その他 3

もくじ
木のいのち木のこころ(地) 小川 三夫
我が家の新築奮闘記 池内 了
調理場という戦場 斉須 政雄
成りあがり 矢沢 永吉
アー・ユー・ハッピー? 矢沢 永吉
すべては一杯のコーヒーから  松田 公太
人間の本性を考える  スティーブン・ピンカー 
触る門には福来たる  広瀬 浩二郎

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   触る門には福来たる
      座頭市流 フィールドワーカーが行く!
   広瀬 浩二郎 著 (岩波書店) 2004年


 幼少時代からチャンバラが好き。大学では居合道、合気道、野球、サッカーとあらゆるスポーツを極める。そして京都大学で文学博士号を取得し、現在は大阪の国立民族博物館に勤務する。そんな著者は、なんと全盲の人。
しかも視覚障害者という枠に自らを閉じこめず、研究のために単身渡米までする行動派だ。 アメリカでは本業の研究のかたわら、各地の博物館をバスと列車を乗り継いで調査してまわり、米国流合気道を体験するという好奇心の旺盛さは、健常者と何らかわりはない。

全体としてリラックスしたスタイルで綴った旅日記なのだが、そのなかで私が一番興味を惹かれたのは、氏がバリアフリーの観点で日米博物館を比較した部分である。 
目の見えない人は、博物館に行っても「ガラスケースの壁」に突き当たってしまうことが多い。触ることでしか展示物を確かめるすべのない視覚障害者にとって、それはまさしく大きな壁である。 だがアメリカには、数こそまだ少ないが積極的にバリアフリーの取り組みをしているミュージアムがある。 
たとえばナショナル・ギャラリーでは、ガイドの最低限の説明の後、視覚障害者に自由に触らせてくれる「タッチ・ツアー」なるものがあるのだそうだ。ガイドはタッチしている人の反応を見て、興味がありそうならさらに解説を加えるのだという。 完全に見学者のペースに合わせるそうした姿勢は、さすがだと感じた。 だが現実問題として、福祉先進国アメリカでもバリアフリーという点ではまだ課題は山積しているようであるが。

日本でもわずかではあるが、そうした取り組みを行っている寺院が京都などにあるそうだ。すべてを目で見て確かめることは、健常者であっても年をとれば大変なこともある。バリアフリーとは、特別な人のためだけでなく、すべての人に通じるものであるはずだ。 筆者の「開かれたミュージアムを作るためには、人間自体が開かれていなくては」という感想に大きくうなずいてしまった。 2004.11.30

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   人間の本性を考える 上・中・下
      心は「空白の石版」か
   スティーブン・ピンカー 著 山下篤子 訳 (日本放送出版協会) 2004年

 生まれか育ちか。子どもの能力は遺伝によって決まるのか、環境や教育は子どもにどれだけ影響を与えるのか。人間は生まれついて残虐性を備えているのか、それとも学習されて身につけるのか。という議論は古くからされてきたし、それぞれの立場で研究の発表もなされてきた。
この本では、人間のそうした本質について、過去の膨大な研究事例をふまえつつ著者なりの答えを導き出した成果が収められている。

本書は上・中・下巻から構成される、研究成果の大作。 各テーマに沿ってあらゆるケースを検証しながら、先人の研究成果を元に問答形式のように進められて行く。
紹介されるものすごい知識量というか情報量には、ただただ圧倒されてしまった。
私の頭が弱いせいか、読んでいるうちにどれが筆者の結論なのかよくわからなくなってしまった部分もあるが、とにかく著者はすごい頭脳の持ち主なのだということだけはわかる。 

いろんな章に別れているが、子育てに関する章が一番身近でわかりやすい。

「たいていの場合、親が子どもにした一番重要なことは、死なせなかったということである。」

「長期的に見て、親の行動が子どもの知能やパーソナリティを形成することはない。」

「子どもの行動は、親の行動よりも仲間の行動に左右される。」

など、なかなか衝撃的な箇所もあり、なるほどとうなってしまった。
ただ、私としてはこうした結論はしょせんは統計上の結果に過ぎないのだから、親が子育てに自信をなくす必要はない、と思っている。    2004.11.30
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   すべては一杯のコーヒーから
   松田 公太 (新潮社)  2002年

コーヒーチェーンの「タリーズコーヒー・ジャパン」を設立した著者の自伝書。
元銀行マンであった著者が、アメリカ・シアトルで人気のコーヒー店タリーズと単独契約し、日本でスペシャルティ・コーヒーショップを開こうと決意したのが、入行6年目のこと。
いったん決心してから後の展開は、実に速い。 タリーズの日本上陸を目ざし、出店までの難所を次々とクリアしていく。 多少の行きつ戻りつはあったものの、オープンから3年目にして早くもナスダック・ジャパンへの上場を果たす。

「何もないところから立ち上げる」とは、口で言うほどたやすいことではないことは、私でもよくわかる。 「人生は一度きり。やらずに後悔するより、やれるところまでやって、失敗を受け入れる方が納得できるではないか」

「情熱をもって取り組めば、何事にも負けないはずだ。」

「情熱は不思議と『運』をも引き寄せる」

これらは、この著者の哲学である。 とはいえ、どれだけ情熱を持ち合わせていようと、自分の土壌にあったタネでなければ、何事もうまくは育たないものだ。 その点この著者は起業家としての生き方がぴったりはまっていたのだと感じる。

とても興味をもったのは、「スターバックス」という、アメリカ発の大規模コーヒーチェーンが日本の主要都市に既にはびこってるにもかかわらず、あえて無名であったタリーズを選んだというところ。 普通に考えれば、素人の個人がそのような大手と真っ向から対決しようなどとは思わないものだが、松田氏はおそらく、根っからのチャレンジャーなのだろう。 語られている言葉のそこここに、本人言うところの「突撃野郎」の精神がにじみ出ている。それ故、止まらないデフレ経済の中で元気をなくしている日本人にとっては、大変励みになるのではないか。 
最後に、氏の言葉の中から、シャキッとさせてくれるスタミナドリンクを一本。

「人は成長するための努力を止めてはならない。成長するのを止めたとき、つまり現状に甘んじた瞬間んから衰退がはじまってしまうからだ」            2003.7.1   
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   アー・ユー・ハッピー?
   矢沢永吉 (日経BP社)  2001年


キャバレーまわりの無名バンド時代をて、不屈の精神力でミュージシャンとして独立、成功を手にしたロックン・ローラー矢沢永吉。 
願い通り頂点にまで登りつめ、富も名声も手に入れた。
しかし、ある時ふと自分の心に問うてみる。 「おれはハッピーか?」
答えは、「ノー」だった。
成りあがり」の時代を経て、50代になった矢沢がその後を語った自叙伝。

成功を手に入れるまでの物語は、それ以前の時代が不遇であればあるほど、ドラマチックだと感じる。問題は、成功してからどう現状を保っていけるかだ。
矢沢は自分の権利を守り、自分の思う通り自らをプロデュースしていけるよう、自立の道を選んだ。 会社を設立し、海外にも進出する。その過程で、身内から手ひどい裏切りに遭い、経済的大損害も被る。それでも走りつづけなければならない。ビジネス、海外、作曲、コンサート・ツアー、仕事、仕事、仕事。 だが彼は気がつく。音楽を大切にするためにも、その外側、土台が豊かでなければ痩せてしまうのではないか。 
今度は、今まで省みることのなかった家庭にも目を向けるようになる。 

壁にぶつかった時は、誰もが苦しい。でもそれが新天地を切り拓くきっかけとなる場合もある。 彼の場合、それは良い方向に働いたようだ。どこまでも本当にラッキーな人。 
ただ、前作『成りあがり』を読んだときのようなワクワク感はなく、どちらかというと男の身勝手さが目に付くといった印象の仕上がりだ。
一番納得いかないのは、糟糠の妻と子どもたちは自分勝手に捨てておきながら、新妻との家庭では良きパパ良き夫になってしまうところ。 生き方が変わったからって、それはないんじゃないの〜? ロッキーは、成功してからだって「エイドリア〜ン」って奥さんを愛しつづけてたのにね(!?)。  2003.1.4

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   成りあがり
   矢沢永吉 (角川文庫)  昭和55年


広島の片田舎からギターひとつ携えて、夜行で横浜に降り立った青年。
家族に恵まれない少年期を過ごし、貧乏のどん底から這い上がってスーパースターになった男、矢沢。 
金もなく、家もなく、コネすらないところから彼を今の地位にのし上げたもの、それはただひとつ、「俺はビッグになるんだ。必ず、成りあがってみせる。」その執念であった。
ロックン・ローラー矢沢永吉が自らの生い立ちと、キャロル解散後独立するまでを語った自伝的「激論集」。

何ヶ月か前に、テレビで観た同名ドラマ(TOKIOの松岡君が主演)がなかなか面白かったので、興味を持って本書を手にとってみた。 
正直これを読む前までは、矢沢永吉があまり好きではなかった。キザっぽくて、態度が大きい、という印象が強かったためかもしれない。でも、不思議と男の人たちからは好かれているので、きっと同姓を惹きつける魅力があるのだろうな、とは感じていた。

そして読んでみて、なるほど、と思った。 上に行くことを夢見て叶わなかったアーティストが掃いて捨てる程いる中、希望通りやってのけられただけのことはある。
本当にすごい人。 正真正銘の成功物語。スピード感あふれるキレのある言葉も、矢沢らしさが出ていてすごくいい。 思わず何度も読み返してしまったほど。
矢沢がすごいのは、音楽の才能とか精神力だけではなく、普通のミュージシャンが見ないような方向までをしっかり見ているということ。 人のいいなりになって、だまってしきたりに従うのではなく、自分を取り巻く社会を知ろう知ろうと努力して勉強している点だ。 
すると、どうしても上層部との軋轢が生じてくる。 自分の思い通りのことを実現させるために彼が選んだ道は、自らをプロデュースできる会社設立であったようだ。 

やりたいことがわからないで立ち止まっている人、思い通りにならない毎日に苛立っている人、そんな人たちに向けたメッセージわかりやすく、力強い。
「自分の目指すものを定めて、執念燃やすんだ。自分の欲望を百パーセント確信し、それを具体化していくんだ。」
迷い多き中・高校生たちに薦めたい一冊。 2003.1.4

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   調理場という戦場
   斉須 政雄  (朝日出版社) 2002年

現在、東京港区のコート・ドールというフレンチ・レストランで、オーナー・シェフとして活躍する著者が、フランスで料理修行した12年間を振り返って書いた自伝的書。
フランス語もできない、料理人としても半人前、という平凡な若者だった著者が、単身フランス行きの飛行機に乗り込んだのが、23歳の時。 フランスのあらゆるタイプのレストランで修行をしながら、著者自身が考えて身につけていった人生哲学が全編を通して語られている。 

一店目、二店目、とだんだんお店がグレードアップしていく中で、著者自身の考え方も変わっていくのが、とても興味深い。
印象にのこったのが、毎日触れるニンジンやタマネギから「ものいわぬ声」を聞き取る、というところ。 どう料理すれば目の前の素材が一番生かされるのかは、素材から直接感じ取るしかない。フランス語の壁に阻まれ、しゃべれないもどかしさを自身が感じていたからこそ「ものいえぬ」存在から発する声に共感することができたのだという。
逆境は別の道を切り開くためのチャンスである、というのは、こういったエピソードを聞くと、素直に本当だと思えるものだ。

サッカーの中田(ヒデ)の発言を聞いていてもそうだけど、がむしゃらにただ根性、根性、でがんばるだけでなく、与えられた状況の中で精一杯自分の頭を使って考えることが成功するためには大切なのだ、という意味のことをこの著者も語っている。
目の前にあることを、自分でどう理解し、消化するか。 そのとらえ方の違いが個人個人の違いをつくる分かれ目だと言えるのかもしれない。 2002.12.9
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   我が家の新築奮闘記
   池内 了 (晶文社)  1999年

50を過ぎて一大決心をして家を新築することに決めた著者が、図面興しから完成にいたるまでの様子を紹介した書。 
設計士や棟梁と一から話し合いを重ね、家造りを進めていく過程が詳細に綴られていて興味深い。

まず、著者が宇宙物理学の専門家である故、科学者らしい視点が家造りに生かされているのが面白いと思った。 たとえば、環境に負担をかけない構造を徹底的に追及し、エネルギー源には太陽光発電を採用。 そして、将来家を取り壊すようになった際、出す廃材がリサイクル可能なものであるよう工夫しているところなどである。
建材についてもよく勉強している。 たとえば、家の土台や風雨にさらされるベランダは、防腐効果のあるクリの木を使用するという具合だ。 

それに建築を請け負う大工も協力的だ。化学物質を極力排する、という施主の意向を尊重し、防蟻剤のかわりに木酢タール抽出液を使用したり、ベランダの手すりにシンナーではなく、「柿渋」という天然の塗料を使ったりとなかなか凝っている。
学術書とはだいぶ趣が違い、肩の力の抜けた雑感的手記が楽しめる一冊。 2002.12.9
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   木のいのち木のこころ(地) 
   小川 三夫   (草思社)  1993年  


『木のいのち木のこころ(天)』の西岡常一棟梁の一番弟子による著。
高校の修学旅行で 法隆寺の五重塔を見て宮大工に憧れたことが 入門のきっかけだという。
西岡棟梁の元で技術を身につけた後、今度は自身が棟梁となって弟子をとり、「斑鳩(いかるが)工舎」を興す。そうした著者の半世紀と、宮大工としての思いが綴られたのが本書である。

著者が故・西岡棟梁に弟子入りしたのが、21歳のとき。 
その時点でもう大工になるには年をとりすぎていると言われてしまう。 
それでも小川氏はひたすらねばり、幾多の迂回路を経てようやく弟子入りを認められる。そして、やがて自らも棟梁となり独立する。
著書を通して一番いいと思ったのは、小川氏の弟子を見つめるまなざしの暖かさだ。 
何百年も後の木の状態を考えながら材木を組み立てていく 宮大工のことだけある。 
人に対しても同じこと。 速効熟達を望むのではなく、育っていくのをじっくり腰をすえて待つ。カンナ研ぎの仕事ひとつにしても、弟子たちが体で体得するようになるまで、ただひたすら待つ。 

私も子育てをしているが、この「待つ」というのは思ったよりも難しく、自分の器量がもっとも試される部分であるように感じている。 だからこそ、人の上に立つ人にはなくてはならない資質なのだと思う。
弟子の中には著者の息子さんもおられたようで、息子さんはじめ斑鳩工舎のメンバー
ひとりひとりの声を反映させた『木のいのち木のこころ(人)』という巻も発行されている。2002.12.9

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