カシュガル 〜思わぬビッグプレゼント

懐かしの2ショット

カシュガル、職人街のウイグル民族楽器店

部屋に戻って着替えをし、買ったばかりのアトラスもどきストールを頭に巻いてみた。
ところがこのストール、シルクじゃなくてツルツルのポリエステルだから、巻いてみても滑ってすぐにほどけてしまう。
なかなか上手くいかず何度もやり直ししてたらあっという間に出ないといけない時間になってしまった。
有り難い事なんだがまさか2回会える機会があるとは思わず、一張羅は先日着てしまって他にまともな服がなくて
かといって同じ服を着て行くのもなぁ…って悩んで仕方なく普通のよれよれな旅行用の服を着てホテルを出た。

待ち合わせのいつもの楽器屋へ。
まだアブ氏は来てなくて、待っている間にクルバンジャン君が貼ってくれてた私とアブ氏の2ショット写真がある壁をパチリ。
この時の私の顔がいつも以上にひどく(涙)、貼ってもらえてすんごく嬉しいんだけどちょいフクザツ。
でもアブ氏と初めて会った時の記念的1枚だからね。
まさかその時は、この場所でまたお会いする事が出来るだなんて思いもしなかった…。不思議なご縁。

そんな感慨にふけりつつ待っていたのだがなかなか来ない。今日もアブ氏は予定ギッシリで時間押してるんだろうか。
けっこう長く待っていたらクルバンジャンの電話が鳴った。
「今向かってるからもうちょっと待ってて」と言ったらしい。やはり律儀なアブ氏だ。

それからしばらくしてやっと店の前に車が止まった!
…と思ったら車に乗っていたのはコワモテ弟子さんだけでアブ氏はいない。
へ?という表情な私に車に乗ってと弟子さんは言った。弟子さんだけがお迎えにきてくれたようだった。
なんだか面食らったがとにかく車に乗った。




豪華なお食事



クルバンジャンの店がある職人街を出て、どこに行くのかな〜なんて思ってたらすぐ近くで車が止まった。
またまた「へ?」て感じで車を降りた弟子さんに付いていくと。。。
何故だか民家ではなくレストランに入っていった。しかも、こないだランチで行ったのと同じ店やん!?

どないなっとんねん?と頭の中ハテナだらけでレストランの階段を登る私。
先日は屋上のテラスだったが今日は個室に通され、中に入ってみると男性が3人くらい先に来て座っていた。
まだ状況がよく分かっていない私に、突然そのうちの1人の若い男性が英語で話しかけてきた。
おおっ!英語喋れる人がいた!!これは助かったーーー。
ワケ分からん状態だった私だったがそれでめちゃめちゃホッとした。
英語を話す男性は愛称としてカハールと皆に呼ばれていると自己紹介してくれた。3人とも病院に勤めているらしい。

しばらくして1人、また1人と客が集まって来て、その都度カハール君が英語で紹介してくれた。
肝心のアブ氏がなかなか来なかったのだが、その間カハール君がずっと喋ってくれていた。
いやぁ、「英語話せる人がいなくてもどうにかなる」なんて思ってたけどやはりいなかったら全然会話が出来なかっただろう。

どのくらい待っただろうか、かなり時間が経ってからやっとアブ氏がご到着!
席順は日本と同様に奥が上座になっているようで、アブ氏が一番奥なのは当然としても他の誰が奥に近い席に座るかで
「あなたが奥へ」「いやあなたこそ」と譲り合ったりしてるのが日本みたいで興味深かった。
恥ずかしながら私は今回のゲストっちゅーことでアブ氏の隣に座ることになった。
そんなこんなでやっと宴会が始まった。円卓にはどんどん豪華な料理が運ばれてくる。
っちゅーか、あれ?宴会!?アブ氏はドタール持って来てないし…なんか話が違うような。。。

アブ氏が到着した際に一緒に来た男性が私と反対のアブ氏の隣に座っていた。
カハール君によれば、その方はアブ氏の親友で有名なお医者さんらしい。カハール君たち3人のボスで彼も若干英語が話せた。
そのボス氏が私に向かって「3日前にあなたの事を初めてアブ氏から聞いたよ」と話した。
3日前って事は…前のランチで「演奏してあげる」と約束して、その日のうちにボス氏に相談してくれたんやね!
「本当なんだか」とか内心思ってた自分が恥ずかしい。ごめんなさいアブ氏。
どこか友人の家で、と初めはアブ氏も思っていたのだろうけど、おそらく「せっかく遠い日本から来てるんだし家なんかより
レストランで豪華にやった方がいいんじゃないか」な〜んて話になって結局ここになったのではないだろうか。
こちらでは豪華な方が良いというような風潮があるみたいだし。
日本人からしたら一般の人が暮らす家にお邪魔する方がよっぽど嬉しいのだが、文化の違いだからしょうがない。



熱演アブ氏



やっと宴会が始まって少し緊張が解けてきた頃、アブ氏が私に何か話しかけてきた。
カハール君の通訳によれば、「悪いけど今日は他にも大事なゲストがいてそっちにも行かないといけない」との事。
そうしてアブ氏は部屋を出ていってしまった。他の個室の宴会にも顔を出さないといけないようだ。大忙しやね。
あ、そうか、もしかしたら予定がダブルブッキングしたから民家はやめたのかもしれない。
レストランだと両方の部屋を掛け持ち出来るもんね。律儀なアブ氏としてはどちらもキャンセル出来ず苦肉の策だったのかも。

アブ氏がいない間に、車に乗せてくれた弟子さんとは別の弟子さんがドタール担いでやってきた。
ドタール弾いてほしいとお願いすると1曲演奏してくれた。アブ氏の有名な曲だった。
演奏し終えてカハール君が「この曲は…」と言いかけたが「知ってるよ!Bilim Ishqidaでしょ!」と言うと
全員が「おお〜〜っ!」とどよめいた(笑)古い曲だから私が知らないと思ってたのだろう。
てやんでぇ!このアブ氏マニアな私が知らないわけないでしょう、とドヤ顔で得意になる私。
でも歌詞の意味までは分からなかったのでカハール君に説明してもらって有り難かった。

それから更に時間経ってアブ氏が部屋に戻って来た。
席に座ったアブ氏はちょっとハァハァと息があがっていた。急いで戻ってきてくれたのか…有り難い。
戻ってきたら誰かがすぐさま「この子、Bilim Ishqda知ってたよ」とアブ氏に報告した。
でもアブ氏はいつものように「そうか」と静かに頷くだけ(笑)
アブ氏ってそういう方だ。「そうか〜!そいつは嬉しいねぇ」とかって大げさに喜んでみたりは決してしない。

その後しばらくして、アブ氏が弟子さんが持って来たドタールを手に取った。
やった!!とうとう本日のメインの目的であるアブ氏のドタール演奏の時間になったようだ!

急にドタールを手に取ったもんだから、私は慌ててコンデジを用意してアブ氏に「撮ってもいいですか」と身振りで尋ねた。
しかしアブ氏は既に演奏モードに入ってしまってたようで、厳しい顔つきになっていてドキリ…。
だがアブ氏はいいともダメとも言わなかったので、勝手にOKと判断して急いでテーブルに置きセッティングした。

アブ氏が弾き始めた曲は、ウイグル民謡のメドレーだった。
これは前年のGWにウルムチに押しかけていった時に演奏してくれたのと同じクチャ地方の民謡。
弟子さんから借りた楽器は普段アブ氏が使っている物とは比べ物にならない程音質の良くないドタールだったが、
個室に響き渡る声量は去年の時と変わらずすごかった。きっと他の個室にも聞こえていたに違いない。

15分以上にわたる長さの民謡メドレーが終わり、次に弾きだしたのは私は初めて聴く曲だった。今度は歌なし。
初めは軽くつま弾くような感じで始まり、徐々に力強さが増してきて、あるポイントから一気に早弾きへ!
熱く激しい右手のストロークと目にも止まらぬ早さの左手指の動き。
う〜〜〜ん、アブ氏らしさ満載!!カッコイイ!!!
演奏にはめっちゃ痺れるのだが、実は演奏してる間にレストランの従業員が入ってきて一緒に見学し始めて、
それはまぁいいとしても、その従業員の女の子たちが演奏中に喋ったりしていて、
アブ氏はそれが気に食わないようで演奏中に何度もその子たちの方を見ていて、私はそんなアブ氏の表情を見るのが超おそろしかった。。。
曲のカッコ良さと睨むアブ氏の恐ろしさでドキドキハラハラ。
早弾きパートが終わると最後にもう一度初めの静かな部分を繰り返し、曲は終わった。7分近い長い曲だった。
この『熱い』曲は絶対にアブ氏のオリジナルだなと思って尋ねたらやはりそうだった。

その後しばらくは食事と喋りが続き、再びアブ氏は壁に立てかけていたドタールを手に取った。
そして、さっき従業員が入って来て喋ってたのがやはりイヤだったようで、ドアの鍵を閉めさせた。
弾き始めたのはこれもウイグル民謡で以前に聴かせていただいた曲だった。きっとアブ氏自身もお気に入りなのだろう。
弾き出してすぐ、コワモテなのに気遣い名人な弟子さんが、私が動画を撮りやすいようにと気を遣って
テーブルの食器をのけようとしてついついガチャンと音を立ててしまった。
するとアブ氏はそれに反応して演奏を止めてしまった!あっちゃ〜〜〜!!弟子さんピンチ!
私はびびって一瞬背筋が凍り付いてしまったのだが、アブ氏も一瞬ムッとした表情をしたが弟子さんもわざとやった訳じゃないし
アブ氏はすぐ笑顔になって「アイツったらもう。ねぇ」という感じで私に語りかけ、仕切り直しでもう一度最初から弾き出した。ホッ。

ゆったりとしたテンポでマイナー調のメロディを奏で、朗々と、かつどこか悲し気な響きで歌うアブ氏。
もちろん私には歌詞の意味など全くわからないが、うんうんと頷きながら歌を聴いている人もいた。
私は聴いている間、変わってゆくカシュガル旧市街の姿やタシュクルガンの風景や出会った人々の笑顔等々が頭を駆け巡っていた。
もう今日で大好きなカシュガルともお別れだ。最後に私のためにこんなパーティまで開いていただいて…。
私のすぐ斜め前で力強く歌い続けるアブ氏…。いろいろな事で心がいっぱいになりすぎて、とうとう私は涙腺決壊した。
涙と共に鼻水まで垂れてくるのを堪えるために必死でハンカチで目と鼻を押さえる私。
せっかく演奏してくれているのに鼻をズズッとすする音なんか決してたてられない!
演奏が終わって拍手をして「ラフマット(ありがとう)」と一言お礼だけ言うと私は慌ててトイレに駆け込んで鼻をかんだ(笑)
(今となっては笑えるんだけどこの時は本当に必死だった。ウイグルでは人前で鼻をかむのはマナー違反なのだ)

アブ氏は演奏中私が涙腺決壊していたのが見えていたかどうかは分からない。
が、他の人が結構こっちを見てたから多分トイレに行ってる間にでも「アイグル泣いてたみたい」とか言ってたんだろうなぁ。
鼻をスッキリさせて部屋に戻ってくると、アブ氏が「さぁ、これも食べて」と私を促した。
なんと!あれだけいっぱい料理並んでたのに、トイレ行ってる間に更に料理が増えていたのだった(笑)
しかも、日本人は魚が好きだろうと気を遣って魚料理を…。どこまでも優しい皆さんだ。



記念撮影


(↑卑怯にも自分だけ顔隠してスンマセン…)

カハール君が「アブ氏があなたはカシュガルの何が好きかと聞いている」と言ってきたので、即答で「旧市街!」と答えた。
すると、「何が好きかと聞いたのは、実はあなたに何かプレゼントをしたいと思ったから」だと言う。
いやいや!プレゼントだなんて、このお食事会と生演奏が最大のプレゼントじゃないですか!
「でも何をプレゼントすれば良いのか分からなかったから、ドタールをプレゼントしようと思う」とカハール君が通訳を続けた。
え?初めて出会った時に置き物のミニチュアドタール買って一緒に2ショット撮ったやん〜。アブ氏忘れたのかな?
そう思って「あ、ドタールは持ってます」と答えた。
「そうなの?」「ええ、以前の旅で買ったから…」
「NO!! 君は勘違いをしている。リアル・ドタールだよ!!」

ななな
なななんですって〜〜〜!?本物のドタール!!!???

私があまりにもビックリしすぎて本気でのけぞっている様子を、皆がニコニコしながら見ている。
ひぇぇ〜〜〜〜、なんてこった!あまりにも予想外すぎる。これぞサプライズ!
しかしそのような物をいただいてしまって良いのだろうか…?
一瞬ご遠慮しようかとも思ったが、そこまでして下さるご厚意を断っては失礼すぎるし、皆がいる手前アブ氏のメンツが立たない。
アブ氏は「日本に持って帰られるかどうかだが」と心配してくれている…。
「大丈夫です!日本に持って帰りますっ!!」
そう答えるとアブ氏は即座に「じゃあ明日の朝8時にあの楽器屋で会おう」と言ってくれた。

最後に思わぬビッグプレゼントのお話をいただいて、今夜の宴会はお開きになった。
外に出るともう時計は23時近くを指していた。開始が遅れたとはいえ4時間くらいも経っていた。

アブ氏がホテルまで車で送っていくと言ってくれたが、私は夜のカシュガルを歩くのがとても好きなので歩いて帰ると言った。
ましてや今夜はカシュガル最後の夜。冷めやらぬ心をカシュガルの夜風でクールダウンしたいし…。
だけどアブ氏は「ダメだ、車で送る」と譲らなかった。
カハール君も「歩きたいのなら、一旦送ってもらって後で散歩すれば」と言った。うん、アブ氏には逆らわない方がいいよね(笑)

アブ氏・アブ氏の親友のお医者さんと同乗してチニワク賓館まで車で送っていただいた。
ホテルに着くとアブ氏も車を降りてきてくれて、「明日朝8時だからね」と念押ししてくれた。
帰っていく車を見送って部屋に戻った。いやぁーーー、こんな夜になるとは。。。
最後の夜の散歩をと思っていたが、いっぱいいっぱいでもうその余力は残っていなかった。

結局、お邪魔した家に渡すつもりだった手土産が手元に残ってしまっていた。
そうだ、ちょうど2袋あるから明日アブ氏と楽器屋のクルバンジャン君に1袋ずつ受け取っていただこう。
今夜は日記をつける心の余裕もない。ただただアブ氏と皆に感謝しながら眠りについた。