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■□■□■□■□ 今月の本・絵本(5月) ■□■□■□■□
******** まさかの友は真の友 *******
『ねずみとくじら』ウィリアム・スタイグ 作 せたていじ 訳
1976年初版(評論社) 対象年齢:7歳くらいから
■□■□ おはなし ■□■□
エーモスというねすみがいました。エーモスは海が大好きで、
大海原の向こうに出てみたいと、いつも考えていました。ある日エーモスは、
海に出る決心をします。昼間は船を作り、夜になると航海術を勉強しました。
そしてついに船は完成し、エーモスは船出します。ところが航海の最中、
エーモスはふとしたことで船から落ちてしまいます。海の真中でひとり力尽きて
死にそうになったそのとき、1頭のくじらが現れます。くじらはボーリスといいました。
ボーリスは、親切にもエーモスを背中に乗せ、岸に連れ帰ってくれるというのです。
その間ふたりはいろいろな話をし、互いを尊敬し合い、エーモスが陸に戻る頃には
互いに大の親友となっていました。
それから何年も時が流れ、ある年今までにない大嵐がおこります。
ボーリスは大波に巻き込まれ、浜辺に打ち上げられてしまいます。
それを偶然エーモスが見つけます。
今度はエーモスがボーリスを助ける番です。そして森のゾウたちの力を借りて、
ボーリスを海に戻すことに成功するのです。ふたりは涙を流します。この先もう
2度と会えないでしょうが、絶対に相手を忘れないと、お互い思うのでした。
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□■□ 陸で一番小さいものと、海で一番大きいものとの友情
ねずみとくじら。同じ哺乳類の仲間であっても、一方は陸の生き物で、他方は
海の生き物。一方はおそらく、動物の中で一番小さく、もう一方は一番大きい。
よく漫才コンビなどは、全く対照的なキャラクター同士であることが多いですね。
果たして陸最小の生き物と、海最大の生き物との友情は成り立つのか?という、
常識を越えた発想がこの物語の面白さであると思います。
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□■□ 夢を実現したねずみ
私がこの話の中で一番関心を持ったところですが、エーモスもボーリスも互いを
知る前までは、それぞれ一人でいたというところです。蛇足ではありますが、
エーモスが災難に遭うまで、一人で行動する場面に全体の3分の1ページ以上も
費やされています。
エーモスは、「自分が何をしたいのか」がよくわかっているネズミでした。
果敢にも大海原へ一人旅立つ決意をするのですが、準備にも余念がありません。
日のあるうちは、大工となって船作り。日が沈むと、航海術を独学します。
夢を叶えるためには、それ相当の努力もおしみません。
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□■□ ひとりでいられる強さ
このエーモス、たった一匹大海原で孤独だったかというと、そうではありません。
「なにもかもすてきで、エーモスは、げんきいっぱい、いきがいをかんじました」
とあります。 真っ黒な夜の海では、星を見上げて
「いきて ここにいる けしつぶほどの ねずみのみも、
いきて ひろがる だいうちゅうのなかまとして、
しみじみ うちゅう ぜんたいを したしく かんじました」
とあります。このように感じられるのは、まさにエーモスが自分の足でしっかり
立っていられる者だからなのでしょう。
「ひとりでいると、取り残されているようで不安」と感じ、常に誰かと携帯電話で
つながっていなければ安心できない、今時の若者とはまるで対照的です。
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◇■□ 運命の出会い
そして偶然の事故からエーモスは海に落ち、ボーリスに助けられます。
それからの1週間、互いに何でも分かち合うようになり、生きる世界の違いを
乗り越え2人は大親友になります。これもお互いが自立した個人同士であったからこそ、成し得たことなのではないかと思います。
岸辺に着くまでの間、
「ねずみとくじらは、たがいにあいてを こころから そんけいするように
なりました」
とあります。 真の友情は尊敬の上に生まれる、ということを作者は示しています。
このことは、自分に満足している者は、人の良さを認めて受け容れる心のゆとりがある、とも言えるのではないでしょうか。 相手のすぐれた点を妬んだり、
自分と異質のものを拒むといった狭量さは、2人にはありません。
自分のやりたいことがわかっていて、ひとりでいられる強さを持っている人は、
幸せです。そのような人は、真の友に巡りあえるチャンスもそれだけ多いのでは
ないかと思います。
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□◆□「真の友はどんな時にも愛しつづける」−聖書・箴言17章17節より−
それからしばらくの年月を、エーモスとボーリスは互いに離れて送ります。
でも運命のいたずらか、今度はねずみのエーモスがボーリスを助ける番がやって
きました。エーモスは、この友を救おうと必死で知恵をしぼります。そしてみごと
ボーリスを、海に戻すことに成功します。
「まさかの友」というのは、まさにこのふたりのような関係をいうのでしょう。
どれだけ年月が経とうとも、あなたへの気持ちは変わりません、そんな関係です。
しばらく会わなくとも決して薄れることのない真の友情。
しみじみと、心の奥深くまで染みわたりました。
*ウィリアム・スタイグ*
1907年ニューヨークで生まれます。この絵本は、ベトナム戦争(1960年代初頭〜1975年)の最中にある、1971年に作られました。 立場の違う者同士なぜ、何のために戦い傷つけあうのか。この絵本のエーモスとボーリスのように、互いをよく知り合う努力ができたら、どれだけの命が犠牲にならずにすんだのだろうか、と繰り返される戦争を振りかえり、考えてしまいます。
他の作品に、『ロバのシルベスターとまほうのこいし』『ものいうほね』
『歯いしゃのチューせんせい』『みにくいシュレッグ』『ピッツアぼうや』などあります。 |