ウルムチへ

試し弾きをする弟子さん

カシュガル、ドタールを弾く男性

アブ氏と約束した朝8時(北京時間では10時)に楽器屋へ向かった。
今日の午後の飛行機でウルムチに戻る事になっている。朝の便にしてなくて良かった!!
時間ちょうどくらいに楽器屋に着くと、まだクルバンジャン君は開店前のお掃除中。
声をかけて「昨日アブ氏がドタール買ってあげると言ってくれたんだけど聞いてる?」と尋ねると何も聞いていないようだった。
中で座らせてもらってしばし待っていると、弟子さんの車が店の前に止まり、アブ氏と弟子さんが降りてきた。

アブ氏は店に入ると挨拶もそこそこに店の奥にずんずん進み、並べられているいくつかのドタール中から1つを迷うことなく手に取った。
「どれにしようかな…」とキョロキョロしたりなど一切しない。
そういや私のウイグルネームも即決で決めたよなぁ。そういうスパッとした所がまた男前なんだよね〜。

アブ氏が選んだのは一番装飾が少ないシンプルなものだった。
彼自身が愛用しているドタールも装飾の少ないものなので、きっとシンプル好きなのだろう。
アブ氏は選んだドタールをクルバンジャン君に渡してフレットの追加や予備のブリッジを作るよう指示をして、
それが出来ると御大ご自身が音を鳴らしつつフレットの位置を微調整して音階の調節をしてくれた。
私が全く弾けないのは分かっているのに一生懸命音の調節をしてくれるアブ氏…。
しかも、ペグ(チューニングするつまみ)が伝統的な形じゃないとダメ出しして交換させていた。
たとえ部屋の飾りになるだけの物でもキチンと『楽器』として仕上げたいのは
ミュージシャンとしてのコダワリなのか。

一通り仕上がると弟子さんに「1曲なにか弾け」と
手渡した。
弟子さんはアブ氏のオリジナル曲を歌いながら演奏。思ってた以上に上手だし歌もうまい!
しかしアブ氏は弾いてる横で何やら指示したりしてブツブツ言っていた。「そこはもっと強く」とか言ってたのかな
(笑)
演奏が終わって「すごくお上手だし良い声していらっしゃいますね!」と言うと
アブ氏は「ふんっ、全然まだまだだわ」て感じのリアクションでウケた。お師匠さん厳しい〜。

続いてお師匠さん自ら試し弾き!やった!
はじめポロンポロンと簡単にメロディをつま弾き、ひと呼吸置いてから本格的に弾き始めた。
やっぱり凄い。生演奏は何度見ても迫力があって心に音がビシバシ突き刺さってくる。
弾いてくれたのは歌はなく演奏だけの曲で、私の知らない曲だった。
演奏し終えた後で、今の曲は新しく作ったものだと教えてもらった。もしかして即興で作ったのかも!?
横に座っていた弟子さんがものすごく真剣な目でお師匠さんの指の動きをガン見していたのが印象的だった。

試し弾きを終え、クルバンジャン君は持って帰るためのソフトケースを取りに店の外に出て行った。
私は御大自らフレットの微調整までしていただいたのにただ家に飾るだけじゃ勿体なさ過ぎる!と思って
「ドレミを教えてほしい」とお願いをしてみた。クルバンジャンがいないのでゼスチャーで尋ねたのだが通じたようだ。
どうやら1つ1つの音に押さえる指が基本的に決まっているようで、例えばドは人差し指でファは薬指…といった具合。
3回くらい繰り返して教えていただいたのだが、物覚えが悪い上に緊張しすぎて結局全然覚えられず(汗)はずかし〜!

クルバンジャン君が戻ってきた頃に1人の欧米人観光客が店に入って来たので、ケースに仕舞う前に
その方にお願いしてアブ氏・クルバンジャン君・弟子さん・私の4人の記念写真を撮ってもらった。

そうしてる間にもアブ氏の携帯が鳴ったりして、次の予定が押しているようで多分「まだか?」という催促電話っぽかった。
ご多忙なのに時間割いて音の調節に加えて演奏まで聴かせてくれて、心の底からありがたかった。
適当に選んで「はいどうぞ」じゃないところにアブ氏の音楽家魂を改めて感じることが出来た。
そんな音楽家魂が注入されたドタール、
家宝にします!最高のプレゼントをどうもありがとうございました!!

そうやってソフトケースに入れたドタールをいただいて、とうとうお別れの時間になった。
ちょっと急いでいるような様子だったのに、「これからどこか行くのなら車で送っていくけど?」と最後まで気遣ってくれて…。
私はもう少し店にいたかったからここでお別れの握手をして、アブ氏と弟子さんが車で去っていくのを見送った。
別れ際に、「大切にします」と言いたかったけど言葉が分からないからドタールをきゅっと抱きしめるゼスチャーをした。
アブ氏は何も言わなかったが、きっと理解して下さっていたと思っている。




エイティガール見納め

カシュガル旧市街、エイティガール寺院

アブ氏たちを見送った後、また店の椅子に座らせてもらってクルバンジャン君と客のやり取りを見物。
欧米人さんは家に飾る楽器を買いに来たそうで、サタールという弦楽器を買おうとしていた。
値段交渉の参考にしようと「君のそのドタールはいくらだったの?」と私に聞いてきた。
「いや〜、これはプレゼントしていただいたものだから値段は分かりません」と答えたが、
その時「プレゼント」と言うのが嬉しすぎて心の中でどれだけニヤニヤしていたことか(笑)
(実を言うと、アブ氏がクルバンジャン君にサッとお金払っているところを見てしまっていたのだが…)

その人がサタールを無事購入して帰っていき客がいなくなったので、改めてクルバンジャン君にドレミを教えてもらった。
忘れないようにちゃんとメモも取って。簡単な曲1つでもいいから弾けるようになりたいものだ。

その後私も店を出て、ホテルに帰る前に職人街から近いエイティガール寺院まで行って見納めをした。
今日も素晴らしい秋晴れ。喜びに満ちた心で見ているからか、エイティガールの黄色い壁がより一層輝かしく見えた。
以前はカシュガルを去る時には「またこの地に戻ってきたい!」と思っていたが、今は違う。
また訪れる日があることを『確信』しているから…。



カシュガル空港

カシュガル空港

ホテルに帰って荷物まとめてタクシーで空港へ。
空港の中まで入ると車は駐車料金を取られるから空港入口で下ろされた。小さい空港だからええけどね。
空港でチェックインする際にドタールは預けなかった。ネックが折れたりしたら大変だもの!

搭乗まで時間があったからうろうろしていると、一人のウイグル人男性が英語で話しかけてきた。
「君は楽器を弾くのか?」「いえ、これはプレゼントでいただいた物で…」とまたニヤニヤ発動。
思いっきり嬉しがりです、ハイ。



ウルムチ行きの機内食…



カシュガルーウルムチの機内食。。。ゴマビスケットとコーヒー。
まぁ、たった1時間半のフライトだからね。しなびたキュウリ丸ごとよりはマシか。
『首都航空』という航空会社
の便に乗ったのは初めてだ。



天山を越えて

天山山脈上空

基本的に通路側指定な私だが、この路線はいつも窓側指定。
何度見ても天山山脈の壮大な景色は見飽きる事がない。



町が見えてきた

ウルムチ近くの上空

見飽きる事がないと言っても眠気には勝てず、たいていいつの間にかウトウトしてしまっている。
目覚めると山に雪がなくなっていて、遠くに工場地帯のようなものが見えてきていた。
ああ、そろそろウルムチに到着やね。
しかしこうして見るとウルムチの空気がいかに悪いかがよく分かるなぁ。



シルクロードの摩天楼

シルクロードの摩天楼・ウルムチ

ウルムチに到着し、いつものようにリムジンバスで紅山まで行って『孔雀大履』へチェックイン。
高層ビル群や広い大通りを見ると「ウルムチに戻ってきてしまったんだな」と実感する。
ウイグルの事を知らない人たちにこのようなビル群の写真を見せると殆どの人が「こんな都会なの!?」と驚く。
私も1998年に初めて訪れた時はビックリしたものだった。
ベタすぎる言い方だけど、まさにシルクロードの摩天楼だ。




ドタールとウルムチの町

ウルムチの町とウイグルドタール

ふと思い付いて、いただいたドタールをケースから出して窓辺に置いて記念のショットを。

前回(2009年のGW)にもこの孔雀ホテルに泊まり、ウルムチでアブ氏と再会を果たしたっぷり演奏を聴かせていただいた。
あの時はほんとに夢のようで、こんな幸せな事はもう2度とないだろうと思っていた。
それが今回、初めて知り合った地・カシュガルでまた再会しドタールをプレゼントしていただけるなんて…。
私はこれまで旅をして現地で知り合う地元の人々とはみな一期一会で、旅とはそういうものだと思っていたし
今も基本的にはそれで良いと思っているけれど、アブ氏やクルバンジャン君のように
行く度に会ったり連絡取ったりできる人がいる旅というのもまたエエもんやなぁとしみじみ感じた。
全ては彼らの心の広さやホスピタリティのお陰なんだけれど。いいご縁に巡り会えて感謝感謝…。