セラ寺 2      大空に舞え!

薄い空気にゼーゼー言いながらも巡礼路の山道を歩いて「どうしてもやりたかった」のは、
タルチョの布をくくりつけるのと『ルンタ』の紙を空に撒くことだった。
ルンタとは『風の馬』という意味で、5色の小さな紙に馬の絵とお経が描かれていて、
布のタルチョと同様に風に乗って仏法が遠く世界中に広まるように、また願いが叶うようにという祈りが込められたものだ。
この紙のルンタを峠などで空に向けて撒くというのを私もやりたかったのだ。
少し雲が浮かんだ日射しの強い青空にルンタの束を放り上げ、上げた直後にカメラでバシャバシャ連写(笑)
何度もそれを繰り返したが、写真は空に舞ったルンタをなかなかうまくとらえてはくれなかった。
だんだんムキになってきて、祈りを込めるより上手く写真を撮ることにばかりこだわってしまい、
後になってなんだか罰当たりだったような気持ちになった。こんな時くらいは写真の事など忘れた方がいい…。
とはいえ、やはり今あらためてこの写真を見ると、あの日あの時の空や風を思い出させてくれる。
あの澄んだ青空のもとへ導いてくれたさまざまな有形無形の『ご縁』に、心から感謝している。

ちなみに、この文を書くためにネットでいろいろ調べてると、ルンタはチベットに仏教が伝来する前の
土着の信仰・ボン教の時代からあったそうで、それがチベット仏教にも取り入れられたのだとか。
更に、馬は風や速さを象徴するもので、願いごとが速く成就することを意味し、
日本の神社の『絵馬』の馬も祈願成就の象徴という意味があると書いてあった。
日本で古くから馬を神の乗り物として神聖視されていたのが絵馬の起源だそうだが、
偶然か必然かはよく分からないけど思いがけない共通点に非常にびっくりし、そして嬉しくなった。

念願だったルンタを風に舞わせ、タルチョの布を木にくくりつけ、巡礼路の途中だったがここで引き返すことにした。
(本当は道を逆回りするのはよくないんだけど…まぁチベット人でも逆に歩いてる人いたし)
もっと先に行くと『鳥葬場』があるとnimuさんから聞いていて少し興味があったがそこまでは行かなかった。
バスに乗って宿まで帰り、今夜の晩ご飯はnimuさんとのお別れ会。
nimuさんは明日の朝から欧米人数人と一緒に聖山カイラスを巡礼する旅に出る。
nimuさんがずっとラサにいたのはカイラス巡礼のツアーメイトを探していたからだった。
カイラスまでは車をチャーターして行くのだが、1人ではとても高いので宿の掲示板等で同行者を募るのが一般的。
気軽に行けるような所ではないためちゃんと雪山を歩く装備と体力と覚悟が必要で、私なんかにはとてもとても…。
ハイジさんもかなり誘われていたが彼女も断念(彼女はエベレストベースキャンプまで行くことになったが)し、
nimuさんはツアーメイトが揃うまでラサで長いことぶらぶらしていなくてはならなかったのだった。
一通り観光も済ませてしまっていたnimuさんは昼間は宿で旅行記を書いたりして過ごし、夜は私達とご飯食べる毎日だったが
とうとう人数が揃っていよいよ明日出発になった。そんなわけで今日の晩ご飯がお別れ会になった。
和食メニューもあるレストランで豪勢に食べて、淡々としてるのに心はアツくて山が大好きな人との別れを惜しんだ。
ハイジさんもエベレストBCまでのツアーに参加することに決まり、あさって出発する。
小山さんやマナちゃんも帰国し、毎晩夜中まで盛り上がった宿がどんどん寂しくなって、最終的に私1人が残ることになる。
なんで短期旅行の私が最後の1人になってしまうねんトホホ……自由な旅をする2人を心底羨ましく思った。