠牲者は、恐ろしいほどに切り刻まれていたという。

 その話を聞いて、ケインのくすんだ瞳に激しい光が宿り、血の流れが早まる。冒険! 命の危険を伴う冒険こそは、ケインが望んでやまないものだった。「これには邪悪な力の存在が感じられる。主(しゅ)が俺を、この呪われた土地に差し向けたのだ。悪魔と戦うには、経験豊かな強い男が必要だ――俺のような」とケインは言い切った。そして、ケインが荒れ地の道を進んでゆく後ろ姿を、青年はため息をついて見送った。

* * * * *

 高台となった丘をケインが昇ったとき、赤き血の色をした巨大な太陽が、地平線の彼方へ沈んでいった。あたりに暗闇が忍び込んでくる。星がまたたき、その星の間に、まるで髑髏のような月が姿を現わす。幽霊の囁きのような夜風が、ケインの横を通り抜けていった。ケインは剣とピストルとを手にして、その中を進んでゆく。

 突然、ケインは立ち止まった。前方から、なにか奇妙な音が響いたからだ。再び――今度は前よりも大きい音だ。ぞっとするような笑い声だ。魂を凍らせるような憎悪と恐怖が込められた笑い声。人間は決して、あのおうな笑い声を発しない。ケインは早足で、音のする方へ向かった。

 笑いは今や、絶叫へと変わっている。ケインは走った。誰がが、何者かに襲われているようだ。ケインの身体に冷たい汗が流れ落ちる。この暗闇が恨めしかった。あたりは、無気味な形にねじ曲がった木々が、おぼろげな巨人のように微かに見とれれるだけだ。

 やがて、高い草の間から、ひとつの人影がよろけてくるのに出くわした。見る影もなく悶え苦しみ、血まみれだ。ぶつぶつと意味不明の呟きを漏らしていたが、血の中で息を引き取った。ケインは冷たい瞳で、この男がよろけて来た先を探るように見据えた。何も見えない。だが、ケインは確かに何者かがこちらを見返していることを気配で感じ取っていた。立ち上がり、ピストルを構える。

 草影に漂う靄を、ケインはじっと見つめていた。すると、いつしかそれが不明瞭な形を成して来る。狂気を宿した醜い二つの目が爛々と輝き、ケインを捉えていた。おぼろげな身体の形も、人間のそれと似ていないこともない。このような存在が、果たして人間を傷つけることができるのだろうか――。だが事実、一人の男がこの物の手にかかって命を落とした現場に、ケインは居合わせているのだ。ケインは相手の口が開き、空気が振動するのを感じた。ピストルを発砲したが、相手は激怒と嘲りのこもった叫び声を上げ、長い影のような腕をこちらに伸ばしてきた。

 ケインはレイピアで敵の攻撃を避けようとするが、刃はむなしく影のような身体を通り抜けてしまい、逆に魔物の鈎爪がケインの服、皮膚を切り裂いた。ケインはレイピアを手放すや、素手で敵に立ち向かってゆく。彼の心に恐怖はない。魔の存在に対抗する武器は、ただ強靱な勇気しかないことをケインは知っていたからだ。遂に相手の亡霊が、ケインの前からたじろぎ始め、無気味な笑い声が怒りの叫びに変わっている。

 ケインは組み合いの中で、亡霊を大地に投げ付けた。敵は悶え苦しみ、身体が煙の蛇のようにゆらめいた。そのとき、ケインは相手が言葉を話すことができると知り、髪の毛が逆立つほどの驚きを覚えていた。人間が喋るのとは全く異なるが、亡霊の囁きのような言葉にケインはじっと耳を傾けていた。そして、隠された恐ろしい秘密を知るのである。

 エズラ老人の小屋は、木々に隠れ、沼地の真ん中にひっそりと存在していた。壁も屋根もぼろぼろで、苔が覆っているようだ。たくさんの人間が、この沼地の道を行き来していたが、エズラ老人の姿を見た者はほとんどいない。今、このエズラ老人は不機嫌そうに小屋の前に立っていた。彼と対面するように、たくさんの村人たちがここまで足を運んでいたのだ。その中に、ケインの姿もあった。

 村人たちは、エズラ老人に、従兄弟のギデオンはどこにいるのだ、と尋ねた。すると老人は、ギデオンはもう1年以上も前、沼の間をぶらついていたのを最後に姿を消し、二度と戻って来なかったという、これまでの話を繰り返した。道に迷って狼や毒蛇に襲われたか、それとも沼に足を取られたのではないかというのだ。

 村人たちが言うには、高台の荒れ地の道に亡霊が出没するようになったもの、ちょうど1年ちょっと前からだ。最初の犠牲者が哀れな姿で発見されて以来、多くの人間が亡霊の犠牲となった。そこで、ケインが自分の体験を語る。「昨日の夜、俺は荒れ地の道を通って、また一人、犠牲者が増える現場に遭遇した」それと聞き、老人は「それが一体、わしにどんな係わりがあるというんじゃ!」と言い返す。

 ケインは、自分が亡霊と戦い、そして信仰の名のもとに最後は敵を叩き伏せ、亡霊が逃げ去る前に恐るべき真実を聞かされたのだと明かす。村に戻ってそのことを話したケインは、今日こうして皆を引き連れ、エズラ老人のもとへとやって来たのだ。亡霊の話した内容から、この恐怖を取り除く方法をケインは知ってしまったのである。

 「一緒に来てもらおう」と老人に命じるケイン。いやがる老人を村人たちが押さえ付け、無理矢理に連れて行った前は、荒れ地の道にある、腐りかけた樫の木のもとだった。太陽が沈もうとしている。その中で、樫の木はまるで絞首台のような無気味なシルエットを浮かび上がらせていた。

 樫の木を前にして、再びケインが口を開く。1年ちょっと前のある晩、エズラ老人は従兄弟のギデオンを騙して沼地からこの樫の木の場所まで連れ出し、ここで彼の命を奪ったのだ。そのことをケインは、亡霊の口から聞かされたのである。「根も歯もないでたらめじゃ!」とわめく老人。そこでケインは村人に、木の上を探るよう命じた。木の裂け目から、カタカタと乾いた音を立て、一体の骸骨が引きずり下ろされた。エズラ老人は、金切り声を上げて後ずさりする。

 「あの亡霊はギデオンだ。あんたもそれを知っていたはずだな」とケイン。おそらくエズラ老人は、ギデオンの亡霊が沼にさまよい出ることを恐れて、死体をこの場所に打ち捨てたのだろうというのが、ケインの推測だ。幽霊というものは、その死に場所付近に現われるということを、老人が信じていたからだろう。

 生前、知恵遅れだったギデオンは、死んでからも彼を殺した犯人を見つけ出すことができず、ただ当てどなく、夜に荒れ地を通る人間を襲うしかなかったのである。「だがそれも、今日で終わりだ。彼の魂も安らぎを見い出すことができるだろう」とケインは言い、沈みゆく太陽をちらりと眺めた。

 ケインは、抵抗するエズラ老人を樫の木に縛り付けるよう村人たちに命じた。「あんたは縛り首や銃殺、剣で罪を償わせるわけにはいかん。それではギデオンの亡霊が満足しないだろうからな」この言葉に、老人はがたがたと震え、必死になって助けを求めた。だがケインは神に祈りを捧げたあと、エズラ老人を残して村人たちとその場をあとにした。

 やがて、太陽が沈んだ。背後に残して来たエズラ老人が、凄まじい叫び声を上げた。「死じゃ! 死じゃ! 星々の中に髑髏がおる!」そして、あたりは静寂に包まれた。

 「あの男も悪党だったとはいえ、良い人生を過ごしたはずだ。神があの男の魂に安らぎを与えてくれるだろう。だが、それでもなお、俺の心は沈んだままだ」というケイン。そんなケインに、村人たちは感謝を込め、ケインはただ善意から、神の行いをしただけだと言葉を掛ける。「本当に、そうなのだろうか――俺には判らぬ」

 太陽は沈み、夜のとばりが辺り一面を覆っている。その深い闇を通して、何かの声を響いたように感じられ、一同は後ろを振り返ってみたが、何も見えるものはない。ただ、赤い月の下、高台の輪郭がシルエットとなって浮かび上がっているだけである。と、ひとつの無気味な影が月を横切り、その影を追うように、実体の定かでないものが近づいてゆく。二つの影は月に向かって、一瞬、立ち止まったかと思うと、やがてひとつに溶け合い、闇の中に消えていった。丘の遥か彼方で、おぞましい笑い声がひとつ、谺した。

(終)

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