ドタール奏者との出会い    カシュガル最後の夜は更けて…



アブ氏の演奏が終わり、私はここの店へやって来た当初の目的『ミニチュア楽器を買う』行動に出た。
色々な変わった形の弦楽器なんかもあって初めはそういうのを買うつもりだったのだが、
今日の思い出にはやっぱりドタールしかないだろう!と、ミニドタールを買う事にした。
そういえば、昼間にバザールで冷やかした店でとりあえず値段聞いたのもドタールだったっけ…。
店のおじさん(2人のパパかな)に値段を尋ねてみた。すると返答は「60元」。
おおー、言い値があのバザールの店の3分の1やんか(笑)
それでも60元は関西人的感覚ではちょっと微妙かなと思い、恐る恐る店員君に値切ってみた。
「えっと。。。50元にしてもらうことは出来ないですか…?」
(本来の私ならもっと安い値段から交渉するんだけど、控えめにしてみた)
店員君が言うには、「君には初めから安い値段で言ってる。普通観光客には100元とかで売ってるんだから」。
ふ〜む、なかなか巧い答え方だなぁ。
本音を言えばもうちょっと安くてもいい気はしたが、せっかくの楽しい雰囲気が壊れるのも嫌だったし
初めからバザールの1/3だし、何よりもこんな素敵な経験をさせていただけたのだから
60元でも全然構わないやと思い、そのままの値段でミニドタールを購入した。

突然店員君が、「アブ氏が
『ディナーでもどうですか』と言ってるけど?」と私に尋ねてきた。
ええーーーマジですか!!!めっちゃ行きたいっっ!
でも……。第一に、言葉が通じないのにいったいどうやって過ごせばええんや?
第二に、実はどうしても宿に帰ってチェックしないといけないメールの用件がある。
速攻で宿に帰ってメールチェックだけして戻ってくれば…と思って店員君に「何時までここにいる?」と聞くと
「さぁ?分からないよ」とツレナイお返事(彼はけっこうクールなのだ)。
ああ〜〜困ったどうしよう!と思いもかけないオファーにパニクってしまった挙げ句、
結局「帰らないといけない用事があるから…」とお断りしてしまった。情けない。
後で考えたら、言葉なんてどうにでもなったはずなのに。
これまでだって全く通じなくても家にお呼ばれしてご馳走になったりしてたやん!
っていうか、二人っきりで行くわけないのに会話が困るとか考えた私ってアホすぎる。
メールだって、その時は大事な用件と思ってたけど後になればどうってことない事だったのに…。
でもでも、その時は本当にビックリしてテンパってしまい、判断力を失ってしまっていたのだった。

そろそろ宿のインターネットコーナーが閉まる時間が近づいてきて、
去りがたいこの場に別れを告げなければならなくなった。
最後にアブ氏との2ショット写真を撮ってもらった。
1枚目は普通に2人並んで座った写真だったが、もう1枚とお願いした時、アブ氏は私が買ったばかりの
ミニドタールを抱えているのに気が付いて、彼も床に置いていたドタールを手に取って弾きながら写ってくれた。
なんちゅうエエ人や…!そんな事にまで感激する私(笑)

何度もお礼を言って店を出た。アブ氏、店員君、兄弟君、おじさん達、みんなありがとう!
「ウイグル音楽大好き、カシュガル大好き、またカシュガルに戻ってきたい」と何度も繰り返して言った。
(通訳させられている店員君は最後にはちょっと面倒くさそうだった)
ディナーは残念だったけど、その時は十分満足して胸いっぱいになってホテルへと歩いた。
夕方の人通りの多い時間、嬉しすぎて壊れかけてた私は道中ミニドタールをジャカジャカかき鳴らしながら
フンフンフン〜♪と鼻歌うたいながら歩き、すれ違う人々にビビられたり笑われたりして帰った。

ネットも済ませて部屋に戻り、さっきまでの出来事を思い出し夢心地でぼんやりしていた。
夜になり、大通りをぶらついてファストフードの店に入って夕食を食べた後、
あーあ、やっぱり惜しい事したかなぁとだんだん思ってきて、もう一度職人街まで行ってみた。
もう随分時間がたっていたし、かすかに期待はしていたけどやはり既にシャッターが降りていた。
そうだ、帰国したら今日の写真を焼き増ししてこの店に送ろう。
店の名前も分からなかったので、夜の光にぼんやり映る寂れた小さな看板を写真に撮っておいた。

夜が更けていっても、ずっとミニドタールを眺めながら今日の事を思い出してはニヤニヤしていた。
カシュガル最後の長い1日、白く輝く香妃墓への道から始まりバザール周辺の路地巡りを楽しんで、
ぼったくりタクシーにシッシッの木工細工屋で落ち込んだあとに最後の最後でアブ氏サプライズ!
ほんの数日のカシュガル滞在だったけど、本当に濃い毎日だった。
カシュガルの人々の人なつっこさやホスピタリティをめいっぱい感じることが出来た。
10年近く憧れてきたカシュガルも、今夜でお別れだ。
また絶対にここに戻って来たい…!

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<後日談>
帰国して早速アブ氏のCDを聴いてみた。
すると、ドタールで民族音楽を演奏しているだけかと思っていたら、なんと彼は歌もうたっていた。
当然歌詞の内容なんかは分からないが、かなり『アツい』情熱系テノールヴォイス
それからネットで色々検索してみると、まずYouTubeでアブ氏の動画を続々と発見!
プロモーデョンビデオのようなものでは民族衣装を纏ってやはりアツく歌って演奏している。すげー!!
動画のコメントには「God of Dutar」やら「Master of master」やら「Dutar Hero」などの賛辞が並んでいた。
店での穏やかな雰囲気とは随分印象が違い、眉間に皺寄せて渋い顔で歌ってる。

それにしても有名な演奏家とは言ってはいたが、Youtubeで簡単に見つかるとは本当に驚いた。
便利な世の中になったもんや。ネットに感謝。
そんな方に誘っていただいたディナーを断ってしまってあたしゃホンマにアホや…!
もしあの時店で演奏だけじゃなく歌もうたってくれていたら、
美声フェチの私は大事なメールだろうが何だろうが放っぽりだしてついて行ったのになぁ。
ますます未練がましいこのミーハー女っぷり(笑)

更に検索していると、TIME ASIAやN.Y. Timesで彼のことを取り上げた記事を見つけた。
生まれがカシュガルで、ドタールの演奏技術を買われて若い頃は北京の『中央民族歌舞団』みたいな楽団で
演奏活動をしたりしていたようだが、現在はウイグルの有名な詩人の詩に自作の曲をつけて歌っているという事だった。
殆どの場合バックミュージシャンはいなくてドタールの弾き語り。いわゆるフォークシンガーかな?
(TIME ASIAの記事でも『新疆のボブ・ディラン』と紹介されていた…ホンマかいな)

ちょうど私が出会った日はたまたま、普段活動しているウルムチから故郷カシュガルに戻ってきていて、
馴染みの楽器屋で地元の仲間達と試し弾きなんかをしてくつろいでいたのだろう…。
アブ氏がたまたま戻ってきていて、私がたまたま日本語のない看板の店を選んで入ってみたという
2つの偶然が重なってのラッキーすぎる出来事だったんだなぁ。

<更に後日談>
帰国後、この『因智喜旅遊』の更新記録&独り言のページでアブ氏について語りまくっていたところ、
サイトを見てくれていた方がGWにウイグルに行くと掲示板に書いて下さった。
 「もし自由時間に余裕があったら、あの楽器屋に私が帰国後送った写真を壁に貼ってくれているか
見てきていただけませんか?」とダメもとでメールでお願いしてみたら有難い事に快諾して下さった。
結果をドキドキして待っていると帰国後すぐに連絡していただけた。
残念ながら、写真は貼ってくれていなかった(笑)
しかし、あの店員君と少しお話をしてくれて、私の事をよーく覚えていてくれているとの事だった。
写真送った時に「これはアブ氏が来たら渡して」とアブ氏の分も同封しておいたのだけど、
ちゃんと渡してくれてるのかなぁ兄ちゃん。。。

それから驚いた事に、報告していただいた際に添付してあった店の写真は、
私が訪れたときとは全く別物になってしまっていた!ピカピカの看板、しかも日本語が〜!!
私が行った後の約4ヶ月の間に新しい看板に替えていたのだった。
もし…、もしも私が行った時すでに新しい看板だったとしたら、
私はあの店に入っていなかったかもしれない。「日本語看板じゃない」という天邪鬼な理由で選んだのだから。
これもまた、すごい偶然だったんだなぁと改めて感慨深くなった次第でした。


2008年正月、古い看板。色褪せてエエ味出してるところが気に入って入ってみたわけで…。


2008年GW、鮮やかな新しい看板。「エイサハン ウイグル○工房」との日本語表記あり。
(○の部分が読み取れず)
※提供:motoさん  ありがとうございました!